第51話 エピローグ 風雪を越えて、未来へ

俺は風に髪を乱されるままにしていた。


姉妹たちと身を寄せ合い、互いの温もりを感じながら、小高い丘の上に立つ。強化された視力を使い、来た道を見つめた。


かつての聖都は、今や完全に戦火に包まれていた。断続的な閃光と轟音が遠方から響いてくる。ぼやけた視界の中、曙の明星ルシファーの戦闘兵器が大量に都市へ進軍しているのが見えた。降り注ぐロケットは聖都側の防衛をさらに破壊し、多脚戦車の重砲は都市を耕すように砲撃し続け、ヒューマノイド兵器は侵略範囲を広げていく。


ルシファーの猛攻に対し、凶鳥オミナスは秩序だった撤退を展開していた。


聖都の反対側では、騎士や従者たちが隊列を組んで輸送機に搭乗している。散発的な砲火がルシファーの戦闘兵器を撃破していたが、それ以上の反撃は見られない。


オミナスは教会側への支援を行わず、ルシファーによる教会への攻撃を無視していた。それがオミナス副長マルクスとルシファーとの取引に含まれているのか、俺にはわからない。本来なら、火種を供給する教会が破壊されることはオミナスにとって不利なはずだが、情報が足りず、それ以上推測することはできなかった。


脳裏に浮かぶのは、少女教皇ガーネットと戦闘シスターアンジェリアの顔だ。あの爆発から二人が無事に生還できたのかはわからない。たとえ奇跡的に生き延びたとしても、ルシファーの追撃を逃れるのは容易ではないだろう。もしルシファーの目的が火種の供給を完全に断つこと、さらに火種を生み出せるガーネットを研究対象とすることなら、今ごろ二人厳しい状況に置かれているに違いない。


しかし、これから俺たちが直面する試練も、彼女たちに劣らず厳しいものになるだろう。


「バイオスちゃん。通信チャンネルを監視した結果だけど、ルシファーもオミナスまだ追っ手を出していないみたい。」


メムが報告する。


「質問。バイオス、これからどうする?」


イヴリスを背負ったまま、シーが俺に問いかけた。


「南へ行く。」


俺は答えた。


「まず、この国から離れる必要がある。中立だった教会はすでに陥落した。今やオミナスとルシファーがこの国でやることは、さらに過激になるだろう。俺たちはまだ弱い。今は正面衝突を避けるしかない。南の紛争地帯が、今は最も身を隠すのに適した場所だ。」


「了解。ルートは南。戦闘区域から速やかに離脱する。」


「バイオスちゃん、さっき『今は衝突を避ける』って言ったよね?」


「ああ。俺たちはひとまずあいつらの支配から逃れたけど、ルシファーとオミナスが本当に俺たちを見逃すとは思えない。いくつか考えていることがある。それがうまく実行できるかはわからないけど、少なくとも俺たちの力を強化して、あいつらが簡単に手を出せないようにしたい。そのためには、まず今のうちに国境を越える必要がある。」


陥落した聖都に背を向け、俺は姉妹たちに拳を差し出した。


「行こう、俺たちの自由のために。」


「うん!自由のために!」


「同意。自由のために。それと、ちゃんとおいしいご飯を食べられるように。」


俺たち三人の拳が互いにぶつかり合う。吹雪の中、顔を見合わせて笑い合い、同時に南の方角へ視線を向け、歩き出した。


俺が先頭に立つ。


吹雪はますます激しくなる。それでも、心の中は次第に温まっていく。今、胸の鼓動ひとつひとつが熱を帯び、吹雪がもたらす寒さを追い払っているように感じられた。


ふいに胸に鋭い痛みが走る。アスガードのことが頭をよぎり、リリアの心を裂くような泣き声が耳に蘇る。


「……ふぅ。」


ポケットからナユタが残したタバコの箱を取り出し、その中から一本を咥える。指先に魔法の火を灯す。吹雪に火が何度も吹き消されるが、諦めずに力を込め、さらに多くの魔力を注ぎ込む。数度の試みの末、ようやくタバコに火がついた。深く吸い込むと、鼻腔に甘く、少し苦い香りが広がる。


冷たい風、凍える空気。俺は一歩一歩前へと進んでいく。


ただひたすら、前へ進む。

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