第39話 情報

「情報によると、儀式当日には多くの歌姫派の者たちが都市内各所で集会を開く予定です。事態が悪化しないように、戦闘シスターたちを分散して監視させるしかありません。」


枢機卿エリザベスは淡々と言った。


「こちらの防衛計画をご覧ください。この計画ならば、聖堂へ通じるすべての道をカバーできるはずです。ただし、この状況では、現時点で教皇様直属の数名しか聖堂を守る者がいないことになります。」


「さすがエリザベス、いつもながら手際が良いわね。」


教皇は満足そうに頷いた。


「異議あり。」


二人が合意に至りそうなところで、俺は思わず手を挙げて異を唱えた。


「今、教会内部に曙の明星ルシファーのメンバーが潜り込んでいる可能性がある。どんなに綿密な計画でも、不確定要素があれば抜け穴ができる。それに、歌姫派には奴らが絡んでいる可能性が高い。不安定な要素が多すぎる。既知の脅威は早急に排除すべきだと提案する。」


「シスターバイオス、その点についてはすでに......」


「だが、教皇にはまだ話していないだろう。ガーネット様、イヴリスという名の人物がここに紛れ込んでいるんだ。」


「ああ、最近保護したガリバ大公の娘でしよ?」


ガーネットは少し考えた後、肩をすくめた。


「その点に関しては、枢機卿の判断に従うわ。教義の一つは、助けを求める者を救うこと。だから、私たちは助けを求める者を拒むことはできない。それに、シスターイヴリスは私の知る限り、善行を積んでいる。彼女を疑う理由はない。」


「だが!」


「バイオス、この話はここで終わり。他にも話し合うべきことがあるから。あなたは下がりなさい。」


「……わかった。」


職務室の外に出ると、壁にもたれかかって何か考え込んでいるアンジェリアが目に入った。彼女は俺に気づくと、微笑みを浮かべてタバコを一本投げてきた。俺はそれを受け取り、アンジェリアから少し離れたところでタバコに火をつけた。


「あら、どうしたの?そんな浮かない顔して。教皇様にお断りでもされたの?」


「……お前は相変わらず余裕だな。前に言ってた歌姫の捜索はどうなった?」


「残念ながら、何の成果もありませんでしたね。」


ため息をつきながら、アンジェリアは煙をふっと吐き出した。


「何人かに話を聞いてみましたが、手がかりはまったくありません。誰も歌姫を直接見た者はいませんでした。あの奇跡、あなたがおっしゃっていた『バーチャルリアリティ』のようなものがなければ、歌姫が本当に存在するのかすら疑いたくなります。でも、あのペンダントからの映像と声は非常にリアルでした。正直、私の経験を超える事態で、今とても困っています。それに加えて、さきほどあなたが教皇様たちに報告されていたこと、誰かが教会に潜り込んでいるのですよね?」


「ああ。でも俺の提案は却下された。」


「予想通りですわね。あのお二人はとてもお優しくて、少し甘いところがあるので、リスクを抱えたまま儀式を進めることになってしまいますね。」


「その儀式、一旦中止できないのか?どう見ても歌姫派が儀式を狙って攻撃してくるだろう。」


「そう簡単にはいきません。それは単なる儀式ではなく、教皇様に降りかかる現象のようなものです。私たちはそれを受け入れるしかありません。それに、今、オミナスとルシファーの均衡を保つためにも、教皇様が儀式で産み出すものが必要なのです。」


「……?」


アンジェリアの言葉に、俺は違和感を覚えた。彼女の顔に一瞬浮かんだ期待と欲望が入り混じった表情にも疑念が湧いたが、深く追及する間もなく、アンジェリアは話題を変えた。


「それはそうと、教皇様は儀式が始まると二、三日動けなくなります。その前に街に出かけたいとおっしゃっていますので、護衛はあなたたちにお願いしたいと思います。」


「……無謀だな。敵の全貌も目的も分からないのに、そんなリスクを冒すべきじゃない。」


「分かっています。でも、私たちにできるのは、教皇様のご要望をできる限り叶えることだけです。」


アンジェリアはタバコをもみ消した。


「私は引き続き調査を進めます。あなたも何か方法があれば、ぜひ試してみてください。許可します。」


「……了解。」


せっかく許可をもらったのだから、試してみるとしよう。


じっとしているなんて、俺の性に合わない。


俺は割り当てられた部屋に戻り、アンジェリアからもらったペンダントを慎重に取り出した。ペンダントからは微弱なルーン信号を感じ取ることができる。完全潜行用のポットがないにしても、接続を確立することは俺にとっては朝飯前だ。


目を閉じて、意識を黒い泥の中に沈める。すぐに俯瞰する視点の中で、この都市に散らばる無数の微細な光点が見えた。少し観察しただけで、それらがすべて端末であることに気づいた。まるで蜘蛛の巣のように、各端末がルーン通信で相互に接続されている。俺はそのうちの一つを適当に傍受し、以前聞いた歌と幻のデータを取得した。


そして、この教会都市を包み込む蜘蛛の巣の端に、一つ特別に大きなノードがあった。勇気を出して、そのノードを通じて意識の触手を伸ばしていった。ルーン信号の源流を逆探知しながら、さらに遠くまで延ばしていく。


そして、俺は見つけた。


黒い泥の中に、信号で構成された巨大な花があった。歌はそこから流れ出ていた。教会都市を覆うすべての信号は、この花から発せられていた。俺は意識を伸ばし、その信号で構成された花にアクセスしようとした。


――第八世代バイオコンピュータ、識別コード『六花ヘクサヒードゥロンシステム』。短期間でこれほどの派生モデルができているとは驚きだ。しかも、今回は六つの意識体が統合されているのか。どうやら、歌姫と呼ばれている存在は、この巨大なバイオコンピュータのことだろう。


さらに花の情報を探ろうとした瞬間、脳に鋭い痛みが走った。


六花への接続が切断されたのだ。


慌てて黒い泥の中で振り返ると、跳躍点としていたノードに新たに二つのログインユーザが現れた。




>>サヨ:お久しぶりです、お姉さま。やっぱりここまで追いかけてきたのですね。


>>ミギハ:お久しぶりです、お姉さま。でも、もうこれ以上探らせるわけにはいきません。




双子のバイオコンピュータ、『双葉』の接続信号が俺の目の前に現れた。

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