第32話 双子

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前の話で、双子が主人公を「お姉さま」と呼ぶように変更しました。混乱を招いてしまい、申し訳ありません。

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「油断しました。受信装置が破壊されるとは、さすがお姉さま。」


「油断しました。装備もすべてロストさせるとは、さすがお姉さま。」


「『凄いですね、プロトタイプ。』」


パチパチ、と。双子の一人が、手を叩いた。


「個体の演算能力では負けないと思っていたけれど、やはりコア数では優位に立てません。」


「個体の演算能力では負けないと思っていたけれど、戦況は完全に凶鳥オミナスに傾いています。」


「『タスクを照合し、選択肢を分析。推論開始……完了。相互弁証……完了。結論。価値ある目標を保護し、撤退を推奨します。』」


双子は声をそろえて言った。そして、一人は左に、一人は右に白い翼を広げた。


「……逃がすとでも思っているのか?」


「『あなたには他の選択肢がありません、お姉さま。』」


「今、あなたの背後にあるポッドは私たちの攻撃範囲内です。」


「私たちはもう防御演算を実行する必要はなく、戦闘に集中できます。」


「『お姉さま、私たちを止めたければ、自身のユニットを失う覚悟が必要です。』」


「援軍を待つために時間を稼ごうとしても無駄です。オミナスの騎士たちは戦闘員たちと交戦中です。」


「他のユニットが覚醒するのを待つ時間稼ぎも無駄です。私たちの攻撃速度は、ユニットの覚醒速度を上回っています。」


「『諦めてください、お姉さま。』」


「......ぐぅ。」


おそらく俺の沈黙を肯定と捉えたのだろう、双子は軽くうなずいた。


「ありがとうございました、お姉さま。今回は良い経験になりました。」


「ありがとうございました、お姉さま。またの対戦を楽しみにしています。」


「『では、また会いましょう。そう遠くない未来に。』」


イヴリスを抱える二人の少女の周囲に、発光するルーン文字が浮かび上がり、白いリングを形成した。そのリングはまるで浮力を持っているかのように二人をゆっくりと浮かび上がらせた。二人が去りかけたその瞬間、俺は咄嗟に脳裏をよぎった言葉を二人に向けて投げかけた。


「……一つ質問させてくれ。お前ら、自由を求めないのか?」


双子は顔を見合わせ、首をかしげた。


「この戦場では明らかに曙の明星ルシファーが劣勢だ。そしてお前ら自身もさっき言ったように、今は戦闘員が騎士たちと交戦している。俺が言うのも変だが、今のうちに逃げるのはどうだ?今こそ、自分たちの自由を手に入れるチャンスだ。」


「『自由?』」


まるでその言葉を初めて聞いたかのように、双子はわずかに困惑した表情を浮かべた。


「ディクショナリーを照合中……定義が見つかりません、削除済み。音節の意味、不明。」


「倫理規範を照合中……該当の言葉は禁止事項として登録されています。」


俺の何気ない一言が、二人の少女を長考に陥れたようだった。


「条件判断開始。倫理処理プログラムに移行。入力された言葉『自由』を基に加重演算を実行。」


「加重演算の結果、違反事項を確認。検索を開始。認知、思考、および該当語の解明は全てトップレベル違反に該当。」


「『相互弁証開始……終了。結論、違反行為は処罰基準に達しています。』」


二人の少女は、魔力光を放つ指を互いの頭に向けた。


「処罰プログラムに基づき、演算ユニット『サヨ』のロジック回路および一時の記憶を焼却し、不適切な概念を削除します。」


「処罰プログラムに基づき、演算ユニット『ミギハ』のロジック回路および一時の記憶を焼却し、不適切な概念を削除します。」


少女たちが互いに何をしようとしているのかを理解した瞬間、俺の体に悪寒が走った。


「……っ!やめろ!」


「『実行開始。』」


俺が止める間もなく、二筋の閃光が少女たちの側頭部を貫いた。


まるで糸が切れた人形のように、空中に浮かんでいた双子は首を垂れ、動かなくなった。焦げた匂いと鉄の錆びた匂いが漂い、魔力によって吹き飛ばされた頭蓋は裂け、中身が地面にぽたぽたと落ちていく。


「うっ……。」


無意識のうちに俺は膝をつき、嘔吐感が込み上げてきた。目の前で起きた悲惨な光景だけでなく、その隠された意味に対しても、耐え難いものがあった。


何が起きたんだ?


倫理演算?さっき双子がそう言っていた。「自由」という言葉を聞いた後、二人に何らかのシナリオがトリガーされたようだった。なるほど、そういうことか。この二人は行動規範に関わる訓練を受けていたんだ。もし違反の可能性がある場合、入力された内容をお互いに検証する。それが「相互監視型ミューチュアルサーベイランス」だというわけか。でも、どうして?


ああ、分かっている。きっと俺たちのせいだ。プロトタイプである俺たちが脱走したせいで、曙の明星ルシファーは後続機に対して追加の訓練を施し、自罰と弁証のメカニズムを構築したんだ。


腹の底から湧き上がる怒りが、少しずつ吐き気を追い払っていく。気がつくと、俺の両手はすでに強く握り締められていた。


ふざけるな。


ふざけるな、お前たち、クソ野郎どもが。


「……ああ。」


考えることすら許されないのか。憧れを抱き、理解しようとすることさえ、駄目だというのか?


「ああ……ああ。」


俺は声にならない嗚咽を漏らした。俺のせいだ。だから、この双子はこんな目に遭うことになった。


違う、罠に落ちるな。奴らこそが加害者なんだ。


「ああああああああああああ!!」


お前たちは、一体どこまで命を愚弄するつもりなんだ。


曙の明星ルシファーアアァ——!!」


気がつけば、俺は自分を生み出した、親であるその名を叫んでいた。


俺の感情が最高潮に達したその瞬間、双子の少女たちの身体がかすかに震えた。裂けていたはずの頭部は、魔力の光を放ちながらゆっくりと癒えていく。まるで時間が逆行するかのように、双子の頭蓋は元の形に戻った。


目の前に再び現れたのは、相変わらず無表情で、まるで感情がすべて洗い流されたかのような顔だった。


「っ。」


「再起動、完了。シャットダウン前の記憶バックアップを検索……成功。状況再構築……成功。」


「現状の環境を再確認。検索結果……記憶に不適切な概念は存在しない。リセット完了しました。」


「『任務続行。目標、価値ある目標を撤収します。』」


「……ごめん。ごめんな、お前ら。」


拳を握りしめ、自然とその言葉が漏れ出た。しかし、二人の少女はただ首をかしげるだけだった。


「疑問。お姉さまから『悲しみ』と『怒り』と定義される感情が検出されました。何かあったのですか?」


「疑問。『ごめん』は、謝罪すべきことがあった場合に使う言葉と定義されています。お姉さまは何か謝罪すべきことをしたのですか?」


「待っていろ。絶対に何とかする。」


決意と義憤ぎふんを胸いっぱいに詰め込み、俺は双子を強く睨みつけた。しかし、やはり二人の少女は理解できないようだった。


「おかしいですね。理解できません。お姉さまは変なことを言っていますよね、サヨ。」


「おかしいですね。理解できません。もしかしたら、時間を稼ぐ戦術かもしれませんね、ミギハ。」


「『さすがは、お姉さま。』」


「では、撤退しましょう。」


「では、お別れですね。」


「『バイバイ、お姉さま。』」


そう言い残し、二人の少女は光を引きながら急速に上昇し、空の彼方へと飛んでいった。そして、俺はただ茫然とそれを見送るしかなかった。


こうして、名ばかりの「強制捜査」と呼ばれる戦いは終わりを迎えた。

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