第二章 殻を破る

第21話 プロローグ オミナスの囚人

「出ろ。戦団長チャプターマスターがお呼びだ。」


機械的な作動音を伴う命令が下されると、牢の鉄扉が開いた。


俺は隅で縮こまっているシーとメムに視線を送り、安心させる。牢を一歩出ると、すぐに両手に手錠がはめられた。冷たい金属が肌に触れると、思わず体が震える。


「こっちだ。ついて来い。」


命令に従い、俺は歩を進む。薄暗く、わずかな明かりしかない長い廊下。重く金属のぶつかる音を立てる足音。黙々と歩きながら、俺は視線をちらりと動かし、俺を護送している者たちを観察した。


金属の巨人——それが最初の印象だった。


彼らは全身を重厚な鎧で覆った。イノシシを連想させるヘルメットの下からは呼吸音が聞こえ、目の位置にある隙間からは赤い光が漏れている。分厚い装甲の下からは微かな機械の作動音がし、太い腕には無骨な、もはや機関砲と呼べるほどの口径の銃。円弧型の巨大な肩当てには、白いペイントで鳥のようなマークが描かれていた。


鎧のデザインは中世の細やかな造りの騎士甲冑とは違い、よりモジュール化され、効率を重視したパーツで構成されている。俺の抱いていた騎士のイメージとはかけ離れ、この集団の装備は重厚で、実用性を最優先しているようだった。


背後に硬い何かが押し付けられた。おそらく銃口だと気付き、思わず唾を飲み込んだ。無言の圧力をかけてくる巨人たちに促され、俺は足を速めるしかなかった。


ついに、俺は長い廊下の突き当たりにたどり着いた。門を守る重装甲の騎士たちが、分厚い扉を押し開ける。扉の向こうから漏れた光が眩しくて、思わず目を細めた。


そこは天井が高く、広々とした部屋だった。巨大な窓から白い光が差し込み、床には赤い絨毯が敷かれている。大きな机にはさまざまな書類が散らばり、ヘルメットを脱いだ戦士たちが机の横に整然と立ち並び、待機していた。俺はすぐに、机の後ろに座っている人物がこの部屋で最も地位の高い者だと理解した。慎重に、その人物を観察する。


まず目に入ったのは、ふんわりとした巻き髪の黒いロングヘア、褐色の肌、そして鷹のように鋭い緑の目だ。大きな傷跡がその顔を横切っていた。椅子に座っていても、かなりの巨体だとわかる。その人物は、二人分の大人の身長ほどもある大太刀が握られており、机の向こうからわずかに興味を持った視線で俺を見つめている。


「ファスティオラ戦団長。捕虜を連れてきました。」


「ご苦労だった。下がってよい。」


朱唇を軽く開き、ファスティオラと呼ばれた巨大な若き女戦士が、低く魅惑的な声で言った。


「はっ!」


簡潔な返事の後、俺を護送していた重装甲の騎士たちは退出した。背後の扉が閉まると、ファスティオラは口を開いた。


「今日、諸君を集めたのは、先日の掃討作戦についてだ。アスガード。」


「はっ。」


「よくやった。新たに編成された応変部隊は大いに役立った。情報通り、あの研究所には大量の無人兵器が存在していた。もしそれらが稼働していたら、こちらの損害も甚大だっただろう。トリニティシステムを無力化したおかげで、今回の掃討は順調に進んだ。感謝する。」


「もったいないお言葉です。」


返事をしたのは、若い男性の騎士だった。柔らかく巻かれた金髪に、目元には泣きぼくろが一つ。着ている無骨な重装甲とは対照的に、その騎士の顔つきはどこか穏やかな雰囲気を漂わせていた。


「戦団長のそのお言葉を聞けば、ヘクトリもきっと喜ぶでしょう」


「……ヘクトリか。彼女の犠牲は、戦団にとって大きな損失だ。その犠牲を無駄にしないためにも、急ぎ話し合うべき議題がある。」


戦団長の目が再び俺に向けられた。


「初めまして、トリニティシステムの主制御モジュール、バイオス。私は兇鳥オミナスブラッククロウ戦団の戦団長、ファスティオラだ。今日は君たち三姉妹の今後の処遇を決定するためにここに呼んだ。」


「っ」


俺が返答する間もなく、ファスティオラは視線を若き騎士、アスガードへと向けた。


「今回の作戦で君は一等功だ。まずは君から発言してくれ、アスガード。」


「はい。私見を述べますが、トリニティシステムを我々の管制下に置き、戦闘編成に組み込むべきだと考えます。」


「ほう?理由を述べよ」


曙の明星ルシファーはトリニティシステム、すなわちバイオコンピューターの運用を普及させるでしょう。ヘクトリの情報によれば、トリニティシステムはその有用性を十分に証明しています。戦闘面ではルシファーが有意なデータを得られなかったかもしれませんが、学術研究においては大きな成果を挙げています。敵の目的を考慮すれば、後継機が生まれる可能性は高い。今後攻略する研究所には、同様のシステムが配備されていると仮定すべきですし、バイオコンピューターを搭載した戦闘兵器が出現することも考えられます。敵に先んじるためにも、捕獲したトリニティシステムの研究と運用が必要です。」


「うむ。一理ある。バイオコンピューターを搭載した兵器、確かにあり得る話だ。」


「はい。そのため、彼女たち三人を戦団に組み込み、新設されたバイオコンピューター対策部隊に編成することを提案します。」


「ふむ。では……」


「わしは反対じゃ、お嬢。」


少しばかり安堵した瞬間、戦団長の言葉を遮るように、低く重々しい声が響いた。アスガードの顔がわずかに引きつり、発言者の方に視線を向けた。


「……マルクス副長。」


声を上げたのは、筋骨隆々とした重装甲の老者だった。背筋をぴんと伸ばし、白髪が目立つその姿。皺の深い顔には、右目を横切る痛々しい傷跡があり、側頭部には鋼板が埋め込まれていた。


「その三人の娘は聖胎から生まれた者じゃ。古来の慣わしに従い、浄火の儀を行い、封じて焼却するのが筋というものじゃろう。」


マルクスと呼ばれた老者は、無造作に髭を撫でながら、恐ろしい提案をあたかも世の常のように口にした。表情には余裕があり、敵意は感じられなかったが、俺の直感はこの老者が俺たち三人の破滅を求めていることを告げていた。さっきまでの安堵感は急速に消え失せ、心臓が激しく鼓動し始め、背中に冷たい汗が滲み出た。


「副長!彼女たちはただの被害者です!そんなことをするのは……」


「待て、アスガード。君は先ほど意見を述べた。今は他の者の話を聞く時だ。さて、爺や、なぜ彼女たち三人を焼却せねばならんのか、語ってくれ。」


戦団長ファスティオラは興味深そうな表情で、老者に話を促した。


「ほかに理由など必要ないじゃろう。お嬢もご存知のはず、我ら兇鳥オミナスの存在意義を。」


「ふむ。そう言われるともっともだな。我々の創設の趣旨と慣例に照らせば、確かに焼却が正しい選択かもしれん。」


「正しい選択だなんて!我らは……」


「騎士道を持ち出してくれるな、若造。」


老者、すなわちマルクスがアスガードの言葉を遮った。


「それは副次的なものに過ぎん。我々が余力を持ち、為すべきことを為すためのものだ。教義を思い出せ、第一条に何と書かれている?我らオミナスの最優先事項、すべての指針であり根幹とは何であるか、忘れたとは言わせんぞ?騎士ナイトアスガード。」


「……聖体を埋葬し、聖女様に永遠の安息を誓う」


「その通りじゃ。我らの祖先は、かつて聖女様から頼まれ、埋葬の誓いを立てた『穢れた騎士』と呼ばれる者たちだった。しかし、先祖たちは聖体を奪われるという罪を犯し、その結果、聖体は四散し、今もなお安息を得られぬ。聖女様に安息をもたらすために、告死の兇鳥オミナスが存在する。だからこそ我々がここにいるのじゃ。」


老者の独眼が鋭く光る。


「それがどのような形であれ、いかなる悪用がされようとも、どこに隠されていようとも、聖体を見つけ出し、浄火で埋葬することこそ、我らオミナスの最初にして最後の使命じゃ。最近では多くの若者がこの事実を忘れ、自分を正義の味方だと勘違いしとる。」


「っ」


「まあ、若者が美しい娘を助けたいと思う気持ちはわからんでもないがのう。聖女様の聖体から生まれたからには、姿もそれなりに見目麗しい。わしのように年を取りきった者には何の影響もないが、若者には刺激が強かったかの?」


「副長っ!」


「まあまあ、爺や、アスガードをからかうのはその辺にして、実際の問題を話してくれ。もしその三姉妹を我らの戦団に組み入れると、どんな不利益がある?」


「……まず、教義派が黙ってはおらんじゃろうな。裁判廷が開かれるのは時間の問題じゃ。彼らは以前から我らのやり方に異議を唱えておる。天使型の聖体を浄化せずに抱え込むなどと噂が広まれば、いつ兵を出して討伐に来てもおかしくはない。」


「天使など。彼女たちはただの演算モジュールで、戦闘員では……」


「甘いわ。負傷していたとはいえ、彼女らはネームド戦闘員『星の雫ナユタ』を撃破した。説明は不要じゃろう、星を冠する戦闘員がどれほど厄介な存在か。あの三人の娘たちは彼女を打ち倒した。『覚醒』せぬ限り、それは不可能なことじゃ。」


「それでも彼女たちは生きている人間です!そんな……」


「それがどうした。お前はこれまでに一人でも戦闘員や聖体の畸形きけいを許したことがあったか?常に殲滅し、浄化してきたはずじゃ。なぜ今回だけが違う?だから言ったろう、お前はまだ若い。彼女たちの境遇が哀れであろうが、その存在自体が罪なのじゃ。その可憐な外見に惑わされるな。聖胎である限り、我々はただその義務を果たすのみ。」


「っ」


老者の言葉を聞いたアスガードは、奥歯を噛み締めたものの、一瞬言葉を失った。ファスティオラはそんな若い騎士が口を閉ざすのを見て、肩をすくめた。


「二人の意見はよくわかった。それでは……」


澄んだ緑の瞳が俺に向けられた。まるで俺の心の奥底を見透かそうとしているかのようだ。


「君はどう思う? トリニティシステムの主制御モジュール、バイオス。」


この瞬間が、命運を分ける分水嶺ぶんすいれいになるかもしれない。乾いた唇を軽く舐め、思考を巡らせ、俺は意を決して口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る