第5話 メモリちゃん

俺たちのチームに新しいメンバーが加わった。


自称「記憶モジュール」というこの新メンバーに、俺は「メモリちゃん」というニックネームをつけた。


んで、俺の妄想では、メモリちゃんは柔らかい雰囲気の本好き少女。黒髪ストレートで、泣きぼくろがチャームポイントだ。


ちなみに、CPUちゃんはクールで銀髪ショートの少女という設定。


俺がそう決めたんだからな。


とにかく、メモリちゃんはすでに多くのことを記憶するように訓練されていて、提示されたキーワードに基づいて素早く答えを返してくれる。


メモリちゃんが加わったことで、管理者から出される訓練問題も複雑になり、より現実味を帯びてきた。


例えば、



>>管理者:戦前の補給段階で以下の物資が申請されている。5210TKYE00012 * 3、1100TKYEC0817 * 5、7942CVSEQ0094 * 10。システムにある現存量を確認し、物資の管理を実行しろ。補充リストと管理番号を生成し、この要求にかかる金額と補充に必要な時間を算出しろ。


>>俺:5210TKYE00012、1100TKYEC0817、7942CVSEQ0094に基づきデータを照会。物資マスターデータから品番、品名、単位、単価、補充期間を取得し返答。倉庫在庫量を照会し、現有在庫を返答。それぞれを配列に記憶。


>>メモリちゃん:

物資データ = [{5210TKYE00012, 銃機, EA, 2000, 3}, {1100TKYEC0817, 雷管, EA, 50, 3}, {7942CVSEQ0094, 釘, PK, 200, 1}]

倉庫在庫データ = [{5210TKYE00012 3}, {1100TKYEC0817 11}, {7942CVSEQ0094 9}]


>>俺:管理番号ルールを取得。補充時間の定義を取得。


>>メモリちゃん:品番 - 品名 - 単位 - 申請数。該当リストの最大補充期間に基づき設定。単位は日。


>>俺:演算モジュールが返答した管理番号、総額、補充予想時間を記憶。


>>メモリちゃん:入力待ち。


>>俺:(取得したデータをCPUちゃんに送信)

各品目の品番を確認し、申請量と在庫量を比較。申請量が在庫量を超えた場合、その分を取得し、管理番号を記憶モジュールに返答。単価を掛けて総額を算出し、その結果を返答。


>>CPUちゃん:実行完了。


>>俺:(結果を管理者に返答)


>>管理者:(報酬を与える)



こんな感じだ。


送られてくる問題は、もうメモリちゃんに細かいことを確認しないと処理できないレベルになっている。さらに、各問題集に含まれるリストの数が膨大で、メモリちゃんの記憶に頼らないと処理時間を超えてしまう。まずは問題の解法を素早く分析し、できる限りメモリちゃんからデータを取得し、その後CPUちゃんに解答を求めるという流れだ。


とにかく、俺たちの新しい仲間も一生懸命だ。


しかし、これらの問題を通して、自分が置かれている環境について新たな推測が浮かび上がってきた。


もしかして、俺たちは軍事関連の施設にいるのではないか、ということだ。


メモリちゃんは制約や認知能力の制限があるため、答えられる内容は限られているが、頻繁にメモリちゃんを訪問することで、少しずつ外の世界の輪郭りんかくが見えてきた。


まず、軍事的な用語が出てくる。次に、大量の後方支援や補給に関する演算が要求されている。俺たちは、おそらく軍事研究施設で、補給演算などの業務を処理するために作られたものではないかと思う。あるいは、今後そのような用途に使われるかもしれない。大量の補給計算や、火薬の匂いがするような専門用語から考えると、この推測はおそらく間違っていないだろう。


とはいえ、残念なことに、外の連中には最低限の警戒心があるようだ。メモリちゃんは多くの用語を記憶しているものの、それを回答することが許されていない。例えば、先ほどの戦前補給段階が何かを尋ねると、メモリちゃんは「権限が不足しています」と返答する。また、俺たちが何者なのかを尋ねても、メモリちゃんにはその知識が与えられていないようだ。


いずれにせよ、何もかもが気に入らない。もし俺たちが軍事や戦闘に使われるのだとすれば、死ぬ可能性が高い。


前世での自分の死に方は覚えていないが、この世界、この状況で、暗闇の中で死ぬなんてことはまぴらごめんだ。せっかく自分の意識を持ち、新しい世界に転生したような状況なのだから、俺は自由を手に入れたい。そして、一緒に苦楽を共にしている仲間たちにも自由を与えたい。


もし機会があれば、何とかして彼女たちと一緒にこの状況から脱出しよう。


俺はそう思いった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る