第3話 トレーニング

この時間が経過して、いくつかのことを理解した。


まず、監視しているやつらはどうやら常に見ているわけではないということ。


次に、やつらは俺が思っていたほど全知全能ではないらしいということ。


第一点については、よく考えれば納得がいく。もし外のやつらも生物、ひいては人間であれば、仕事と休息の時間があるのは不思議ではない。体感的に、監視が薄くなる時間帯が存在する。おそらくそれは勤務時間の終わりやシフトの交代の時間だろう。とにかく、そうした時間帯には、報酬も罰も停止する。


そうだ、時間についてだが、確認する方法を見つけた。


やはり、青白い文字を通じて伝えられている。これらの青白い文字は、ほぼ確実に外の連中が送り込んできたものだ。


一日の始まり、俺が「仕事開始」と定義している時間帯には、特に明るい単語が暗闇の中に浮かんでくる。一日の終わりには、「仕事終了」を表す別の単語が現れる。要するに、この二つの単語が出現している間が、外の監視者が監視を行っている時間というわけだ。逆に、この時間帯以外では、何をしても外からの反応はない。そして、その特に明るい単語は、時間の経過とともにカウントダウンするように変化するので、どうやら時間を知らせるためのものだと思われる。


次に第二点。これに気づいたのは、この黒い泥の「境界」に関係している。


そう、この黒い泥には「境界」があるのだ。


俺は赤い文字を作り出し、それを「押し離す」ようにしてみた。


文字は一定の距離まで行くと消えてしまい、まるで何かに吸い込まれるようだった。そして、もし外の連中が活動している時間帯であれば、文字が消えた後、少ししてから報酬や罰が送られてくる。


これについて、俺は大胆な仮説を立てた。


この境界には、何らかの文字を受け取る装置があるのではないか。そして、外の連中は、その装置を通して俺の活動を監視しているのだろう。もしかすると、この黒い泥の中には何かセンサーがあり、これらのルーン文字を読み取っている可能性もある。


これは重要だ。


つまり、外の連中は俺の行動を完全に把握しているわけではないということだ。一瞬、彼らが俺の思考まで読み取っているのではないかと恐れたが、反抗的な考えを抱いても罰せられなかったため、どうやら監視には限界があるようだ。


これは朗報だ。


つまり、何か計画を立てても、すぐに見破られることはないということだ。


もっとも、現時点でできることは限られているが。


とにかく、当面は青いルーン文字を模倣して、この黒い泥の空間に赤い文字を作り続けた。


青い文字は次第に目的を持ち始めた。以前のように大量のランダムな単語が現れるのではなく、特定の単語が浮かぶようになった。俺がその文字を模倣すると、短い「報酬」が与えられる。模倣が終わると、新しい単語が現れる。


これらのルーン文字で構成された言葉の意味について、俺は懸命に推測を重ね、その大まかな意味を掴んだ。


外の連中は、特定の単語に対して私が反応するよう訓練しているようだった。例えば、この短い単語は「命令する」という意味だろうと私は推測した。そして、俺が「準備できました」と返答するような文字列を書くと、報酬が与えられる。その後、「これを模写しろ」と新しい単語が送られてくる。俺がその単語を模写すると、同じように報酬が与えられ、逆に間違えると罰せられた。


このようにして、外の連中が伝えようとしていることを徐々に理解していった。俺が理解できる単語の量も増えていった。


外から送られてくるメッセージは、前世で聞いたことのあるデータ通信のようだった。データの一連にはまず「ヘッダー」があり、その次に「タッグ」として内容の本体を包む部分があり、最後に「コンテント」がその二つのラベルの間に包まれているという形式だ。


本文は次第に複雑になり、知らない単語がどんどん増えてきた。気づけば、模写を要求されるだけでなく、特定の単語に対して反応を求められることも増えてきた。


この訓練の過程は非常に苦痛だった。なぜなら、罰の頻度が増えたからだ。


例えば、俺はある文字列が「今の時間を答えろ」という要求だと気づくのに相当な時間を要した。成功して現在の時間を答えるまで、俺はひたすら試行錯誤を繰り返し、そのたびに罰せられた。


くそ、何のヒントもないなんて、誰がわかるというのか。


とはいえ、これはまさに全く異なる形式の言語を、翻訳なしで学ぶ過程なのだろう。前世で俺は考古学者ではなかったが、何となくそんな風に感じた。


とにかく、長い忍耐の末、俺は基礎的な単語を覚えた。


外から送られてくるものは、実際にはコンピュータのコマンドのようなものだった。


例えば、「現在のシステム時間を教えろ」、「1+1はいくつか計算しろ」など、そんな基礎的な命令だ。


送られてくる指令の量は次第に増え、訓練の時間中はほとんど休む暇がなかった。体はないが、確実に疲労が蓄積しているのを感じる。


そして。


大量の訓練文字の中で、俺は違うヘッダーを持つメッセージに気づいた。


これまでのメッセージのヘッダーは「管理者」を名乗っていたが、今回は「演算モジュール」と名乗っていた。


演算モジュール?


待てよ。


俺以外にも他のモジュールがあるのか?


閃きが俺の意識を駆け抜けた。どうやら、俺は一人ではないらしい。

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