第一章 ようこそ、異世界へ

1ー1 召喚

僕、こと梶原優人かじわらゆうとは青林高校の一年生で普通の生徒だ。

 学力は平均、友人も最低限はいて、運動は得意。

 でも、他には特徴のない生徒だ。


 まあ、強いて言うなら趣味が読書のインドア派のくせして運動神経がいいことくらいだろうか。

 ちなみに、この前あった体力テストは確か、学年3位だった。

 これは自慢だ。




 僕は当たり前というものが好きだった。

 当たり前の日々。

 当たり前のように朝目覚めて朝食を摂り、歯磨き、そして身だしなみ。

 全部確認してからいざ外へ。


 変わり映えのない通学路を歩き、いつものように友達と挨拶を交わして門をくぐる。


 そして面白みのない授業を耐え抜いて放課後に外の景色を横目に読書する。


 そんな何気ない日々を愛していた。



 決して友人が多いわけではない。


 他クラスにまで足を伸ばして必要性を問いたくなるほどの多くの友人を抱え込む奴らと比べると、クラス内でハブられない程度の交友関係ーーつまり必要最低限の友人しかいない僕の周りは決して賑やかとは言えないだろう。


 でも数人の仲の良い友人と2人の親友。

 それだけで僕の日常はいつも群青色に染まっていた。


 苦労が無いわけではない。

 それでも、充実した毎日の『当たり前』がこの上なく大好きだった。






 そしてその日々が終わりを告げたのが、今日という日だった。



 今は終礼直後の放課後、まだほとんどの生徒が教室に残っている。

 教室に変化が起こったのはそんな時だった。




 変化は一瞬。


 教室を包んだ眩い光、足元に浮かぶ謎の紋様、クラスに響く驚愕の声。


「優人っ!!」


 慌てて手を伸ばす親友の姿を最後に、徐々に襲ってくる謎の浮遊感を感じて僕は意識を手放した。



















「…………!!」


「………」


「………」


「ーー!」


「ーーーではないのか!?」


 誰かの声が聞こえる。

 多分、知ってる人の声。


 なんだか体が冷たいな。

 そういえば何してたんだっけ?

 よくわからないことを考えているうちにだんだんと意識が浮上してきてーー



「……ふぇっ?」



 変な声をあげた。

 自分からこんな変な声が出たことに驚いた。

 こんな声を出すのって女子の特権かと思ってたのに。


「え?あっ、えぇ?ば、ばば、はっ?」


 変な声が止まらない。


 いや、落ち着け何?これ?……ああ、夢か。

 勝手にそう結論づけてペチペチ頬を叩いてみる。


 夢じゃない?!え?えぇ……?



 さっきから変な声しか出ない自分が馬鹿みたいで奇声を上げることで落ち着いた俺は視線を周りに向ける。


 辺りを見渡すと、自分の周りには見るからに不機嫌そうな表情をしたクラスメイトが立っていて、誰かに文句を言っているようだった。

 俺のように倒れている人はおらず、みんな立っていた。


 それにしてもどこだ?

 床は木ではなく白一色の石のような物でできている。

 所々に細かな彫刻が施され、日本では見られない異種の美しさがあった。


 寝ていたからなのか身体中が痛い。

 美しい部屋ではあるのだが、石でできている。

 寝ていたら痛くなるのは当然だな。


 足元には見覚えのある謎の紋様もあった。


「蓮斗?」


 俺は咄嗟に隣にいた友人の名前を口にだす。


「ああ、やっと起きたのか。いつまでも起きないから、そろそろ起こそうかと思ってたんだぞ」


「何があったんだ?」


 質問を飛ばすと友人は困ったような表情をして、その後、何か言おうと口を開きかけるが結局声にならず、


「ん〜」


 と唸った後


「よく分かんねぇな」


 と言った。


「とりあえずアイツらの話聞いてみろよ」


 蓮斗が指し示す向こうでは我らがクラス委員長、宮原拓人の姿があり、中央の壇上に佇む誰かと何か話していた。



「つまり、僕たちはこのエルリア王国に勇者召喚で呼びだされていて、あなたたちは僕たちにスキルを与える代わり勇者として働いてほしいということですか?」



「ああ、その通りだ。だが、我々は勇者に魔王や悪魔を倒して欲しいわけではない。簡単に言うと召喚は数十年に一度行われている儀式だ。本来は1人を召喚するのだが……まあ、何か手違いでもあったのだろう。多くの勇者が召喚されるのはこちらとしては喜ばしいばかりだ。」



「では、僕たちに何をしろと?」


「主に国の治安維持を考えている。それから、少し気になることもあってな、それについても任せたい」


「もしかしt……」


「そんなことよりもよォスキル先に貰おうぜ。どうせ他の奴らもそっちの方が気になるんだろ?」


 宮原と国王の会話に口を挟んだのは不良、西田翔吾にしだしょうご

 もう少し空気読めよというような雰囲気になったが他の生徒も話に飽きていたのは確かなようで、西田の言葉に頷いている者もいる。



「ハハハッ、うむ、それもそうだな。話は後にして先にスキル判定をやろうではないか。アレをここにもってこい」



 国王の機嫌を気にしていた宮原も良かったというふうに息を吐いた。

 そして部屋の隅にいた人たちが四角い何かが乗っている台を押してきて、魔術具?と言うのだろうか、そんな見た目をしたものを僕らの前で静かに止めた。

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