1ー2 スキル判定

「では、誰からでもいいのでこちらに来て、魔術具に手をのせてください」


 四角い箱のような魔術具を持ってきた少女が声をかける。

 しかし、みんな前に出ず、お互いに視線を交わし合っている。


「おい、お前からいけよ」


「いやでも、出席番号順に行った方が……」


「私は最後でいいかな〜」


「誰かさっさといけよ!」


「でも…」


 ガヤガヤと皆が口々に喋り始めた。

 ちなみに目が覚めた時、あまりにも静かだったのは一度皆で騒いだ後だったかららしい。

 古宮が言っていた。

 俺は少し離れたところからその様子を眺めていて、ふと気になって国王の方に視線を向けると、その国王がそばに控えていた兵士に何かを伝えているのが視界に映った。

 そして、


 パチッ


 何かの爆ぜるような音がかすかに響く。




 そして部屋に火柱が立つ。




 顔に熱波が吹きつけ、皆がその光景に目を見開く。

 今までの喧騒はなかったかのように静かになり、部屋に響くのは炎が燃える轟ッという音だけだった。


「我々も暇ではないのだ。早く終わらせてくれないだろうか?」


 静寂の戻った部屋に声が響くとみんな我先へと魔術具の前に列を作った。

 文句を言う者は誰もいなかった。

 あの西田でさえ青ざめた顔で小刻みに震えていた。



『逆らうことはできない』


 このことに誰もが気付いたんだろう。

 本能でも。

 理性でも。


 1番初めに測定したのは赤木。

 魔術具に手をのせると魔術具が光り、魔術具を持ってきた少女が声を上げた。


「【魅了チャーム無効】です!」


 部屋に沈黙が訪れる


 絶妙に微妙なスキルを引いたな。かわいそうに。

 耐性じゃなくて無効だった分まだマシか?

 王の横の王妃っぽい人にも可哀想な人を見る目で見られてんじゃん。




 それからも順に判定が行われて、ついに僕の番が来た。


 魔術具に手をかざすと他の人と同じように光が迸り、横にある別の魔術具に文字が浮かび上がる。


『【進化】』


 少女がスキル名を叫ぶと周りに集まっていた兵士から困惑の声が上がった。



「進化……?」


「なんだそれは?」


「聞いたことがないな」


「いや、だが、名前を見る限り悪くはないようだが……」


「今時、未発見のスキルがあるとはな」


 ……ところで兵士たちよ、仕事を放ってスキルの鑑賞なんてしてていいのか?見るからに王様不機嫌だが?


「勇者様、ステータスボードにスキルの効果が記されております。『ステータス』と唱えてくださいませ」

 さっきの王妃様の声がが壇上からとんできた。


「ステータス」


 僕が呟くと目の前に青みがかった半透明の板が現れる。ステータスボードは自分にしか見えないようで他の人が『ステータス』と唱えても何も見えなかった。


 えーと、僕のステータスは……


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 《ステータス》

 【梶原 優人】


 種族 原獣種


 LV1


 HP:9

 MP:36

 攻撃:7

 防御:8

 体力:11

 速度:6

 知力:6

 精神:8

 幸運:4



 スキル……進化【天候操作】

 効果

 進化条件を満たすことでサブスキルがさらに上位のものへ変質する

 サブスキルの進化の系統は初期に入手したサブスキルの系統となる


 天候操作

 天候を自由に変化させることができる

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ……なんか弱いな

 いやまあ、今から進化するんなら弱くて当然なのか?


「それでは次の方」


 いや、無視すんなや。

 なんか反応してくれよ。



「おぉぉぉおおおおお!!」


 一際大きな歓声が上がり、各々のステータスを見ていた生徒達が魔術具の方に目を向ける。

 見ると、西田がこちらを小馬鹿にするような目で見ながら、腕を掲げてダサいポーズをとっていた。


「なんだったんだ?」


「西田が強いやつを引いたらしいぞ。【破壊】ってやつらしい」


 いや、なんだよ。

 名前からしてもう強いじゃん。

 スキルに期待しすぎた分だけ僕のメンタルボロボロなんだけど。


 そしてーー


「宮原拓人、スキル【再演】」


 くううぅぅぅぅぅぅ

 なんだそれええええええええ!!!



 効果は他の人のスキルを何度も見て、時間をかけて解析することで、解析したスキルを再現できるらしい。

 つまりスキルのコピー。

 つまり正しくチート。



 いいなぁ。

 羨むのは良くないとわかっていても羨ましいものは羨ましかった。

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