第25話



 事情聴取が終わった椿と政宗を、井田邸まで成孝と秀雄が迎えに来た。


「事情は聞いた。大変だったな」


 成孝が椅子に座っていた椿と政宗に向かって言った。

 そして秀雄が、椿に手を差し出しながら言った。


「お疲れ様、椿。とにかく戻ろう」


 椿が手を取ると、秀雄が立たせてくれた。

 政宗も立ち上がると椿の反対の手を取った。


「秀雄、今日の椿の相手……俺なんだけど?」

 

 秀雄は「立たせただけだろう?」と言った。そんな二人に成孝が「止めろ」帰るぞと言って歩き出したので皆も成孝の後に続いた。だが、二人とも手を離してはくれなかった。


 自動車に到着すると、秀雄が運転席に乗り、政宗が助手席に乗った。


(ああ、秀雄様が運転をして下さるのね……)


 椿は成孝の乗り込んだ後に後部座席に乗り込んだ。


「出すぞ」


 秀雄の声に政宗が「ああ」と答えた。

 自動車が動き出すと私は思わず声を上げた。


「わぁ……凄い、明るい……」


 道には街灯が道を明るく照らしていた。

 夜に外に出ることのない椿は、街灯の灯りを初めて見たのだ。


「ああ、椿。街灯を見るのは初めてか?」


 成孝が椿を見て愛おしそうに目を細めた。

 すると椿は困ったように言った。


「どうお伝えしたらいいのでしょうか? この道は何度も通っているので見たことはあるはずなのですが……気づきませんでした」


 椿の言葉に政宗が言った。


「それは、街灯など夜にしか気づかいないだろう」


 椿は少し考えた後に言った。


「夜にしか気づかない……――なるほど、変わりゆく世とは街灯のようなものなのかもしれません」


 椿の言葉に秀雄が運転をしながら声を上げた。


「何? どうした?」


「いえ、以前、西条権蔵さんが『変わるのが早すぎて……ついて行けるのか怪しいな』とおっしゃっていて、私も同じように思いました」


 椿の言葉に、成孝が呟くように言った。


「西条の当主がそんなことを……」


 椿は頷きながら言った。


「ええ。その時から私は変わりゆく時代についていけるのか、不安に思っておりました。でも、もしたらついていくという考えは少し違うのかもしれません」


 椿の言葉に政宗が眉を寄せながら言った。


「では、どう思うのだ?」


 椿は前を見ながら答えた。


「はい、街灯のようにすでに私たちはその時を生きている。でも、その変化に気付くか気づかないか、が問題のように思います。街灯だってずっとあったはずなのに、夜になって気づいた。つまり私が考えるべきことは、変化についていく方法ではなく、変化に気付きそれに対処する方法だと思いました」


 成孝が外の街灯を見ながら言った。


「なるほどな……確かに時代は大きく動いている。だが……平安の世から『諸行無常』などという言葉があるくらいだ。変わるのはむしろ常。その変化に人々が気づいた時に不安になるということか」


 すると秀雄が楽しそうに言った。


「ははは!! 椿は面白いことを言う。だがそうだな。俺も得体の知れないものについて行くなんて、ごめんだな。自分から見つけて、気づいて切り込んでいく方がずっと性に合っている」


「まぁ、私もそちらの方がいいな」


 政宗も笑いながら言った。

 成孝も口角を上げて少しだけ笑うと椿を見ながら言った。


「椿、明日からも頼む。井田襲撃の件、そして西条の件、少々周りがキナ臭いからな」

 

 椿は真剣な顔で「はい」と言って頷いたのだった。



 

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