第24話


「政宗が令嬢を連れて来るというから、驚いていたが……綺麗な人だな」 

「あり……――」


 足もすっかり治った椿は、政宗と共に政宗の学友の井田家の夜会に招待されていた。


「おい、あまり見るな……はぁ、連れて来るのではなかった」


 椿が井田に社交辞令のお礼を言おうと思っていると、政宗が会話を遮って、椿を自分の後ろに隠した。


「は?」


 井田は目を丸くしながら驚いた後に言った。


「見るなって……じゃあ、どうして連れて来たのだ?」


 政宗は少し考えた後に言った。


「皆に見せたいと思ったのだが、実際に連れて来るとあまり見せたくないと、思う」


 井田はさらに驚いた後に言った。


「あはは!! これは愉快だ。勉学も剣術も隙のない政宗にも不慣れなことがあったのだな! 今日はそちらのご婦人とのだと思って楽しんでくれ!」


 井田は片目を閉じると、椿に軽く微笑んで去って行った。


「全く軽薄なことを!! 椿、行くぞ」

「はい」


 政宗は、部屋の中ではなく、庭に移動した。

 今回のパーティーは、屋敷の内部と庭の一部を解放したパーティースタイルだったので庭にもたくさんの人がいた。

 政宗は庭の隅の人のほとんど来ないテーブルと椅子の場所まで椿を連れて来て、椿を座らせた。


「皆にあいさつをして来る。椿はここで誰にも顔を見せないように座っていろ。あいさつが終わったら、何か食べ物を持って戻ってくる」

「は、はい」


 椿が返事をすると、政宗は「はぁ~~女性を同伴するというのも大変だな」と言って去って行った。

 

(人も多いし、華やかで……慣れていない私が政宗様のご負担になっているのね……申し訳ないわ)


 実はパーティーが初めての椿は、秀雄に言われた通りの行動をしていた。


『いいか、椿。会場で目があったら、とにかく微笑め。そして褒められたら、素直にありがとうございます、というだけでいい』


 椿をそれを忠実に実行していた。

 すると会場に入る前から多くの男性に声をかけられて、政宗がそのたびに引きつった笑顔で対応していた。


(秀雄様……私、上手にできなかったみたいです)


 椿が落ち込んでいるとふと風が吹いた。


(この匂いは!!)


 そして風と共に火薬の匂いがした。

 椿は周囲を見渡して、音を立てずにパーティー会場にはなっていない生垣の裏に回り込んだ。すると火薬を詰めるタイプの銃を持っている人間がいた。


(こんなに人の多い場所でなんてことを!!)


 椿は音も立てずに火薬を詰めている男の背後に回り込むと手刀で男を気絶させた。

 そして、銃を取り上げてやっと銃が入るくらいの小さなバックに押し込んだ。


(一体、誰を狙っていたのかしら?)


 椿が生垣の隙間を覗くと、今日もパーティーの主催者である井田騎一郎がいた。

 椿は念のために周囲を見て回り、危険がないことを確認するとパーティー会場に戻った。


「椿!! 心配したぞ!」 


 椿が生垣の裏からパーティー会場に戻った途端に、焦った様子の政宗が駆け寄って来た。椿はすぐに謝罪をした。


「政宗様、申し訳ございません!!」


 政宗は、椿の肩に両手を置きながら答えた。


「誰かにどこかに連れ込まれたのかと思っただろう? 椿なら相手を返り討ちにするだろうとは思っていたが、何か薬品でも使われて眠らされて服を脱がされ、そのまま椿が……と思うと、生きた心地がしなかった!! もう、二度と椿とパーティーには来ない!!」


 どうやら、椿は政宗にかなりの精神的な負担になってしまったようだった。

 咄嗟に火薬の匂いがしたので対応したことで政宗の言いつけを破ってしまったのだ、これ以上政宗に負担をかけたくはないが、このままというわけにはいかない。


(説明するよりも、実際に見て頂いた方が早そうね)


「政宗様。こちらへ」


 椿は政宗の手を引くと、生垣の裏に向かった。


「え? 椿、こんな人のいない場所で……何を……」


 なぜか顔を赤くして酷く動揺する政宗の手を繋いで、椿はずんずんと歩くと、先ほど椿が倒した男を見せた。


「政宗様、こちらです」

「な! やはり、椿、襲われそうになったのか?」


 慌てる政宗に、椿はバックを開けて銃を見せた。


「この男がここから、井田騎一郎様を狙撃しようとしておりました」


 政宗は青い顔で「なんだって!?」というと、いつもの無表情に戻った。


「感謝する椿、後は俺に任せろ」

「はい」


 そして、政宗が主催者に報告をしてくれて、パーティーはお開きとなったのだった。

 


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