第26話



 開口一番に政宗が言い放った言葉。


「……端的に言えば、会場に入った瞬間から危険な状況だった」


 屋敷に戻り、パーティーの話を詳しく聞きたいという成孝と秀雄に向かって放った言葉にみんな言葉を失った。


「……危険か、では政宗もパーティーでは危険を感じていたのだな?」


 成孝が緊張した様子で言った。


「ああ」


 政宗が大きく頷いた。


(政宗様は会場に入った時から危険を感じていたのね……私は政宗様と庭の端に移動するまで気付かなかった……まだまだ未熟ね)


 椿がパーティー会場でのことを内心反省していると秀雄が口を開いた。


「それで、具体的にはどう危険だったんだ? 俺も今後の参考にするから教えてくれ」


 秀雄の言葉に、成孝も椿も緊張しながら聞いていた。

 椿は両手を握りながら思った。


(よく聞いておかなければ、次は成孝様とのパーティー。参考にして成孝を危険から遠ざけなくては……)


 皆が注目する中、政宗は青い顔で言った。


「そうだな。まず、会場に入った瞬間から、椿が様々な男に微笑みかけて、声をかけられた。私がいるにもかかわらず、男が常に寄って来て、いやらしい目で椿を見ていた。ああ、思い出しただけでもおぞましい!!」


(え?)


 椿は政宗の言葉の中のどこに危険が潜んでいたのかを汲み取ることが出来ずに困惑していた。

 だが、椿の前に座っている成孝も秀雄も顔を青くしながら聞いていた。

 若干、話についていけていない椿を残し、政宗は話を続けた。


「皆、椿に触れようとするし、口説こうとするし、一人の男を退けたと思った瞬間に次の男が現れ、その男を牽制している隙に次の男が現れ……酷く疲れた。今回の件はかなりお手柄だったが……――私は正直もう、椿をパーティーに連れて行きたくない。椿とは家で過ごす」


 政宗は頭を抱えて項垂れていた。


(そんなにご負担だったのね、私は秀雄様に教えて頂いた通りに過ごしただけだったけれど……はっ!! もしかして、私に近づくフリをして政宗様に近づく機会を与えてしまったということかしら? だとしたら、危険だというのも理解できるわ!!)


 椿が危険について自分なりの答えを見つけた時、項垂れる政宗を見て、秀雄が椿を見ながら言った。


「椿、悪かった!! 目が合ったら微笑んで『ありがとうございます』作戦は中止だ。そんなに危険なことになるとは!! 俺がされて嬉しいことを言ったのが間違いだった!!」


 秀雄の言葉に政宗が顔を上げて、大声を上げた。


「秀雄!! お前の仕業か!! おかしいと思った、普段はあまり微笑んでくれない椿がにこにこしてるから!! お前のせいで私は今日一日どれだけ苦労したと思っているんだ!!」

「だから悪かったと言っているだろう!?」

「悪かったで済むと思うな!!」


 秀雄と政宗は椅子から立ち上がって口論を始めてしまった。

 その横で、成孝は息を吐くと椿に向かって言った。


「それで、何かわかったことはあるか?」


 椿は真剣な顔で言った。


「警察官の方にお伝えした以上のことは何も。刀を交えたわけではありませんので、流派は特定できませんし、火薬や拳銃での特定は私にはできません。ただ……随分と火薬を詰めるのに時間がかかっていたようなので、あまり慣れていない……ということでしょうか?」


 成孝は、椿を見ながら「そうか……西条を狙った者たちと繋がりがあるかと思ったが……井田も造船関係の家だ」と答えた。


「申し訳ございません、成孝様。やはりそこまではわかりません」


 椿の言葉に、成孝は少し考えて後に言った。


「椿、私とのパーティーでは一切笑いかけるな」


 成孝の言葉に椿は頷いた。


「はい」


(成孝様に近づく口実を与えるわけにはいかない、笑いかけないようにしましょう)


 椿の答えを聞いて、成孝がさらに口を開いた。


「椿、私に触れられるのは不快か?」


 椿はなぜ突然、そんなことを聞かれるのわからずに困惑しながら答えた。


「いえ……」


 成孝は椿を見ながら「では私は西洋様式のエスコオトと呼ばれる様式で椿とパーティーを過ごすことにする。椿……覚悟しておけ。いや、明日から少しずつ訓練をすることにする。いきなりはお互いに難しいかもしれない」と言った。


(西洋様式エスコオト!? 初めて聞いた言葉だけれど……大変そうね。でも成孝様の安全のためにも絶対に習得して見せるわ!!)


 椿は成孝を真剣な顔で見つめながら言った。


「はい、よろしくお願いいたします!! 成孝様!!」


 こうして椿は成孝と西洋様式エスコオトの訓練を行うことが決まったのだった。


 

 

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