第7話


「おかえりなさいませ」


 屋敷に戻ると徳永さんが出迎えでくれた。


「徳永、花菱の会食に招かれた。一月後だ準備しておいてくれ」

「かしこましました」


 椿は、成孝の後ろに立って話を聞いていた。


(成孝様、先ほどの女性に会食に誘われたのね……)


「成孝様、お荷物はどちらへ?」


 七介の言葉に、成孝は「椿の部屋に運んでくれ」と言った。七介は「はい」と答えると使用人棟に向かった。

 椿は、どうするべきかを考えたが成孝について行くことにした。

 成孝は徳永と話をしながら歩いた。


「ずっと会う機会を伺っていた相手に偶然出会えるとはな」

「秀雄様とお二人でご出席されますか?」


 徳永の言葉に成孝は首を振った。


「いや、今回は椿と出席する」


(え? 私と? 成孝様の想い人との会食に参加するなんて……私って一体どんな仕事なのかしら?)

 

 不思議に思っていると椿と同じように不思議に思ったのか徳永が声を上げた。


「椿さんとですか?」

「ああ、服は先ほどデパートに注文しておいた。三日後に届くということだ」


 椿は成孝の言葉を聞いて驚いていた。


(さっき買ってもらった以外にも、服が届くの?? 本当に私の仕事って!?)


 混乱状態の椿だったが顔には一切でないので、成孝たちは椿の心情など知らずに部屋の着いた。

 部屋についても、徳永と成孝は会食についての話をしていたので、椿は扉の近くに立って二人の話が終わるのを待っていた。

 すると扉をノックする音が聞こえて、扉が開いた。


「成孝様、ハリソン様がご到着されました」


 ヤエが部屋入って来て、来客を告げた。


「通せ」

「かしこましました」


 ヤエが部屋から出ると、徳永も「失礼いたします」と言って部屋を出た。

 

 徳永が部屋から出るとすぐに、ヤエが黄金色の髪に蒼い目をした男性と一緒に現れた。


(お客様って、外国の方だったのね。帝都ってやっぱり凄いわ)


 椿は外国の人を見るのは初めてだった。


「こんにちは~成孝!!」


(帝都の言葉だわ)


 てっきり椿の知らない言葉を使うのかと思っていたが、知っている言葉だった。 


「ああ。元気そうでなによりだ」


 成孝は自然に男性と握手をかわした。


(あいさつとして手を握る風習があるのかしら? それとも男性同士だけかしら? 一応、手を握る心の準備はしておきましょう)


「はい。元気ですよ。どんどん言葉を覚えて、そちらにいらっしゃるような可愛らしいお嬢さんと愛を語りあいたいのです。成孝、紹介していただけますか?」


 外国人男性が椿に向かって片目を閉じた。成孝は椿を見ながら言った。


「ああ。椿だ。今回の件に同行させる」

「はじめまして、椿さん」

「椿。機械技師のハリソンだ」

「初めまして。椿と申します。ハリソン様」


 椿はハリソンに向かってお辞儀をした。するとハリソンが手を差し出したので椿は手を握った。

 手を離して、ほっとしているとハリソンが両手を広げ、椿に抱きついてきた。

 ――その瞬間。

 ハリソンの身体は宙に浮いていた。


(あ!! しまった!!)


 椿は無意識に、ハリソンを投げ飛ばしてしまった。そして急いで、床に着く前にハリソンの身体をお姫様だっこで抱き止めた。そして椿はハリソンを抱き上げたまま尋ねた。


「お怪我はありませんか? ハリソン様」


 抱き上げられた本人であるハリソンも、それを目撃していた成高も驚いて言葉がでなかった。

 椿はハリソンを床に立たせると頭を下げた。


「成高様のお客様にこのようなこと……大変申し訳ありません」

「She is the one.」(運命だ)


 ハリソンが何かを呟いたが、椿には全く理解出来なかった。


「What are you talking about……?」(何を言っている……?)


 成孝が唖然としながら問いかけると、ハリソンが椿を見ながら柔らかく微笑みながら言った。


「大丈夫です。お嬢さん。どこもケガなどありません。あなたが助けてくれましたから」

「しかし、元々は私のせいですので……」


 椿の謝罪にハリソンが柔らかく微笑んだ。


「いえ……この国のお嬢さんが、ハグに慣れていないことは知っていました。それなのに、あなたが可愛くてうっかりしてしまいました。こちらこそ、驚かしてごめんなさい」


 椿はどうしていいかわからずに成高を見た。成孝は咳払いをした後に言った。


「ハリソンが良いと言っている。これ以上おまえの責を問う気はないが……今後は気をつけろ」

「はい。申し訳ありません」


 

 その後、椿は成孝とハリソンが外国語で話をするのを椿は隣で内容は全く理解出来なかったが聞いていた。


(成孝様は外国をお話になるのね……)


 椿は時折ハリソンに微笑まれて、成孝が不機嫌になるように感じながら黙っていたのだった。



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