塩と砂糖9

 そこからはスムーズだった。レイに心ばかりの謝礼を渡し、女と共に車に乗り込んでアパートへ向かう。ソルトは始終上機嫌そうだった。何が嬉しいのだか、理解出来たものでは無い。


「おい、本当に父上はこんな場所にいるのか」


 袋の中から女が話しかけてきた。視界も遮られて不安もあるのだろう。箱の景色に見覚えはないだろうが、それでも視覚情報があるのとないのとでは段違いだ。


「勿論。君を待ってるぜ」


 ソルトが嘘をついた。あの男は娘を待ってなどいない。生きていても、死んでいても。


 程なくして俺達のアジトが見えてきた。俺は駐車場に車を停めて、ドアを開ける。すると見慣れない黒いワンボックスカーが近くに停まっていた。あんな車、普段からあっただろうか。何かがおかしい。俺はソルトに目配せする。ソルトが銃を出して慎重に表に出た。俺もそれに合流する。


「……なんだと思う?」

「空。つけて来たんじゃね?お前気を付けろよ、マヌケ」

「俺とこの女が合流したからか?」

「多分な。……だがそれにしては場所の特定が正確過ぎる。発信機じゃねえか?この女につけられてたんだろ。どっちにしろ上の人間にアジトがバレてるのは面白くねえ。殺る」

「相手は何人だ?」

「わからない。2、3人いたら良い方じゃねえの。女騎士だし。あくまで場所特定の為だろうからな」

「殺れそうか?」

「誰に言ってる。援護と女は任せた。行くぞ。」


 俺も銃を取り出す。背中合わせにソルトと銃を軽くぶつけ合って、合図する。女の入っている袋を見た。今のところ大人しいようだ。俺はワンボックスに向かったソルトの援護に回る為に銃を構える。


「スリー、」


 ソルトがカウントダウンを始めた。


「トゥー、」


「……っ。」


「ワン!」


 タン、タン、と銃声がした。ソルトが車のタイヤを撃った音だ。穴の空いたタイヤは一気に空気が抜け、ワンボックスが抜けた空気の分沈む。

 ピピ、と音がして、ワンボックスから黒服の人間が出てきた。数は2、3、……7? やけに多い。嫌な予感がしてソルトを呼んだ。


「数が多い!」

「見りゃわかるよ。大丈夫だっての。連中は足を失ってる。足。お前も足を狙えばいい、そうだろ?」

「……!」

「数が多けりゃ人形にしちまえばいい。昔覚えたろ。お前の射撃の腕は何の為にある?」


 俺はすぐにソルトの意図した事に気が付き、出てきた人間の足へと銃口を向ける。続け様に何人もの足を狙って撃った。暗闇の中で黒い人影が崩れ落ちる。


「ヒュー、相変わらずの腕!」


 ソルトが叫んだが、出てくる人間は止まらない。10、11、……明らかに数がおかしい。


「バカめ。抗いはできない」

「……!? お前、これを知って……」

「父上が私を待つ筈がない。箱にも来ていないだろう。私の役目は此処で道標をすること。甘いな、豚箱の連中は」


 女が袋の中でせせら笑った。袋が揺れている。俺は念の為に扉を閉めて鍵をかけた。


「あの女、何か知っているようだ。でないとこの数は……」

「知ってる。見りゃわかるよ。わざと捕まったんだろうな。クソ、やられたぜ」

「……これだから女は苦手なんだ。」


 俺は絶えず銃口を相手側へ向け、足を狙い撃ち続ける。移動を封じれば後は殺すだけだ。既にソルトは何人かを殺している。折り重なるように死体が積み重なって行った。処理が大変そうだ。


 だが彼方も殺られてばかりではない。チュン、と鋭い音がして、熱が頬を掠めた。サイレンサー付きの銃か。用意周到らしい。


「銃声もない、視界も悪い、気を付けろ」

「誰に言ってんだよ。殺しは大概夜だぜ?」

「……15! 相手は15人だ。あと何人残ってる?」

「動けるのは8。中には戦闘経験がある奴も混じってるな。面倒くせえ。」


 絶えず銃声が飛び交う。その内の1人がククリナイフを両手に構えて突っ込んできた。咄嗟に足を狙う。──速い。足止めが間に合わない。


「ソルト!」

「うるせーな、わかってるよ、っと!」


 接近する敵に、ソルトが銃口を向けた。狙うは頭。俺が狙うのは脚。その間にも向こうの援護射撃は止まない。

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クソザコナメクジ @4ujotuyoi

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