塩と砂糖6
万が一カラコンが外れても支障のないように伊達眼鏡をかける。車に乗り込むと、ソルトが助手席に陣取った。退屈そうに棒付きの飴を舐めている。
「おい、車乗るのに棒付きキャンディは……」
「堅い事言うなって。さあて、どっから探すかな。赤髪の女騎士って言ったら目立つよな。」
「……東口ならレイのバーがある」
「嗚呼……苦手なんだよなあそこ。お前一人で行って来て。俺は待ってるから」
「我儘言うな。2人1組の方が情報は得やすい」
レイのバーとは、文字通りレイという人物が経営するバーの事だ。一見普通のバーだが、この街の店には裏がある。店を構えているという事は職を手に入れる価値を得たということ。つまり人を殺した経験があるという事なのだ。
多少難があるが、この街では珍しくない。ソルトが苦手と称したのには別の理由がある。俺は車を走らせて、目的地のバーに車をつけた。
「あらァ〜ん、待ってたわよォ、い・ろ・お・と・こ・さん♡」
「うげ」
バーに入るなり、スキンヘッドに厚い化粧をした男……男と言っていいのかこれは。兎に角性別不詳の“レイ”が出迎えた。ソルトは露骨に顔を顰めている。
「ソルト。露骨に嫌そうな顔をするな」
「お前だって眉が寄ってますけど~。」
隠れるようにソルトが俺の後ろにぴったりと張り付く。肩に重みを感じながら、バーのカウンターへと進んだ。
「西の空に夕焼けがあらんことを」
カウンターの奥のレイに向かって告げると、彼はんっふ、と笑みを深めた。過剰に塗りたくられた口紅が薄暗い照明の下で光る。
「今日はどんな情報をお望み?アタシのスリーサイズは教えてあげられないわよ」
「そんなものは聞かない。……赤髪、青い瞳。長身の女についてなにか情報はないか?」
レイは情報屋だ。先程告げたのは、バーテンのレイから情報屋のレイへと引き継ぐ為の合言葉のようなもの。この街で知っているものは少ない。
「そうねえ、最近体を売ってる娼婦がそんな感じだったかしら。瞳は青じゃないけど」
「それ以外に情報はないか?」
「あるわよォ、とびっきりのが。でもとびっきりは対価が必要なのよねえ」
「……言い値で払う、いくらだ」
「アンタの後ろに隠れてるソルトくんのキッス♡」
びく、と後ろの気配が震える感触がした。振り向くとソルトが青ざめている。青ざめて、俺に懇願するように見上げて首を振る。嫌だの合図だ。
俺は溜息を吐いた。この男と目の前の情報屋は相性が悪い。
「……俺の相棒をあまりイジメないでやってくれないか」
「いやァね、冗談よ冗談。んー、そうねェ。殺しの依頼を引き受けてくれたら良いわよ」
「殺しの依頼?そんなもの正規ルートで……」
「斡旋屋には知られたくないのよ。いえ、この街の誰にもね。街ごとひっくり返るワ。アタシが頼みたいのは秘密裏の依頼」
「……と言うと?」
「その女の居場所は知ってるわ。だからその子を殺して欲しいの」
そう言ったレイの黄金色の瞳は、ドス黒い色に満ちていた。
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