塩と砂糖4

 向き合った肉塊は、最早生の色を宿していなかった。見開かれた青の瞳には涙が滲んでいる。痛みか、それとも生理的なものか。俺は細いピックを瞼の裏に差し込んで、ぐるりと一回転させた。

 テコの原理でこちら側にピックを倒すと、がぽりと青い眼球が抜け落ちる。眼球の裏側にまとわりついて来た繊維状の神経や血管を削ぎ落として、用意していた小瓶に入れる。


 ソルトはシリアルキラーだ。時々嗚呼してこういう人間をさらって来ては、様々な方法で殺す。毒、ナイフ、銃、獲物は様々だが、前にナイフの方が感覚が残って良いと言っていた。銃を使っている所は殆ど見た事がない。

 射撃の腕で言えば、俺の方が上だ。ソルト曰く、何百年に一度の逸材だろう、という事らしい。たまに殺しの依頼が来る時は、俺かソルトのどちらかが出る。俺が出る時は、半殺しにしてから車に詰めてソルトにトドメを刺させる。死体処理は俺の仕事だ。処理した死体を解体する度に、こうして眼球を取り出してホルマリン漬けにしている。


 青の瞳は綺麗だ。空、海、宝石。何にでも例えられる。そして貴重でもある。何故なら青の瞳は貴族に多いからだ。そうか、ソルトはこの瞳を見て空の人間だと判別したのか。よく見れば身なりも地味なりに綺麗だし、肉も肥えている。貴族が地になんの用があったのか知らないが、哀れなものだと思う。

 年齢は……そんなに若くないだろう。子供の1人や2人でも成人している頃合か。


 見惚れている場合では無い。俺は地味なりに小綺麗な服を脱がした。シースナイフで切り裂き、肌を露呈させていく。

 服を取っ払って血を流すと、ぱっくりと口を開けた関節の傷から糸鋸を差し込み、関節を切り外していく。神経の機能は残っているらしい、糸鋸を引く度に指先がぴくりぴくりと動いた。


 最後に鉈で手足を外し、精巧なパーツのようになった人体を並べる。次に残った胴体から腹を裂き、内臓を粗方引き出していく。腸、胃、腐敗が早く、臭うのはこの辺りだ。ゴミ袋に詰めて、冷凍してミキサーで粉砕する。


 他の部位は硫酸と塩酸を混ぜたものに沈めて肉を溶かしてから、骨をカラカラに乾燥させる。乾燥した骨を砕いて、粉末状にしてから、どろどろになった内臓と共に下水道に流し込んで野良犬が食うのを待つ。それがいつものルーティンだった。


 作業を終えると、俺はソルトを呼んだ。半分眠っていたらしい、眠そうに髪を掻き乱しながら、浴室に入ってくる。


「終わった?」

「嗚呼。粗方。後はいつものように。」

「ワンコね。おっけー。」

「それより、行くんだろ、東口」

「正解」

「……準備するから待ってろ。死体はいつもの様に運び出しておいてくれ。」

「浴室は?綺麗にしねえの?」

「シャワーを浴びながらやる」

「りょーかい。待ってますよ、シュガーくん」


 ソルトが眠そうにしながら臓物の入った袋を持って出て行った。あれを冷凍庫に入れるところから始まる。俺はと言うと、浴槽に薬剤を入れて手足と頭、胴体を沈めた。そのままシャワーを浴びる。


 天井まで達した血飛沫は、クレンジングオイルで流し落とす。女性用の化粧落としは血を落とすにもよく役立つ。使った道具に附着した血と脂も流し落としながら、血の匂いが濃くする身体を洗い流していく。クレンジングオイルの柑橘系の匂いが鼻についた。

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