塩と砂糖3
適任。その言葉に沈黙が降りる。手足の筋を切られて尚生きたいと願うのか。こんなものはハッタリだと言いかけたところで、ソルトが溜息を吐いた。彼も同じことを思ったようだ。
「お前さあ、命乞いしてえ気持ちはわかるし、俺は嫌いじゃない。でもお前の命ってそんなに重要? そんなに価値がある? 誰かの命を差し出して命乞いするほど持ってたいワケ? その命。」
ぱちん、ぱちん、と音がした。ソルトが男の首をナイフの刃で叩いている音だ。然し男は黙らなかった。瞳に生への執着を映して言葉を続ける。
「俺は見たんだ。鳥を守る護衛がこの街に入っていくのを。彼奴らは何かを探してる。それなら、お前が殺すのはそいつだっていい。拷問すれば目的だってわかる。そうだろう?」
「へえ」
鳥。その名称にソルトの目の色が変わる。
「それってどの辺?中央出口?それとも東?西?」
「東だ!東の方の出入口だ、身なりが良かったからすぐにわかった、鳥側の人間を脅せばお前達も有益だろ?」
「格好は?」
「赤髪、青の瞳の長身の女!女騎士だ、女騎士なら捕まえれば色々と愉しめ──」
「うん。バイバイ」
ザシュ。男が言葉を発している最中で、肉を裂く音が狭い浴槽内に響いた。途端に上がる血飛沫、天井まで達している。掃除が面倒そうだなと溜息を吐いた。
「バカだな、コイツ。情報ってのは命乞いするには向かねえのに」
「特にお前みたいな奴にはな。」
ぴく、ぴく、と痙攣しながら男は目の光を失っていく。絶望と尚も生に執着する様は、最早哀れだった。持ってきていた死体解体用の器具を置いて、一頻り血が噴き出し終えるのを待つ。
「なあ、ソルト」
「んー?」
「嘘なんだろ。こいつが地の人間って」
「大正解。空の人間だよ、此奴は」
「何故わかった?何故わざわざ空の人間だとわかっていて殺した?」
「それが俺だから。」
「答えになってない」
「狐を取り込んだって言ったろ。殺しちまったけど。聞けることは聞けたからもういいわ。あとヨロシク」
最早興味が失せた、と言うようにソルトが欠伸をする。浴室から出ていく気配を後ろに感じながら、俺は目の前の肉塊に向き合った。
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