〜過去編ボーイスカウト❶〜
「マリン〜。」
そう元気よく声を掛けるのは、最近駆け落ちした前船長の娘、麗羽るしあだった。
「釣れたよ〜。」
魚を釣り上げ、楽しそうに燥ぐるしあ。
この時、マリンは嬉しそうにしていたんだった。
前船長の死亡から数日、るしあを迎えに行ってから数週間、心の底から一緒に笑える様になってから数ヶ月、るしあと共に過ごして数年。
るしあのこの笑顔を見れたのは一体何度あったのか。
いつの間にか忘れていた。
自分が幸せを奪った張本人である事と、るしあに其れを押し隠して過ごしていた事に。
るしあは気付いていたんだろう。其の事実に、とっくの昔に終わった悲劇が未だ彼女の中で続いているという事実に。
其の上で彼女は強く生きた。いや、強く生きざるを得なかった。自分は本質的に孤独であるというお話と、自分は一人では何処までも非力であるというお噺と。
世界は何処までも廻り巡るのだと言うマリンの顔を真剣に見つめていたあの目。赤い、何処までも深く広がる赤が其の目に留められている。マリンは其の真剣さを大切に心に留めたのだった。
るしあは哀しかったんだろう。この人はいつになったら自分を裏切るのだろうとか、この人に本当に着いて行って良かったのだろうとか、いつまでこの生活は続くのだろうとか。
満天の星空の下で、るしあのあの赤い瞳を見る。マリンは決めていた。自分の海賊衣装は紅にしようと。そして、マリンの何て事の無い普通の目の色を見て、るしあが笑った。
「ふふっ。マリンって、両目で違う色しているんだね。」
其の時の笑顔を覚えている。あの写真にあった屈託無く笑う少女の面持ち、其れが今、目の前にあるのだと。思わず抱きしめていた。強く抱き留めていた。あの当時、るしあに逆に心配されて、とても悲しかった事を思い出した。自分はこの娘を導かなければならないのだと心に決めていたのに、心配された途端、不安と後悔が押し寄せて来て、不覚にも涙を流して居た。
そして、マリンは衣装を変えた。全身紅色の海賊衣装。買ったとある観光地に似ていた島の店員は、笑いを堪えながらマリンに衣装を当ててくれていた。其れでも、マリンにとっては一張羅だった。
地図を読み取って、嘗ての富豪が隠したとされるお宝を当てて、全部奪った暁に、一丁前にるしあと高級なお店でデートした事もあったけど、其の時もこの衣装だった。
今もそうだろうか。
一瞬と言える忘失と記憶の彼方から帰って来て、直ぐに確認する。
足もあった。流石に海賊の足腰はそう伊達では無い。
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