〜過去編❼宣言〜
「そうか。ご苦労だった。」
「まさか新しい船員が俺の下に飛び込んでくるとは思わなかったぞ。」
そう言うと男は軽く咳払いをして、
「…俺達は行き場を無くした同胞を探している。」
「天災–––––。知っているか。海に遥か昔から伝わる伝説だ。」
男は少し姿勢を戻すと、淡々と語り始めた。
「天災が来る日々に、ある晴れた日が来るという予言があったなら、其れを信じるべからず。…これは、一日中晴れる事は稀な海域では当たり前の様に伝えられている口伝だ。元々の意味は奇天烈な占い師が居て、その国に天災が訪れるという始末だと、昔会った老婆はそう語ったよ。」
「此処からだ。天に三津夜の降る如し。層雲は遥か地上まで降りて来て、全ての営利を暗闇に落とす。」
「其の中りを付け、内にて潜む最果ての体躯。…これは、其の天災に巻き込まれた人々の死骸が風の弱い台風の目に集まったものが人の姿になっていると考えられて居る。巻き込まれれば終いと言う訳よ。」
「然してご覧じろ。全ての暗闇は月食にはならず。月明かりの下、世界は救われるであろう。さめざめ。」
男はそう語り終えると、語らせ過ぎたな…と言って、マリンに襲い掛かってしまった!!
マリンは咄嗟に腰から
「武器は返してもらうぞ。」
男が迫る––。
しかし、
バンッ
マリンは撃っていた。
だって死にたく無いんだもん。このまま無造作に武器を奪われ返されたら、とんでもない目に合っちゃう気がして…
当時の事を振り返ると、マリンは、何か悟りを得た様な顔で、仕方が無かった、そう語るという。
すると、腹に血が滲む男の胸から一枚の写真が溢れ落ちて来た。家族と一緒に写っている写真だ。
写真。その中央に、今さっき撃った男と其の妻と思しき女性に囲われている一人の少女が目に入った。
一目惚れだった。美しく可憐で華奢な緑髪の少女の笑顔に、心を奪われた。そして後悔した。マリンは、今、其の少女の幸せの一つを奪ってしまったのだから。
(((お父さん、お父さん、何処?お父さん、又会いたいよ。)))
幻聴では無い。男の事を探して此処まで来た其の淡く綺麗な魂は、父の最期を見る事なく消えて行った。
「ゴホッ…」
男が蒸せ返る。
そして、
ドサッ カラン
男が横向きに倒れ、握った
(あ、あ…やってしまった。やってしまった。マリンは、一人の命を奪ってしまったんだ。)
奪って来た
そして、魂が天に召される其の刹那、男は笑っていた。まるで、漸く娘に会えるかの様な面持ちで。
マリンは人を殺した。つい最近まで人に頭を下げる際にそっと添えていた手で。其の手に握った男の
暫く時が過ぎた。潮騒が少しうるさくて、
そんな折、
「船長〜。」
男の声が聞こえた。
マリンは直様立ち上がると、其の男に、周りの男達に向けてこう言った。
「これからは、私が船長だ!」
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