〜過去編❻船〜

 泳いだ。

 

 何処までも続いていると思わせる離れ小島の群島を。

 

 そして、再び辿り着いたのだ。元の島へ。

 って思ってた。けど様子が違う。

 海岸線の形も違う。もしかしたら…島の反対側に来てしまったかも、って思って、グルグル周ろうかと思った其の矢先、マリンは、木造の大きな船を見つけた。

 

(え?アレって、木造の…船、だよね。映画とかで見る大航海時代の船。)

(何でこんな所に…)

 

 もしかすると木造の船の外観をした博物館かもしれない。そう思うと、思わず其の船に近付いていた。しかし、船の周りを1周周って異常事態に気が付く。

 

(おかしい。何処にも入口が無い。これじゃあまるで本物の木造船じゃないか。)

 

 マリンは意を決して乗り込む事にした。船の側面にある縦横に編まれたロープが張られた箇所から登った。

 

 乗り込むと其処には、っと誰も居なかった。

 

 お腹もならずに腹が減っているのが分かる。

 

 マリンは今がチャンスとばかりに船の内部も探索する事にした。あわよくば此処で泊まっている者達の食料にありつこうと言う腹だ。

 

 斯くして、食材は其処にあった。船の下の方の後方に、酒と樽に詰まった粉の小麦が。

 

 マリンは無我夢中で小麦を頬張った。

 

 何かしらの交易品の余りかもしれない。偶々持って行かずに置いて行っただけかも。置いて行くんなら、其れなりに人出が出払って居て、もしかすると出払った直後に此処に来たのかもしれない。すれ違いなら、すぐに戻って来るだろう。マリンは此処まで考えて頬張って居た粉の小麦を喉に詰まらせた。そして酒を一気に飲んだ。すると少し酔っ払った。久し振りの酒だったから仕方無い。しかしマリンはそんな事は御構い無しに酒を一気飲みした。酔っ払った。

 

 酔っ払いながら、船室から外に出る階段の方を見ると、何と其処には、怖い顔をして、チャッカルを持っている男の姿があった。

 

「よくも飲んだな。この俺の酒を。」

 

(え?もしかしてこのままだと、私、殺される?)

 

 男は剣を握り締めた。マリンがフラフラと立ち上がり、中段あたりまで剣が掲げられた其の時、疲れと酔いで思わずマリンは転んでしまい、もつれ込んだ右足はそのまま、ヒップアタックを男の膝に入れ込んだ。

 

「ぐあっ…」

 

 すると男は倒れるなり右手から力を抜いて剣を離した。

 

 マリンは咄嗟に剣を奪い、そのまま酔いもあってか、放心状態、いや、持った剣にウットリしてしまった。

 

「何…者…」

 

 マリンは酔っ払いながら倒れると、男に重なった。序でに手が落ち、男の腰にあったピストルを落とした。

 

 男はピストルに手を伸ばそうとしたが、起き上がろうとしたマリンの手によって、合気道の如く手を防がれてしまった。

 

(ん?コレは…)

 

 マリンはそのままピストルを手に取ると、危険な代物なので永遠に借りておく事にした。

 

「お前…」

 

 男から声を掛けられる。

 そこで酔いは覚め、何と無く状況を察する。どうやら、船長と思しき人物が戻って来た時に、よろけて倒れて武装を奪ってしまったのだろう。

 

「…コレは貰っておきますね。」

 

 鞘も取ると、照れ隠しも相俟って、マリンはそのまま甲板にまで出た。

 

 マリンは一瞬考えた後、船に戻って此処が何処か聞く事にした。

 

「あの〜済みません。」

 

「何だ。」

 小さく、少し怯えた様な声で男が聞き返す。

 

「此処って何処でしょう。」

 

「…此処は観光地に程近い海賊島だ。」

 

「何故此処で木造の船を…」

 

「貴様に其の様な事を教える訳にはいかん。」

 

「え?」

 思わず声が漏れた。

 

「兎に角、早く其のチャッカルピストルを返せ。」

 

「いや、コレはマリンが永遠に借りておく物だから!!」

 

 すると男は興味深そうに眉をひそめると、

「お前、マ・リ・ン・って言うのか。何処ぞのお綺麗な土地の出柄でもあるだろうに、即断即決、其の根性、気に入った。」

 

 男は倒れながらも格好良くそう言った。

 

 マリンは一瞬、違和感を感じた。そしてついうっかり聞いてしまった。

「どうして立たれないんです?」

 

 ピンクのアクセサリーが付いた半袖にチャッカルと、片手にピストル。その女の状況的に威圧感のない危機感が男を笑わせた。

 

「フッ。」

「ハハハハ。」

 

「何。腰を少しやってしまってな。」

 

 マリンは少し謝りながら図図しそうに、

「そうですか。済みませんが、此処で私を働かせて貰う事って出来ますかね。」

 

「何。」

「何を言っている。」

 

「あの〜私、お恥ずかしながら、此処で独りで生きて行くのが無理だと思うんですよね。それで、申し訳無いんですけど、此処で働かせてもらえないかと。」

 照れながら、マリンはそう言った。

 

 

「働く…?」

「まさかお前、遭難したのか。」

 

「え?いやぁ、確かにそうですけど…」

武装が武装のまま少し後ずさるマリン。

 

「働くといっても、俺の代わりが務まるとは思えんのだが、お前、仕事で何やってる。見た所、ただ遊びに来たという訳でもあるまい。その格好、普段着にしても安い。旅行で着る様なものでも無いだろうに。」

 

鋭いお方だ。勿論マリンも何も考えずに着ている訳では無い。ただ、それとこれとは話が別だった。

 

「お前、何処で働いている。」

 

「…無職です。」

 

「え?」

 

「働く所ありません。」

 

「何。では一文無しの末、海に飛び込んで自殺でも図ったのか?」

 

「…いや、あの〜。」

 

マリンは、倒れ伏した男に、取り敢えず、経緯いきさつを話す事にした。

 

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