〜過去編❶無人島〜

 いつしか無人島にまで辿り着いていたマリンはこう言った。

 

「ある晴れた朝焼けですやん。」

 

 無造作に昭和の声がだだ漏れる。

 

 何事も無い。ただそれだけを表す為に、わざわざ体力を消費して声を出す必要など無いのだが、マリン船長は事を単純に考える癖があった。

 

 マリンはただ只管に社畜だった。朝から晩まで働き、毎日残業続き。叱られたり、厳しくしつける様な感じで接されたりして、へとへとになって帰宅しても、家ではやる事なんて無いもんだから、ただ家事を熟すだけの日々が続いて、いつしか明日への夢も何も無くなって、いつの間にか会社を辞めた。

 

 そして会社を辞めてやる事と言ったら、先ずはバカンス。夏の離れ小島で優雅にのんびりとバカンスと致しましょうやって、台風で台無し!?何処にも行けない!!欠便!?帰れない!!手持ちのお金ももう無いし、こうなったらここで働くしかねーな。

 

 ややあって、バカンス先で働き始めたマリン船長は、其処での暮らしをこう語る。

「小島って何処でも、バカンス先には良いけど、住むにはかなり大変なんだよね〜。物品は、空輸は高いから諦めて、毎日二、三本しか出ない観光用とは違う定期便に依存してさ〜、毎日ちょっとだけ開かれてる街の八百屋とかに行っても大した野菜も売って無いのよ〜。当然、働き口も観光か漁業位しかないけど……」

 

 観光業務、これが前の職場に似ていたのが厄介だった。今回は、夏の陽気も合わさって何とか耐えられたものの、マリンは何時しかバカンスで楽しむ筈の光景が、日々の激闘に重なって潮の匂いと同じ様に感じられたという。

 

 そして、今回、定期便は高いからという理由で、大してお金も貯めずに、近くの漁師に、向こうの港に行く機会がるからと、千載一遇のチャンス、送って行ってもらう事にした。

 

 本来ならそれだけで事は足りるはずだが、マリンは悉くツいて無かった。

 

 先に直撃していた台風の裏にまあまあな規模の低気圧が発生しており、遭難しない様にと、マリンはついて行けなくなった。

 

 なけなしのお金と手荷物片手に、こっそり船に乗り込み、外の物置の陰で隠れ潜んでいる所、高潮にやられ、マリンだけ遭難した。

 

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