第3話

 僕は泣いた。ジュリの名前を何度も泣き叫び、その場に崩れ落ちた。それでもジュリが再び僕の前に姿を見せることはなかった。とても可愛くて、出会ってから魅了されっぱなしだった。そんな彼女の唇の感覚も未だ鮮明に覚えている。河原から自宅までの来た道を戻りながら何処かにジュリがいるのではないかと思い歩く。それでもジュリはいなかった。家に帰ってからも僕は泣き続けた。喉が酷く乾いても泣くことを辞められずにいられなかった。嗚咽は止まることを知らず、ただひたすらに泣き続けた。気付けば朝陽が昇ってきて外は明るくなっていた。真っ赤に目を腫らした顔を親に酷く心配されるも、何でもないと無理やり誤魔化して渋々と学校へ向かう。もしかしたら、教室にジュリがいるのかもしれない、どこかそんな淡い希望を抱きながら学校へ向かう。流石に昨晩泣きすぎたせいか、これ以上ジュリの事を考えて、傷心する自分に嫌気が差し、今日学校でジュリに会えなかったら今後は彼女のことを考える事を控える決心をした。緊張しながら自分のクラスの教室のドアをがらがらと開けるも、ジュリはおらず、放課後になってもジュリが僕の前に現れることは無かった。

「ジュリって何だっただろう」

「最初からいなかったのかな」

「ジュリもキスも何もかも全て幻だったのかな」

 そう一人で呟きながらどこへ立ち寄ることも無く真っすぐ家まで帰る。その途中また泣きそうになったが、気持ちを抑えてなんとか泣かずに帰宅して、すぐに眠ってしまった。それ以降の日々もジュリが僕の前に現れることは二度となかった。


 ピピピピ……。

 パチっと横にある目覚まし時計を止める。

「少し嫌な夢を見ていたな」

「良い時間だ、バイトに行くか」

 あれから数年が経ち今の俺は大学生で、レンタルビデオ屋で週2、3回程度アルバイトをしている。この時期になると少し憂鬱になる。中学生の頃から田舎過ぎる地元が嫌いで都会へ引っ越したいと考えていたが、今でも僕はこの田舎まちを出れずにいる。ジュリとは何だったのか、彼女が持っていた不思議な魅力にまた触れることは出来るのか、そんなことを毎夏思う自分がいる。夏ってだけで不思議な魅力ともう繰り返したくない悲しさがある。

 それでも夏という季節をどうしても嫌いになれなかった。

 夏が訪れる限り特別な気持ちになれて、夏だけが僕を生かす。


「ジュリ」

 そう言い残して家を出て、レンタルビデオ屋へ歩き出した。

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夏だけが僕を呼ぶ。 T村 @poison116

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