第3話
―――どれだけ時間が経っただろうか?
青い光に包まれた眩しい光がなくなったので目を開けると、視線の先には眩しい大空。
なんだか、浜辺に来たようだ。僕は一応辺りを見回して、ほっと一息を吐く。取り敢えず、あの恐ろしい
視界の奥には、『非装備状態の右手を下に振ることで、メニューを開くことが出来ます』という文字が見えた。多分、さっきのメニューなんだろうけどね。
取り敢えず場所もかいてそうだし、開いてみようっと。そう思って、右手をブラーンと振る。
すると、本当にメニューが出てきた。
メニューの見た目はさっき見たものと同じで、四角い紫のホログラムだった。右半分に自分の見た目の正面図、左半分にはアイテム欄とか自分の装備変更、とかいろいろあった。
重要な場所は左上に書いてあって、小さく『遥か南の
どういう意味なのかはよく分からないけど、少なくとも穏やかではなさそうだ。
そう思っていると、【行動を配信しますか?】というアナウンスが。
悩みどころだけど、はいを選択しておく。こうしておけば、取り敢えず何とかなるでしょ。...多分。
『はじめまして。私は素甘って言うんだけど、そこに行っていい?』
「うわぁ!?」
直後、唐突に聞き覚えのある声が聞こえてきて驚いてしまう。どこかと見渡していると、いつの間にか僕を俯瞰するような視点でドローンが出現していた。声もそこから聞こえたのかな?
一人で納得していると、再び『...良いのかダメなのか言って欲しいんだけど?』と少しすねたような声。いつも無表情な彼女からじゃ中々考えられない言葉に、僕は思わずほんの少し笑いをこぼす。
『...なに?』
少し怒った様な言葉を放つ素甘ネキに「なんでも?あ、入ってきてどうぞ」と言っておく。
素甘ネキは分かりきっている予想通りに『じゃあ遠慮なく』と言って、音が途切れた。直後、【SUAMAが配信の視聴を中断しました】というコードが出てきて...。
「ひまだなぁー」
何をするでもなく、素甘ネキがやってくるのを待つ時間。一応同じイラストレーターなので、こっちの世界でも何かできないのかなと待ってみる。
【ワールドアナウンス:黄金の郷〈エルドラド〉が発見されました!発見者の承認と特定のコマンド入力で、黄金の郷〈エルドラド〉を初期スポーン地点にすることが出来ます!】
「―――ッスゥー...」
今回のワールドアナウンス、覚えしかない。さらに言えば、今更解放された理由も分かる。明らかに、素甘ネキを誘ったからだ。
【SUAMAが黄金の郷〈エルドラド〉へのスポーンを希望しています。許諾しますか?】
「勿論イエスで」
いいながら、僕ははいを押しておく。―――そう言えば、どういうふうにして入ったんだろうか?
『特定のコマンドってなんて打てばいいの』
「あ、ごめん。まだ決めてなかった。ちょっと待ってね...はい。大和田コマンドの逆打ち込んでくれればいいよ」
『分かった』
少しして、素甘ネキらしき何かが天空から降りてきた。...あれ、何か二人いない?後ろの、素甘ネキとうり二つな何かは何なんだろう。
「―――あ、初めまして。ヨイさん、であってる?」
現実の素甘ネキと同じ声の素甘さんに「あってますよー。シャムの作曲担当兼Vの人のママ、宵月ヨイでーす」と返しておく。
「...!?」
その言葉を聞いた瞬間、言葉はないけど素甘さんの目が大きく見開かれた。顔も驚愕に満ちている。あ、再起動した。
「...ヨイは、ずっと女の子だと思ってたのに」
直後、警戒感マシマシになった素甘さんが僕を睨みつけてきた。僕は手を上げつつ、「ネナベしたっていいじゃないですかー」と拗ねた風に言う。この時に唇を突き出すのは、素甘さんのいつもの癖だ。
驚いたように僕を見つめた素甘さんだけど、何かを諦めたんだろうか、もしくはネナベ―――ネットで男のふりをする女―――の意味を理解したのだろうか、はたまた警戒しても意味がないと悟ったのか、肩を落とした。
「―――分かった。じゃ、ヨイと会ってどういうふうにしたかったかって言うの、してもいい?」
さっきよりも明らかに柔らかい口調になった素甘さんは、僕に笑いかけた。
思わずかわいいと思ってしまって、僕は慌てて心の違和感を消そうとしたけど―――思い出してみれば、別に問題ないよね?だって僕、この世界でようやく念願の男に慣れたわけだし。
じゃあ、なんで僕は今躊躇ったんだ...?
僕の葛藤を知ってか知らずか、近くに寄ってきていた素甘さんは、「んー」と甘える猫みたいな声を出して、僕に抱きついた。
「すすすすす素甘ネキ!?」
思わず頬が赤くなるのを感じつつも引きはがそうとすると、「...ダメ?」と甘えるような素甘さんの声。
なんだか視界まで真っ赤に染まってくるような気がしながら引きはがすと、素甘さんは露骨に寂しそうな顔をした。
罪悪感が半端ないけど、流石に全く女に触れてこなかった僕には刺激が強すぎるって。
「...ま、いいよ。でも、代わりに明後日はリアルであおーね。タケノコニキも呼んでさ」
「わ、分かりました」
なんだか、今の僕の行動って、初めての恋人に良いようにされる陰キャみたいな感じに思えてきた。でも言い訳させてほしい!
僕は今まで、実質的な自衛の手段として、もしくは心の支え的な意味で殆どの時間をライトと過ごしてきた!ほとんど唯一と言って良い女性の体験も、なにか変な行動をしたらすぐにいじめられそうなクラスメイトしかいなかった!だからしょうがないでしょ!
そんな事を頭の中で考えていると、「...うぅ...」という弱弱しい声が聞こえた。そちらを見てみると、素甘さんと一緒に来た女の子が目を開けていた。子鹿みたい。
「...あ、初めまして。那岐姉の妹の、藍塚由那です。こんな不出来な姉ですが、末長くお幸せに...。」
そこまで言ったところで、由那さんはキッと鋭い目線を僕に向けた。
「...ですが!私は、那岐姉を他の男にやる気はありません!さっさと帰れ種馬野郎!」
「た、種馬野郎...。」
...アニメの中で、女の子に罵倒されて泣いて帰るチャラ男の気分がわかったと思った。
ヨヨヨと泣いたふりをしていると、割と強めな素甘さんの手刀が由那さんの頭に振り下ろされた。
「いったぁー!?」
そのまま頭を押さえている由那さんだけど、なんだかヒットポイントも若干削れてそうな感じがする。
ちょっと可哀想だから声をかけようかとも思ったけど、さっきの種馬発言でつい身を硬くしてしまう。
「...ヨイがまだいやそうな顔してる。由那のせい」
「ち、ちが...いったぁー!?お姉ちゃん、やめて!もうやめてー!」
『ワロタ』
気付けば、目の中にそんな文字が飛んでいた。そういえばこれ、配信したままだったわ。
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