第2話

僕とライトは、それぞれ各々のベッドにもぐりこんで、VRMMOへのダイブの準備をする。


VRMMOというのは異世界という事なので、元々は『VR世界に行く』という言われ方がしていたけど、誰が言い出したか『異世界に潜る』というのが流行り出した。


そして、更にそれを格好良く言おうとした誰かの手によって、『ヴァーチャルダイブ』という言語が生まれた。


まあ、そう言った経緯で、最近ではVRMMOをフルダイブ型、視界だけをVR化したものをセミダイブ型なんて言ったりもする。


「おし、じゃあ別々の所行こうな」

「了解、ついていってあげるよ」

「くんなよ!?」


割と本気でいやそうな顔をするライト。顔は見えないけど。全くツンデレだなあ...と心の中でぼやいて、僕とライトは互いにダイブする起句を唱える。


「「ダイブ・オン!」」

ダサいとかそう言う事は、このシステムを生み出した米国の人に言ってね!


―――どれだけ時間が経っていただろうか。

気付けば僕は、真っ暗な空間にいた。ライト曰くキャラメイクは薄暗い感じの部屋らしいので、此処は何なんだ、と思う間もなく―――。


『初めまして。これよりキャラクター製作が始まります』

という、女の人の合成ボイスが聞こえてきたのだった。


ほの明るくなってきたことで、取り敢えず何事もなくって安心したから、僕はキャラクター作成を始めることに。

まずは性別の欄だよね。そこには『Male/Female』という欄があった。Maleが男、Femaleが女という意味だ...って、ライトが言ってた。


勿論、Maleを選ぶ。この自由さがあるからこそ、僕はミリしらでもSSOの抽選に乗り出したんだからね。


『Name:_』

次に、名前だ。名前は悩んだけど、『Yoi』と名付けることにした。そう、宵月ヨイのヨイだ。宵なのかヨイなのかは考えてないけどね。


まあ、宵月ヨイというのは、結構有名だったりする。

いつもこそうちのグループで作詞しているだけだけど、一応はイラストレーター紛いの事もやっていたりするからだと思う。


ヴァーチャルライバーって言う職業の娘の担当イラストレーター、通称『ママ』をやっているので、有名というわけ。


結構配信に誘われることが多いけど、基本的にはお断りしている。ただ、誰かが電話くれるのを待つ『凸待ち配信』では流石に出るよ?ああいうのって、イラストレーターの人が出ないとなんか関係上手くいってないのかな、ってみられるみたいだし。


でもまあ、基本的には出ない。PCの維持費が高くなるからって言う理由だから、当然こっちもそんなに金を使わないようにしている。


―――より具体的に言うならば、インターネット喫茶とかいう奴で通話してる。


話は逸れたけど、次は見た目の細かい設定だ。髪色は、ちょっと青みがある銀髪で、ロングヘア。前髪は一房真っ赤なメッシュを入れて、前髪の左側には三つ編み。ケモ耳は―――どうやら選べないみたい。残念。


背は、現実準拠で167㎝。肉体は女子だから相当高い方らしいけど、ライトは174あるからなあ...。それで僕より筋肉量がないのは情けないけどね。


他の身体の部分も大体は現実準拠で、もやしみたいな体形で足は長く、でも細マッチョというね。


―――あれ?もしかしなくても、僕の肉体が現実でも男だったら相当モテたんじゃ―――?


...まあ、そんな事を考えても意味ないよね。悲しいかな、現実は女に生まれてしまったのだから。染色体異常だふざけんなーと言いたくなるよ。


次に、何個か選べる場所。何故かコントローラー式で選べるみたい。

ここでコントローラーが選べるなんて、いかにも何かしてくださいと言っている様なものだよね?


取り敢えず、大和田コマンドを打ち込んでいく。大和田コマンドというのは『OWADA』というゲーム会社のソフトに毎回あるコマンドで、強くなったり逆に弱くなったりするコマンドだ。


これは大和田の会社のものじゃないけど、大和田自体が「他の会社さんも使ってね!」って言ってるぐらいだし使われてるでしょと言う事だよね。


「上上下下左右左右BA...!」

突然、画面が光った。


【称号『大和田コマンド打ち込みやがったw』を取得しました。10スキルポイントが付与されました】

【称号『初めて大和田コマンド打ち込んだってことは、こっち側だろ?』を取得しました。180スキルポイントを入手しました】


訳の分からない理由と共に、スキルポイントというのが体の中に流れ込んでくる。

スキルポイントというのは一定のレベルで追加されるらしいポイントの事で、スキルを覚える一般的な方法だ。もともとは10ポイントが各々に配布されているけど、それもスキルを覚えるために使うと言う事だ。


スキルを覚える意外だと、なりたいレベルの平方分ポイントを払うと、スキルレベルが上がる。それがいまの称号で200というと、もしかしたらひとつぐらいレベル10くらいまでなるかも。


【ワールドアナウンス:匿名のプレイヤーが累計スキルポイント100を始めて超越しました。対象プレイヤーに50のスキルポイントを付与します】

【ワールドアナウンス:匿名のプレイヤーが累計スキルポイント200を始めて超越しました。対象プレイヤーに50のスキルポイントを付与します】

【ワールドアナウンス:匿名のプレイヤーが累計スキルポイント300を始めて超越しました。対象プレイヤーに60のスキルポイントを付与します】


唐突に、スキルポイントがまた大量に増えた。ライト曰く身体能力に振ることもできるらしく、攻撃一辺倒にしたときもあったとか。まあ、今はそんな事よりスキルポイントを―――。


そう思った瞬間、なんか恐ろしいものが見えた。黒塗りの箱―――またアナウンスだ。


【大和田コマンドの打ち込みの速さ:2秒56/S】

【大和田コマンドの後のスキルポイント取得量:350/S】

【総合結果:S評価】

【ボーナスとして、ユニークスキルを付与します】


目の前に、紫色のホログラムウインドウが出現する。たぶん、これがメニューみたいなものなんだろうけど...如何せん、数が多い!


唯一ユニークというだけあって数は他に比べて少ないのかもしれないけど、それでも確実に異常なまでの数があると言える。


数えてみると、全部で328個あった。ユニークスキル多すぎだろ。というか選ばせるなら付与じゃない気もするけどね。


しばらく悩んだ末、取り敢えず僕は極運というユニークスキルを取ることにした。

能力は、いわば【レベルアップの際のランダムなステータス上昇を一律引き上げる】と言うもので、相当よさそうだと思う。


こういうゲームって普通はレベルを上げた上で攻撃とか防御とか早さとかに尖らせるって言うのがいいらしいんだけど、その尖らせたステータスすべてと同じ能力になるっていう訳だ。つおい、確信。


【大和田コマンドを打ち込んだため、GM権限:無制限初期スポーン地点を入手しました】

もう慣れた女性の合成音声がもう流れてこないのを聞いて、僕は大きく溜息を吐いた。


どうやらまともな生活は出来なさそうだ。そう思いながら、僕は初期スポーン地点をぐるぐると動かしながら視点を彷徨わせた。



なんか面倒くさいので、もう一回大和田コマンドを打ち込む。ただし、今度は逆にうちこんで、下下上上右左右左ABと打ち込んでみる。


予想したことだけど、スポーン地点が『???』に決定した。要はランダムってことだね。悲しみ。


『以上で、初期アナウンスを終了いたします。それでは、素晴らしき広大なる世界をお楽しみください―――。』

その声と共に、僕は青い光に包まれた―――。

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