第1話

「始まっちゃうよ、始まっちゃう!スターソードオンライン!ヤッフー!」

僕は嬉しさのあまり飛び跳ねる。飛び跳ねすぎて足がもつれて転んでベッドにあごぶつけたって気にするもんか!ヒャッホー!


...結構痛かったけどね!?


てことで、手元にありますはスターソードオンライン。通称SSO。正式名称は、シュターネン・シュヴァート・オンラインだっけ?まあ知ったこっちゃないけど。


僕とこのソフトとの出会いは、今から7ヶ月前に遡る―――。


「おいサト、お前の望みが叶うぞ」

「本当に!?よくやったライト!」

「おわっ!?くっつくなよサト!」


去年の11月。僕は幼馴染で心の友、斎藤磊斗―――愛称はライ、もしくはライト。僕はライト派だ―――にSSOを貰った。


「はぁ...あんまりくっついていると、お前にこれやらねぇぞ?」

男のジト目なんて需要はねーよ!とは言わないのが優しさだ。


そんな事を考えていると、ライトが僕の脇腹に肘をねじ込んできた。相当痛い。しかもコイツ、一切躊躇が無いから本当に痛い。細マッチョな体系の僕じゃなきゃ悶絶してたね。


「いったいなぁ!僕を傷物にする気なの!?」

「変なこと言うなよ!全く...」


呆れた風に言いつつも、求めていたソフトをハードごと僕に投げ渡すライト。

「心の友よー!」

またもや引っ付いた僕を鬱陶しそうに引きはがそうとするライトだけど、単純な力じゃ僕の方が数倍強いから引きはがせるわけもなく。


「...勝手にしてろ」と毒づいて、抵抗をやめた。


「はぁー。これだからツンデレは。素直に、僕が好きだよーって言えばいいのに」

「は、ハァ!?ちげぇよ、お前の妄想だろ!」

「素直じゃないなぁー」


まあ、僕にとって言えばただのツンデレにしか聞こえないんだけどね。大方、僕にくっついてもらえてうれしいとかなのに...全くツンデレはなあ。


「あまり五月蠅いと、請求額釣り上げるからな!?」

真っ赤な顔で僕の抱擁を引きはがしたライトは、身体を払った後真顔に戻った。


「はい、10万」

「釣りは返さねえからな」


これも親友同士のやり取り。実際は、SSO付のスツーカ・フェイスで9万8000円だけど、2000円は買ってもらった代金と言う事だ。



SSO付の限定版スツーカ・フェイスは、SSOを模しているのか広大な大地とヘッドギア部の空中要塞が描かれているものだ。当然限定10万台では余裕で人が詰まってしまい、429倍という異常な倍率まで膨れ上がっていた。


しかもSSOが初期プレイできるのはこの10万人だけで、ライトが僕の分まで買ってくれていなきゃ本当に終わっていた所だ。


「いやぁー、ライトがαプレイヤーで良かったよ!」

素直に喜ぶと、ライトは「なんだよ気持ちわりぃ」と毒を吐いて、しかし少し自慢げに言った。


「俺はこれでもプロゲーマーだからな。VRMMOっていうのは俺と共に成長したと言っても過言じゃねえんだよ」


ドヤァ、という効果音が聞こえてきそうな傲岸不遜な言葉だけど、実際その通りだから何も言うことは出来ない。


元々病弱だったライトだけど、ライトのお姉さんが中学校に上がった小3から一気に体調を崩して入院していた。


そして、そんな中伝説のVRMMO『Sword and Magic Online』がリリースされて、ライトは世界初のVRMMOプレイヤーの一人となった。


そのおかげか、ライトはVRMMOと言う分野においては日本国内随一のプロとなっており、ついでに様々な国のVRMMOをプレイするために色んな言語を覚え、今では英語、仏語、独語、伊語、露語、日本語を話すことができるマルチリンガルになっている。


そんなライトだからこそ、一般開放されたと言っても一部のプロゲーマーばかりに解放されたαテストでも最も早く招待されたのだ。正直、幼馴染すっげぇ...という感想しか出ない。


そんなライトだからか、優先的にスツーカ・フェイスの購入許可が降りた。まあ、ライトだしね。


で、僕も勝ってやると息巻いたわけだけど...結果は惨敗。優しい幼馴染ライトが僕のために買ってくれていなきゃ、そのままこの作品を羨ましいと思いながら死んでいただろうと言うのは明白。


心の中でも心の外でも感謝しています!あざっすライト!よっ最高の親友!

まあ、此処で愛してるなんて言った日には男のツンデレとかいう需要ないものを貰うことになるからね。僕は女性のツンデレはいいけど、男のはいらんのだ。


「―――おーい、聞いてんのかー?」

「...あー、ごめん。全く聞いてなかった」

「うっそだろお前」


呆れたような言葉をくれたライトだけど、実際聞いてなかったからしょうがない。

「すまんもう一度言ってくれマイフレンドー!」と言いながら、抱きついておく。


「やめろってば!」と僕を引きはがそうとするライトだけど、(ry

ってことで、僕が離してやるとまた呆れた顔をしていた。


「...まぁ、何だ。これをやるんだったら、お前も男になれるさ」

「よっしゃぁ!」

僕は拳を真上に突き上げる。そう。







僕―――女なんだよね。







僕が特殊なんだって気付いたのは、小学校の時だ。幼稚園とか保育園って言うのは、ライトが大変でいけないのに僕だけで行きたくないと駄々をこねて通園を回避した覚えがある。


だからこそ小学校なんだけど、僕が男子トイレに入ろうとすると先生に邪魔された。

『お前は女なんだから女子トイレに行け』


当時、まだ分別なんてなかったクソガキの僕は先生に反論して、結局教師を殴って親も来る事態になった。


その後は、まあライトと一緒に特別学級に。―――特別学級と言えば聞こえはいいけど、要はなにかしら問題がある奴が一緒くたにぶち込まれたってだけなんだけどね。


懐かしい。そう言えば、あそこにもライトのお姉さんがいた。

小5で、確か磊華らいかさんって言ったっけな。


その時からPCカチカチやってて、何をやっているのと聞いたことがあった。

その時は、「プログラミングだけど何か?」と返されたのにもかかわらず意味が分からなかったけど、今ではその意味がよく分かる。


まあ、そんな事は置いておいて。

僕は、要は性自認?って言うのが男な女らしい。まあ、実際背はライトより高くなる事は無かったし、おんなのこの日も来たわけで。


でも胸は無いし、別にライトとかの親友って言うような奴らは僕を「男」として扱ってくれて。だから、今までの学生生活はおおむね楽しかったと言えるかな。


その後は、ライトと同じタイミングで入学できるように、学年一位の成績で中学受験をあえて一回失敗して。

緊急の三者面談で先生には色々言われたけど、お母さんもお父さんも理解しているからか、許してくれて。


その後は、一年間をライトの勉強の詰め込みに費やした。ちょくちょく僕が忘れた部分もあったけど、それで完全に補完して。


ライトが確実に入学できるだろう場所に、僕も受験票を出して、二人で一緒に入学して。


今の学校に入るときに受験成績一位なんて取ってしまって、新入生代表としてスピーチを読まさせられもしたけど、今はもうそんなのキニシナイ。


結局あの後、ライトがまた体調を崩して、そのまま退学になったので僕も一緒に退学して。


そのおかげで現在21歳、何事もなく仕事もない。いや、仕事がないと言うのは正確には嘘だけども。


ライトは何かできると言うわけでもないので相変わらずVRMMOのプロとしてちょくちょく外国の大会で優勝しては賞金かっさらってくる。


僕はまあ、戦時中とかのをボカロの曲として出すグループで作詞してまーす。

一応、みんなSSOをプレイするつもりで地獄の作曲作業してたけど、SSOをゲットできたのは僕―――作詞担当其の一宵月ヨイと、イラスト担当其の一の素甘さん、そして雑用のタケノコニキだけだ。


ってことで、残りの人たちには引き続き設定を練ってもらう。しばらくは作詞担当其の二の当方狂翁さんと、イラスト担当其の二の茜ネキ、二人をまとめる役兼楽曲担当のアンシュルスニキに頑張ってもらうしかない。


てことで、僕たちは一応収入はあるけど、片やゲーム大会、片や動画収益なので収入が不安定な部分が強い。


それに加えて、僕が賭け狂いな部分もあるので(まあ毎回ちょっと勝つんだけどね)、収入部分には大きな不安しかない。


と言っても、僕たちは二人でシェアハウスする身。ライトが文句を言おうと、二人の仲を引き裂くほどの文句は言えない。


まあ、いいさ。僕はこれから、VRMMOに潜るのだからね!

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