SternenschwertOnline

宵月ヨイ

プロローグ

「星と剣があなたを導く。」

それをうたい文句に、サービスが開始されようとしている国産としては初の大柄VRMMO、『Sternschwert Online』。


独語で星と剣を意味するSternenschwertに、とってつけたようなOnlineで、Sternenschwert Onlineという名前だ。


VRMMO産業というのは、米国が始めた『Sword and Magic Online』というのが初出だ。


しかし、剣と魔法を同時に用いると言うのは当然ながら剣と魔法の間に大きな格差を生み出すこととなる。剣が近距離しか戦えないのに対して、魔法は近中遠すべてに用いることができるのだ。


初期こそカッコつけ目的だろう剣士が多かった当作だが、段々魔法が基本ともいえる敵が出てくると、その内剣士は廃れていった。


やがて剣士が道楽もしくは魔法使いなど気にしない程度に強い剣士しかいなくなったころ、剣について大幅の強化が行われた。


魔法が相対的にナーフされ、魔法自体が聞きにくい敵が現れると、徐々に剣士と魔法使いの数は逆転していった。


しかし魔法使いは徒党を組んで剣士を襲うと言う、特権階級だったものの反動が表れてきた。


やがて剣士と魔法使いは完全に反目し合い、剣士が狩場にいれば魔法使いが、魔法使いが狩場にいれば剣士が狩っている者を襲うと言う状況に陥り、自然と永久にログオフ(日本でいう所のログアウト)するプレイヤーが増加し、サーバを維持するために必要な通信接続料と言うものも払われなくなっていき、気付けば『Sword and Magic Online』というMMOは過去の遺物となっていた。


しかし、VRMMOという業界が発展するには、一つのMMOハードの衰退などとるにも足りない事だった。


熱狂的なVRMMO熱の渦はアメリカから世界各国へと広がり、ヨーロッパを通って、もしくは太平洋を渡って日本へとやってきた。


その時、日本は大きくVRMMOという幻想とされていたジャンルの熱に巻かれていた。今まで、VRMMOと言うものを題材にしたライトノベルは腐るほど生産されていた。


特に、初代VRMMOがその名をオマージュされたと言われている『Sword ende Online』、通称SEOはコミカライズ、アニメ化されたには留まらずにグッズ化、果ては映画化までされた。


他にも有名なVRMMOライトノベルと言うのは星の数ほどあり、剣だけのもの、魔法だけのもの、挙句の果てにはデスゲームなどもあった。


いつぞやのオタクの祭典ではSEOの主人公のコスプレをしたものが『グローセ・ヴァーティカル!』と言って自分で作ったらしい鉄製模造剣(実測で刃渡り110㎝、重量は4㎏だった)を振り回して、そのまま銃砲刀剣類所持等法違反で捕まったと言う事案も発生するほどの社会現象となったVRMMOが日本にやってくるとあっては、日本人オタク、及びMMO中毒者は興奮せずにはいられなかった。


そして初めて日本にもたらされたのは、『Sword or Die Online』というタイトルの作品だった。米国からの輸入品で、電気に関しても120V60㎐という互換性の高いものであったため、米国VRMMOに足を踏み入れようとした者達は市販の周波数変化器具を用いてVR世界に飛び込んだ。


しかしそこで待っていたのは、伝わらない言語、理解できない文章。

それもそのはずだ。日本人が義務教育で習うのは、ブロック体と堅苦しい英単語。


伝わらないと言うほどではない拙い英語は、元々そのゲームにいたUSプレイヤーと新規参入のJPプレイヤーの間で格差を生み、筆記体で書かれたアイテムは日本人に購入できない謎物質と成り果てていた。


その結果、日本人プレイヤーは海外から輸入されるVRMMOのプレイを断念。今までMMOなどを作ってきた会社が、VRMMOを開発するのに頼り切らねばならなくなっていた。


そして、新型VRMMO対応ハードが生まれたのはそれから9か月後の事だった。

正しく言えば試作機なのだろうが、それでも一応完成にこぎつけたのだ。


『試作品:棺』と名されたそれは、文字通りに外見が棺だった。入ったら最後、そのまま土葬されるのではないかと思うぐらいには、棺だった。(西洋の基本である細長いものではなく、綺麗な直方体だった)


それに入った結論は、『なんじゃこりゃ』だったと言う。

米国のVRMMOハードは、頭部に被るヘルメット―――その、バイク乗りが被るようなフルフェイスのものだったのに対し、これは棺。此処で既に技術格差が生まれていることに気付いた人も多かっただろう。


次に運動性の悪さ。一人10分までとされていたが、その中でも300mも進めずに時間が来て強制ログオフの憂き目にあったのが全てだった。


極めつけは、電力消費の多さだ。10分間潜っているだけで、しかも激しい動き、例えば走るなどを行った際には数キロワットもの電力を消費した。一時間で見れば20キロワット時に及ぶそれは、2000wの業務用レンジを一時間ぶっ続けで使うレベルの電力消費だった。


だからこそしばらくは無理だろうと思われた小型化なのだが、経った4か月後、国産VRMMOハード機が誕生した。


『Stuka face』と名付けられたそれは、無骨な黒塗りのもので、しかもフルフェイスタイプではなく、ヘッドギアタイプとやや進化している。


しかも作った会社は『000』(アインソフオウル)という全く無名の会社。疑うものも多かったが、結局は興味に負けて試作品を購入する者は多かった。


試供品ということで付いてきたソフト、『猫と戯れたい』をプレイしたプレイヤーたち。その感想は...。


『マジ神じゃねーか!』

下手をすれば米国産のVRハードよりもよく動くプレイヤー。一部粗い部分が露呈していた米国サーバーよりも、単体のソフトの方が良いグラフィック。そう、控えめに言ってもそれは神なのだった。


そして、スツーカ・フェイスは他の国産VRMMOのハード機としての基本となった。スツーカ・フェイス規格に合わせられたソフトは、須くが高性能を示していた。


いや、その表現は正しくはない。正しく言うならば、性能自体は全てが高いのだが、それ以上にグラフィックが素晴らしかったのだ。


それは当然スツーカ・フェイスのグラフィックの能力が高いからなのだが...3000人程度が同時接続しただけで重くなるサーバーでは、VRMMO(大規模仮想空間オンラインゲーム)ではないと言える。


結果、ある特定ジャンルの中でもさらに細かい特定ジャンルのみを追い求める、小型のVRソフトが量産されるというよろしくない方向に日本のVR業界は動き始めていた。


そして、そうなれば一般人は『こんなつまらないものはやりたくない』となるのは道理。少しづつ、しかし着実に興味が失せた人が多くなり、最大規模を誇っていた『Sword das Online』でさえも最大で700人の接続人数というところまで落日し、斜陽に立たされていた。


そんな、ある日。

スツーカ・フェイスを開発したアインソフオウルが、突如声明を出した。


それは、新作VRMMO『Sternenscwert Online』のアルファテストを行うので、その際のテストプレイヤーを募集するというものだった。


一般的に、アルファテストというのは知識を持った人物が内部のバグを排除するために、さまざまなことを繰り返して最低限使用できる状態―――つまり、βテストの段階に持っていくものであって、一般人が手軽にアルファテストを行えるかといえば、それは否なのだ。


にも関わらず、アインソフオウルはそれを行った。

否応無しに期待が高まる中、学生の多い夏休みにそれは行われた。


夏休みが終わって、11月にβテストが行われ。

そして、6月に完全新作として『000の新作"Sternenschwert Online"』はリリースされた。

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