12.一握の死命
一握の砂となってしまった その光の粒を
僕は夜空に放ってみた 再び落ちてきたそれが
足元の枯れた砂たちに紛れて 忘れ去られたのに
僕は何も気にせず もう一度 光の粒を枯らす為
夜空に放る いくつもの願いが 枯れた砂と化すが
「きっと、その為なら仕方ないだろう」と
言い訳を夜空に貼り付ける すると
また 光は落ちてきて それは枯れる為に
一握の砂は忘れ去られる為に 夜空に舞う
そこが砂でいっぱいになる前は たぶん
誰のものでもなかったろう
誰かのものでいっぱいのこの世界に 誰かの為
光が落ちて来るようになってからは
誰もが一握の砂を 夜空に放るようになった
一人一つの光を落とすのに 誰もが言い訳を考えて
苦し紛れに それを夜空に貼り付けるけれど 結局
いっぱいの砂の一部分になることに変わりは無い
見渡す限り砂ばかりで 僕の足元に窪んだ所があるけれど
それ以外にそんな所は見当たらなくて 本当に
まるで一人ぼっちな気がしたから ほんの少しだけ
光を労ろうかと 枯らさない様に言い訳を考えるのを
この時だけ 夜空に貼り付けるのをやめにした
光の粒を死命から 出来るだけ遠ざけようと 僕は
砂でいっぱいのこの世界の始まり目指して 歩き出した
鳥が自由に空を飛んでいるのは 鳥籠から逃げ出したからで
自由に飛んでいないのなら それは きっと 鳥籠に戻る為
どこまでも歩いて ふと後ろを振り返った時
僕の歩いてきた跡が 誰かの足跡に見えれば 僕は
また 今握っている光の粒を枯らす為
夜空に放らなければならない その度屈んで 一握
砂を手にし 幾許の思いを込めて 歩き出すのだ
多くの旅人たちが同じように 歩く事を使命としているのに
歩く事をやめてしまった その旅人は どうやら
「一人を抱えて歩いているんだ」と言って
立ち止まってしまった それなのに
その旅人の代わりに歩き出した 僕は ずっと前
そこに辿り着いて その旅人が枯らした砂たちを
同じ夜空に 叶わぬ願いを込めて放っていた
水を無くす前に 命を終えたと思い込んで でも
水を無くしたからと言って 命は まだ 終わりには程遠い
重くなった肺が 話し掛けてくる様だ
寂しいと 虚しいと 儚いと 甚だしいと もう無理だと
その言葉たちも同じように 使命を全うしようとしていて
だから 僕は 鳥籠に戻ろうとしているのかもしれない
渇いた喉が水を欲し 探している間に命を いつしか
枯らした砂たちの下に隠していた事に気付いた すでに
水を無くす前に無くしたものがあったのに まだ
終わりには程遠い命を 「少しだけ終わりに近づいた」と
何の根拠も無いのに 水をわざと零して 僕は
「水を無くしたから、命が終わるのだ」と 言い訳を
砂でいっぱいのこの世界のどこかに隠したのだ
夜に空を見上げると 一握の砂を放って貼り付けられた
誰かの光が 地平線の彼方に消えて行くのが見えて その時
丁度良く 僕も始まりに辿り着いた様な気がしたから
手を開いて その光の粒を放ってみた
永い時間を遡って 一握の砂は 光の粒は 僕の光は
鳥籠の入り口に再び放られた まだ 終わりには程遠いのに
それらは どこまで歩いても 歩く事を死命とし
言い訳と共に夜空に貼り付けられ 幾度となく命を終える
もう 水は無いと知っているのなら その旅人は
探し出した命を 何の文句も言わずに啄まなくてはならない
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