8.ふたり旅
一体何に終止符を打てば良いのだろうか
いや 何を終わりと呼ぶべきか 又は
一体何なら終わりと呼んで良いのか
僕はそこら辺の事を一切知らなかった
だから きっと その所為で
終わりなき旅を続ける事も
いつの間にか旅に終わりを告げる事すら
決められないまま 今が過ぎて行く
無数の今に終止符が打てるはずなのに
やって来る今が大事に見えて
どれも失いたくないと思ってしまう
旅に出れば何れ終わりが来ると思っていたが
今やって来る今は「今」であって「終わり」ではない
それがやって来るまで待つかどうか
決められないのを 一体誰の所為にすれば?
一切の選択を誰に託せば 正解なのだろう
瞬間を 一瞬を 1秒を 必然的に逃す僕
ただ今を「今」としてしか受け入れず
それ以外の捕らえ方をしようとしない
生にしがみ付いて 「今」に縋って
僕は旅を続けている
――終わる事は許されない
誰が決めたのか そして
誰が選んだのか
ずっと 何も知らない振りはできそうにない
いつかは終止符を打たなければ
僕は旅をも終えられないだろう
無数の「今」から一つだけ選んで それを
「終わり」としなければならない今を
旅でもするかのように 僕は歩き続け
それが始めから「終わりなど無い」と
決められているものだと知っていたのなら
それを選ばず 何を選んでいただろう
選べる何かがあるのなら
瞬間を 一瞬を 1秒を 絶対的に大事にして
僕は旅の中訪れた「今」に終止符を打ち
「今」と呼ばれる旅を終えようと思う
――終わる事は許されない それは
たぶん僕が決めたこと 選んだこと
始めから「終わりなど無い」と
僕に気付かれないように 僕が決めていた
選べる何かは無かったのに
旅に出る前に「終わり」を失くしてしまった時から
「今」は続いていた 旅の中歩き続け
いずれやって来てしまった終わりを前にして 僕は
結局 何もする事ができない そして
やはり 僕に気付かれないように後退りする影
それは 「終わり」をまた失くしてしまったかのように
さっき見つけたばかりのそれを ポケットに仕舞う
きっとその影は今頃旅路に着き 再び歩き始めた
僕は一体何なら終えられよう
瞬間の 一瞬の 1秒の中にはもう何も無い
僕はただ一人で居る事を選んで 影を失くした
何も得てはいない事を気にする前に
終わりなき旅路を堂堂と歩く影の行き先に
終止符を打つべきではないだろうか
何も知らないその影は 僕のように一切を知らない
だから 影である事を
その所為で歩ける筈のない事を
いつからか知らないでいる
「いつ、再び歩き始めた?影」って
そう言えば 終止符を打てると思っていた
旅路じゃなくて 僕の下に再び戻って来てくれる
そういう願いを込めて言ったのに 僕は
僕の下に影を失くしたまま 歩き始めた
――終わる事は許されない
取り消し方を知っている振りもできそうにない
それから 本当は「今」歩いていない事を
知らない振りだって もう 「今」更不可能で
本当に歩き始めるのも無理な事となり
影を失くした後で ずっと後で 僕は泣いた
溢れ零れる涙を 瞬間と 一瞬と 1秒の中に注いだ
そんな狭い中には少ししか入らないけど
限りある時間を使えば 入る気がした
「もう 終わろうか、影」って 言葉を落とした
暗い地面に落ちたそれを
誰が拾ってくれるだろう そして
いつか明るい地面となるそこに
無数の今が再び訪れることはあるのだろうか
僕はポケットを覗いた
そこには
大事に仕舞われた「終わり」があった
それは
やって来る今に終止符を打てるものだった
だけど
僕は彼のために使った
僕が居なくなっても 彼が再び歩けるように
――終わる事は許されない
いつか明るい地面となったそこに その言葉は揺るがない
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