一話 救世主 3

  ◇


 無事ワイヤーを利用して着地し、溜息を吐いた。


 仮面をはぎ取り、ポケットへ雑に突っ込んでから、俺――那由多絢は溜息を吐いた。


 切り抜けられた。しかし、今の敵――銃まで持ってた。あの格好といい、砂羽に使っていたあの刃物といい。どうしても忍者を彷彿とさせる。


 まぁ、そこらへんの情報回収は透明少女側でやってくれるだろう。夜は仕事が早いし、なんなら明後日にでも結果は出るはずだ。世界を股に掛けるデータベースを侮ってもらっては困る。


「あーあ、疲れた疲れた」


 金髪のウィッグの上からガシガシと頭を掻き、アリス・メイソンへ報告を行う――という一連の流れを、一旦止めた。


 そういや連絡は要らんと言ってたな。それを思い出して携帯端末をしまいかけるが、やはり連絡はしておいた方がいいだろう。


『襲撃あり。三名拘束。三名は夜に引き渡した。当方被害なし』


 それを送ると、すぐに返事が。


『相変わらず律儀ですね。無事なら結構』

『誰かさんが心配で泣いてないか不安でね』

『あら。バレちゃいましたね、恥ずかしい』

『思ってもないくせによく言うよ』

『……無事でよかった。くれぐれも怪我などはなきようお願いします』

『了解。最大限努力する』


 送信し終わって、ふうと溜息を吐いた。


 四月の生暖かい風が吹き抜ける中、携帯端末をポケットにしまい、空を見上げる。


「……了解、ね。まぁ、それに越したことはないけど」


 敵は、最悪な想像をすれば忍者だ。本物かどうかはさておき、なんか変に強いイメージがあるんだよな。ほぼ外国人の俺が想像する忍者は、何か刀と魔術のようなものを使用して戦う、速度に特化したアサシン的な感じなのだが、実物は違うと日本に住む砂羽に言われたことがあった。漫画みたいな術は使えないし、超常的な力は持たないらしいし、なんというか物凄く地味だということだったが。それでも俺の貧困な発想力から捻出されるのは手ごわいというイメージ。まぁ、侮って手痛い目に遭うよりは億万倍マシか。


「はーっ、早く帰ってアイス食おう」


 疲れた時には甘いもの。疲れてなくても甘いもの。どんな時でも甘いものというのは体に染みるものだ。


 中でもアイスクリームはカロリーも高く、吸うタイプのラクトアイスだと摂取も容易だ。携帯には向かないため、いつも持ち歩いているのはチョコレートではあるが、アイスクリームが個人的に一番好きな、いわゆるご馳走だった。金は有り余るほど渡されているが、貯金とアイスクリームに消える。貯金だから消えるという表現も変だが。


 そんな俺の食生活を心配してか、夜を筆頭に他の透明少女の少女達が世話を焼いてくれていた。料理は作ろうと思えば作れるが、自身の手作りなど食いたくもないし、何よりめんどくさい。食わせるだけなら百歩譲って作る気にもなるかもしれないのだが、やはり自分の作った飯なんて俺は食べたくないというのが本音だった。また、自分でそう思うものを人に喰わせるわけにもいかないので、結局料理はやらない。


 帰宅すると、何故か俺の部屋にいい匂いが。食欲をそそる匂い。


「……?」


 換気扇をつけ忘れたのか、肉を焼いたような匂いが残っていた。冷蔵庫を見ると、ハンバーグ四つと付け合わせの野菜サラダ。メモも見つかる。


『二個どうぞ。もう二つは私が食べますので、残しておくように。後アイスばかり買わないこと。冷凍庫が使えないと用意できる食事の幅が狭くなります』

「ここで食う気なのかよあの野郎」


 朝、微妙に遅れていたのはこれか。


 まぁ、夜は部屋に匂いが残るのが好きじゃないらしいしな。何でも、好きな匂いがあるらしく、それに包まれていたいんだそうだ。そのくせ人をよくベッドに寝転がらせるのだからよく分からない。俺の匂いが好きなのかと訊くのもさすがに自意識過剰かもだからしないが、もやもやするのは確かだ。


 あって良かった電子レンジ。備え付けの家具が嬉しい。


 ほかほかになったハンバーグだが、うっかりしていた。付け合わせの野菜までホットに。キュウリとかこれ温めたら美味いのか? 全く想像がつかん。


「……」


 ウィッグとカラコンを外し、一息。


 とりあえず温かい野菜たちに買い揃えてあったマヨネーズをぶち込んで、白飯を盛ってから食べ始める。意外に温かい野菜もいいものだ。キュウリ以外。


 あっという間に食べてしまい、食後の吸うタイプのアイスを口に流し込んでいると、夜が帰って来た。


「ただいまです」

「いやここお前の寝床じゃねえから」

「似たようなものです」


 しれっとそう返す夜の図太さは見習いたいが。無論皮肉だ。


「全く違うけど、メシありがとう」

「いえいえ。好きで作っているので。美味しかったですか?」

「ああ。しかし、野菜までチンしてしまってな」

「それは……最初に避けとけよとしか」

「だな。アイス食うか?」

「いやその前にご飯ですよ」

「食って来たんじゃないの?」

「砂羽と雪様と一緒に牛丼キメてきました。まぁ足りなかったので食べようかと」

「牛丼をあぶねえ薬みたいに言うんじゃねえよ」

「アナタだってアイスキメたとか言うでしょ?」

「確かにアイスは好きだが、その表現は様々な誤解を鬼のように招くからやめろ」

「招く……招き夜ちゃん。ゆうべはおたのしみでしたにゃん!」

「お前のキャラ分かんねえよ。どういうキャラなんだよお前は」

「いつもジト目のクールビューティーで、美少女で、どーぉぉぉぉっしようもないカッコつけカツラ金髪のお姉ちゃんです。ね、気障太郎」


 ……気障太郎。金髪ウィッグを被った俺のことを言っているのは間違いない。


 金髪とカラコンをした俺は、意識的に最強のヒーローへと変身する。正確には超激しい思い込みにより、潜在能力の百パー近くを引き出す精神状態へ昇華する、いわばなり切りなのだが。これを俺はキネティックモードと呼んでいる。夜はこれをキネモと略しているのだが、なんかキモイと語感が似ていてとても悲しくなる。


 戦闘力の向上が見込まれるが、その代償は冷静になった時の羞恥心という形で返ってくる。プラス、思考速度も早まるため、使い過ぎればひどい頭痛を伴い、最悪脳神経が焼き切れるらしい。連続的に使用はできない感じだ。そんなこともあってか、俺はキネティックモードはあまり好きではない。


 その話を蒸し返されて、自然と眉がつり上がるのを感じていた。


「辛辣じゃないか? 俺が来なけりゃ護衛対象はあの世行きだったぞ」

「まぁそれはそうですが、それはアナタの業務ですし。いや、今日も寒かったですよ。どんだけカッコつけるんですか、悪い意味で鳥肌が止まらなかったです」

「や、やめろ……! ああなっちまうと、なんかこう、無敵なんだよ! 恥ずかしいのは後から来るんだよ!」

「それは知ってます。ですが今弄っておくのが最高に楽しいので」

「ドSかお前は」

「いえ、ドMです。知ってるでしょう」

「ああ、そういやそうだったな」


 お互いの性的嗜好まで分かっているのだから、何とも言い難い。


 アリス・メイソンだけじゃない。俺は思春期にミリオンナンバーと同じ教育を施された場所で、最初は興味のまま、それからは望まれるがままに関係を持ってしまっていた。思い出す前に別の話題に切り替える。


「夜、あの後どうなったんだ?」

「ああ。構成員に引き取ってもらって、牛丼食べて、送り届けて帰宅しました」


 チン、とレンジが鳴る。ホカホカに温められたそれを並べながら、夜は溜息を吐いた。


「かなり強い相手ですね。とはいえ、さすがに救世主の足元にも及びませんでしたが。これの頭となると……いえ、心配は無用ですかね」

「なんでだよ」

「大体、集団のトップというものは実力に秀でていません。他人を掌握して動かす能力に長けているか、カリスマがあるか。そのどちらかです。戦闘力が尖っているので、そいつについていけ。こんな地雷な集団が今日日生き残っているとは到底思えませんしね」

「いや、そういうやつは実力もあるだろ。最低限実力がないと――結果を出せないと、人ってやつはついてこない」

「そういう人もいるでしょうね。ですが、大多数は上に行けば行くほど、戦闘力は低いです」

「油断せずに行こう、って話だ」

「それはごもっとも」


 白飯を頬張りながら夜はそう言って、ギターケースを押し付けてくる。


「点検お願いします」

「自分でやれ」

「アナタ今暇じゃないですか」

「……ったく」


 飯の世話になってる手前、嫌とも言いにくい。まさかそれを見越してるんじゃないだろうな。そんなことを思いながら、彼女の……何だったか。ヴィントレスという消音機が標準搭載されてる、超小型のスナイパーライフルをケースから取り出し、分解して手入れを始めた。


 普通こういう得物は、自分で管理するものなのだが。そうしないと安心できない、という人間が多数派だ。自分の背中を預ける武器を信頼できないと、本当に戦場で心細い思いをすることになる。メンタルで負けていたら勝てるものも勝てなくなるというのが俺の持論だ。だから、こんな武器を専門家でもなんでもない俺に手入れさせるのはよく分からない。


「何で自分でやらないんだ?」

「アナタが仕事でヘマをするような人間には思えないので。それに、アナタのミスなら、納得できます。納得して死ねると思います。それだけです」

「……そうか。って、これ弾丸の方は見たことねえな」

「電撃弾。アナタが使ってたものとベースは同じです。それはこの銃用にカスタムしてあります。食い込んで電流を放つ代物です」

「毎度思うが、ウチは結構えぐい装備あるよな……」


 ついでに俺のブロウニングも分解して手入れを始めた。


 すっかり食べ終わり、後片付けまでした夜は、目ざとく高級アイス――とはいえ三百円程度だが――を取り出して目を輝かせていた。


「おお、私のために高いアイスまで」

「それ食ったらマジでぶちのめすぞ。吸うタイプなら許可する」

「はいはい。乱暴にされるのもいいですが、今日はちょっとしんどいので吸うタイプで」


 賢明だ。


「これ、最初出が悪くて少しイラっとするんですよね」

「慣れろ。あれなら中まで割り箸でふさいでる氷をどかすと中身が来るぞ」

「さすが食べ慣れてますね」


 早速箸を突っ込んでいる夜に背を向ける。


「いずこへ?」

「風呂。入ってくるなよ」

「残り湯を堪能するので問題ありません。洗っておきますね」

「…………色々釈然としないが、頼んだ」

「はい、お任せあれ」


 ヘンタイ一人を残して、俺は脱衣所に入る。


 自己嫌悪。手にキスとかないだろマジで。どんな奴なんだよ、急に出てきた仮面の変質者じゃねえのか俺。


 ああああ、もう。やっちまったもんはしゃーないんだけど、くそっ。


「……ん?」


 手早く髪顔身体を洗って温もった時点でさっさと上がると、砂羽のやつがメールしてきてる。


『ありがと、絢兄ちゃん! 次こそけちょんけちょんにするからね! 兄ちゃんを!』

「俺をかよ!」


 もっとその気概を敵に向けてほしいんだが……


「……」

『おう。ゆっくり寝ろ。疲れるから頭使わせんなよ』


 こう返信する。


 正直、頭痛はあの程度では起きないのだが、身体能力を使い続けると支障が出てくる。


 キネティックモードの弱点。そう、俺の欠点は継続戦闘能力だと自分では思っていた。高速で動ける体があっても、頭が付いてこないとお話にならない。俺は思考の速さが身体能力で追いついているので強い。よくあるだろう、致命的な危機に陥った時、状況がやけにスローに感じる現象。あれを意図的に起こすことができて、且つその時間の中で普通に動ける。キネティックモードはその状態へ自分を昇華する、凄まじいなりきり。それが俺を透明少女最高の戦闘力に押し上げた能力だった。


 型番が増えるごとに能力は先鋭化していく傾向がある。夜なんかがいい例だ。あいつは夜目と視力に絶大なアドバンテージがあるが、日中に目が光を集め過ぎて、調子が良すぎると視界が真っ白になるのだそう。フラッシュバンが天敵だ。あいつはポジション的に後ろだ。狙撃専門。夜がああいう直接的な戦闘に加わっている時点で、本来は負けなのだ。


 それはともかくとして、先鋭化は俺にもある。


 この超常的な思考能力と身体能力の代償は、頭痛となって返ってくる。前にも述べたが、三十分も使っていたら脳に負荷がかかって気絶した方がマシクラスの痛みが襲ってくる。


 けれども、短時間の戦闘ならデメリットは皆無だし。今回は俺がいるからこんな無茶な編成をしたのだろう。砂羽は恐らく勘定にすら入っていない。夜もいざと言うときの護衛なのだ。実質俺のワントップ。それで片付くと、夜も、砂羽も、アリスもそう思っている。


 透明少女の幹部とは、一人の投入で絶望をひっくり返せる。最低限、その能力がなければならない。自負でも何でもない、単なる事実。


 それに、一応奥の手もあるしな。


「あー……にしたって……」

「はいはい、過去に懊悩してないで早く出てください。ワタシもお風呂入りたいです」

「今更だが俺の部屋の風呂に入るな!」

「いや、どうせ掃除するなら一か所でしょう。なんなら久しぶりに一緒に入りますか?」

「これ以上疲れさせるな」

「残念です。ほら、お風呂上がりのアイスがありますよ」

「そりゃ俺んだろ!!」

「全く、仕方ないですね……」

「せめて脱衣所で脱げ」


 目の前で脱ぎ始める馬鹿は放っておいて、俺はちゃんと今日は自分のベッドで……。


 ……メッチャいい匂いがする。でもどこか落ち着く匂いだ。夜の、甘い体臭が一夜で染み付いているらしい。


「……まあいいか」


 さほど問題じゃないだろう。俺はそのまま目を閉じ、意識を手放した。


 戸貝雪護衛任務は、思ったより難しい事態になりそうだという、俺の不安が当たっていないことを切に祈りながら。





 翌日、登校して自分の席で上体を伏せて寝ていると、近くに人の気配。砂羽かな。でもやつは殴り掛かってくるだろうし。無視しておこう。


「あのう……」


 無視だ無視。いや、この声は覚えがある。最近覚えた、戸貝雪の声だ。変にこじれても面倒だな……それに返事をした方が短く済むか?


「何?」


 そちらを見ずに、声だけで応答することにした。


「顔をあげてくれませんか?」

「話は聞いてるから。俺明け方までゲームしてて眠いんだ、手短に」

「はい。お友達になりませんか?」

「ならん」


 キッパリとぶった切る。普通ならこれで終わりだ。


「そこを何とか!」


 強いなこの女。なんで食い下がる。意味が分からん。


「無理ったら無理。女の子の友人とか勘弁してくれ、もういい」

「もういい? 見たところ一人のようですけど……」


 おっと……うっかりしてた。俺以外の構成員はほぼ女性だし、ミリオンナンバーとはほぼ友人だから。気を付けねば。


「いや、砂羽だけでお腹いっぱいなの。しっし」

「でもわたしは友達になりたいのです」

「無理だっつってんだろ。いーから、さっさと自分の席で大人しくしといて」

「けれどもですねえ、わたし、あなたとお友達になりたく……」

「だぁぁぁぁっ! しつっけえなあ!!」


 思わず戸貝雪を睨んだが、彼女は微笑みを返した。殺意なんて乗せてないから当たり前だが。


「ようやくこっちを向いてくださいました! あの、わたし、あなたに興味があるんです!」

「なんでまた。俺にはないぞ。さっさとどっか行ってくんねーかな。俺はな、平穏な学園生活送りたいのよ。そっちの、暁夜さん? とか、砂羽とか、目立つ奴しか周りにいねーじゃん。俺そんなグループとつるんだら否応でも目立つじゃん? 勘弁してよ」


 無気力を演じる。それが至上命題。極力、関わり合いのある人間じゃないと思わせておかないと、戸貝雪が要らん気を回す可能性がある。よくある偽善者の思考だが、命を狙われているから友達は逃がしたいとか無意味なことを宣う馬鹿が、そりゃあよくいる。一般人は大体そんな傾向だ。自分は死なないと、金持ちはどこかでそう思ってる節がある。ここで繋がりを断つことで、狙いが俺になったとしても戸貝雪に影響は及ばなくなる。


 だというのに。俺の画策など気づくはずもないのだが、無遠慮にこちらに好意を向けてくる。なんで寝っぱなしのやつをこんなに気に掛けるかね。


「でも……お友達になりたいのです」


 あーもう、この子は困った子だな。こう言ったやつは何言っても無駄だ。心を折られるか暴力に屈服するかしないと意思を押し付け続けるだろう。前者を暴力抜きでやれる自信が無いし、護衛対象に暴力を振るうなんてさすがに俺もそこまで愚かではない。


 最適解は――これか。


「……俺はお前を友達とは認めない。けど、そっちが勝手に思う分には自由だ」

「! はい! えへへ、ではお昼とか一緒に食べましょう!」

「断る。他人の食事のペースに合わせてプライベートな時間が減るのは却下だ」

「つれないですね……」

「んで、名前なんてったっけ?」

「あ、わたし、戸貝雪と申します! あなたは、那由多絢さん! 女の子みたいですね!」

「ああ、かもな。何の間違いか、って感じさ」


 そう、那由他計画の、綾。


 かつてアリス・メイソンの遺伝子で最強の人造人間を作る計画があった。尽くが失敗し、処分された、黒歴史――那由他計画。その破棄が決まって、研究者達は最後に遊んだ。アリス・メイソンの遺伝子に固執せず、ただ最強を生み出す――その、アリス・メイソンの遺伝子に囚われていないミリオンナンバーの番外、言葉の綾。ラストナンバー、ピリオド。それが、俺、那由多絢だ。


「戸貝、なんで俺に執着する」

「そ、そこまでしつこくないですよ!」

「いーや粘着質だったね。どうして友達なんぞになろうって?」

「……気になったから、です。それ以上でも、それ以下でもありません」

「ふーん。普通にしてたんだがなあ」

「それが、わたしの普通とは違う目に映ってました。全てがどうでも良さそうで、さっさと時間が過ぎないか、と。ただ退屈そうに見えていました。そういう方は財を得た人間でたまに見るのですが……こんな若い方がそうだなんて、気になりまして」


 ……鋭い奴。まさか学生の怠惰っぽい行動に俺の本質の一端を垣間見るとは。


 そう、学業の部分はどうでもいいという認識があった。疎かにしていた。それは否めない。さすが人の上に立つ者の娘、そういう教育でも受けているんだろうか。


「お前案外怖い奴だな」

「え、ええ……? 怖くはないと思います。普通の女の子です!」

「普通の女子ってのはな、自ら普通アピールしてこねえの」

「何やら仲が良さそうですね」


 夜がサングラスをくいっと位置を直しながら現れる。救世主だ。


「あ、暁。ちょっとこの子どうにかして」

「ワタシも見ておりましたが、もう少しクラスメイトとコミュニケーションを取りましょう、那由多君」


 裏切りやがって……。後ろに気配、砂羽だ。攻撃の意思はない。飛びついてきたのでそのままにさせる。


「絢兄ちゃん、もう少し仲良くしよーよー。一人だとつまんないよ?」

「暑い、砂羽。てかお前らどっか行けよ、俺ら仲良しみたいじゃん」

「今日からお友達です!」

「ええ、クラスメイト同士、話をするくらい、いいじゃありませんか」

「そーそー! 絢兄ちゃんは考えすぎー!」


 お前らが風来能天気なだけだろうが。というのは簡単だったが、まぁ、近ければ近いなりのメリットがある。接触が容易になるとか、まぁその辺。面倒の方が増えるのだが……こいつらには通用しないんだろうなあ、と思いながら。めんどくささに気だるさが加わり、俺は砂羽に抱き着かれながら、もう一度机に伏す。


 あーもう、こいつらめんどくせえ。そう思いながら、意識を手放すのだった。

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