第8話

真っ青に渡辺の顔色が一変した。


「は、はは…何かと思えばAIで作られたフェイクじゃないか。とても驚いたよ」


冷静さを装おうとするが、声が震えていた。が、徐々に冷静さを取り戻す。


「そもそも私は協会長からも信頼が厚い総務統括局長だ。こんな偽装資料、協会長も職員も誰も信じるはずがない。それより、君は一体何者だね?突然こんな夜更けに人の家に押し入って…警察を呼ばせてもらうよ」


渡辺が通報しようとスマホを取り出す前に真希は一歩前に進み、さらにある画面を見せつけた。


それは複数の電話番号が表示された、一見なんの変哲もない連絡先一覧。


「これ誰の電話番号かわかる?」

「?……そ、それはッ⁉︎」

「解ったみたいだね!そう、これは協会長直通の個人電話番号。そして、その下がダンジョン管理省の大臣と副大臣の。それから警察庁長官の…どう?私が誰と繋がっているか。そして誰の指示なのか…」


一つ一つ指を指し、わかりやすく教える真希が笑みを深めると、唯でさえ青かった渡部龍一の顔が真っ白に変色してゆく。


渡辺は滝の様な冷や汗を流しながら、目の前の少女を見つめた。


自分の地位を利用して隠してきた悪行がすべて暴かれていることを確信した瞬間、彼はついに声を失い、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。


一瞬で20歳近く老けた様で非常に滑稽な様である。


まぁ、私は誰とも繋がってないんだけどね?(てへっ♡)


原理は簡単。現職の錚々たるメンバーのスマホにハッキングを仕掛けて電話番号(それ+弱みを握れそうな情報諸々)を抜き出し(勿論、バレてない)、リストアップして表示しているだけに過ぎない。


しかし、この事実を知らなければ、自分渡辺龍一よりも上の方々と繋がっていて、”使”と指示を受けているヤバい少女であると瞬時に理解できる。


仮にこの話を断ったとしたら、証拠はマスコミ等に持って行かれれば、私の此れまで築き上げてきた地位は失墜してしまう。


一体…如何すれば良いのか。


答えは一目瞭然であった。


「…な、何が望みなんだ…」


生き残る為に、全面的にこのヤバい少女の要求を受け入れるしかない。


余りの事態に渡辺は、全面的な無条件降伏を決めた。


精神干渉で誘導しているけど、探索者協会に努めていながらステータスは低いし、面白い様に引っかかるね。


…と言うかさぁ。大臣たちを洗脳してしまえば幾らでも特例許可を発行させれるし、好き放題悪法作って施行し放題なんだよ。


でもやらない。


ぶっちゃけ閣僚全員を洗脳すれば楽。だけど、それじゃぁ楽しく無いでしょ?って訳ですよ。私が色々引っ掻き回しすぎた所為でボロが出て、収拾が付かなくなったらリセット的な意味で全員洗脳するのは有り寄りの有り。


まぁそれは兎も角。


「言ったでしょう?私まだ9歳だから、特例を認めてくれないとダンジョンに入場できないの」


こんな仕打ちをしてくるこれまでの悪行を棚に上げてガキリアル9歳がいて堪るか‼︎という遣る瀬ない怒りをグッと飲み込んだ渡辺であった。


「それをどうにかしたくてね。直ぐに許可証を発行できる渡辺さんに接触したってわけ…で、どうします。私と取引しませんかぁ?」


一枚書類を取り出しつつ、話しかける。


「私は貴方の秘密を守ります口約束…。その代わり…私の要求を全て全面的に、渡辺龍一の意見や提案として通してください。できなければどうなるか…お分かりですね?(にちゃぁ)」


渡辺は暫しの間無言で座り続けたが、やがて項垂れたまま頷いた。


「”わかりました”でしょう?」

「……”わかりました”」


渡辺が同意を口にした瞬間、真希が事前に仕込んでおいた契約魔法が発動。真希と渡辺の間に強制的に契約が結ばれた。


内容は下記の通り。

——————

契約者: 渡辺龍一(以下、「隷属者」とする)

契約者: 真希(以下、「主」とする)


契約内容:

  1. 絶対服従の義務

隷属者は、主に対して絶対服従を誓うものとする。主の指示、命令、要望に対して隷属者は、いかなる場合もこれを拒否、反抗、または遅延させることを禁ずるが強制ではない。


訳)意思の強制はしないけど、破ったら2.3.4.が発動しちゃうぞ☆


  2. 反抗による連座制の発動

隷属者が少しでも反抗的な態度や言動を示した場合、あるいは主の命令に従わない場合、その場で隷属者の最も近しい親族(妻、子供、両親等)の命が即時に抹消される。なお、隷属者が反抗を続けた場合、残る親族も順次抹消されることとする。さらに親族が絶滅した場合、隷属者本人の命が抹消されることとする。

3. 証拠隠滅及び隠蔽の義務

隷属者は、主に関するあらゆる秘密を守る義務を負う。いかなる状況下でも、主に不利益をもたらす情報を第三者に漏洩してはならない。違反が認められた場合、連座制が即座に発動する。

4. 契約破棄の条件

この契約は、主の意思によってのみ破棄される。隷属者が契約を破棄しようと試みた場合、連座制が即座に発動する。

——————


である。


質の悪い奴隷契約だね。しかも、魂レベルで複雑に縛り付けているので、現存する如何なる方法を持ってしても解除できない特別仕様。


ぶっちゃけ、やった私でも面倒くさくて解除したく無いですw


契約内容の詳細は、約定時点で渡辺の脳裏に刻まれている。反抗的な態度を取ったら如何なるか強制的に理解させられるので、親族が死ぬのを全力で回避する為に、私に忠実な奴隷となってくれました。


別に反抗してくれても良いんだよぉ?


自分の所為で親族が死ぬ瞬間を映像で見せつけたら…どんな反応をするか楽しみたいからねぇ(ゲス過ぎる)


因みに何故、両親に行った様な洗脳を施さず、こんなにも回り諄い方法を取ったかと言うと…単純に犯罪者の命を弄びたかっただけである。


余談だが、勝手に命がbetされた渡辺の親族だが、勿論犯罪に手を染めていない真っ当な人物も存在する。


しかし、奴隷である渡辺龍一が苦しむ面白い姿を見れるならば、興味ない人間が幾ら死のうが如何でも良いと考える真希にとって、配慮する価値も無い。


ほら、戦争で敵国の民間人を吹き飛ばしても「まぁ敵国人だから」って理由で心が痛まいみたいな…ちょっと違うかな?そんな感じよ。


「いやぁ、こうして自由に使える奴隷が欲しかったので、丁度良かったです!」


真希は満足げに微笑み、スマホをしまう。


「さてさて…では主として命じます!


・私の親しい人に手を出さないでください。

・探索者証明書と特例認定記載済み探索者カード、最新の配信用機材一式を用意し、今より2日以内に私の元へ届けてください。


以上。よろしくね〜」


私の個人情報等が記載されている住民票や家族の免許証のコピー、両親のサインと捺印済みの探索者申請同意書類など、申請に必要な書類諸々を受け取った渡辺は力なく頷き、真希が消えるのをただ見送るしかなかった。


後には項垂れた男と砕け散ったグラスだけが残された。




*****




翌日の事だが、特例条文に定められた試験等諸々を免除されて申請された探索者証明書と特例認定記載済み探索者カード、最新の配信用機材一式が渡辺の手配により届けられることとなる。


尚、本邦初の10歳未満の特例認定の為各所の圧力により滅茶苦茶制限が盛り込まれていたにも関わらず…、探索者界隈を超えてニュースになり、子持ち世代が騒つく事態が発生したが、個人情報なので日本政府は年齢だけの公表に留めている。


(ダンジョン管理省 探索者協会HPホームページにて簡単な自己紹介程度だが探索者登録情報が記載されている。真希は特に指定しなかったが渡辺の強い意向必死の形相だったと職員は語るにより特例認定許可と年齢だけの表記にとどまった)


——————

【第23条及び24条特例許可認定者一覧】

名前活動名:(プライバシー配慮の為未記入) 9歳

現在の認定者人数:1人

——————


彼は彼女は一体、誰なのか。


様々な憶測が尾を引くが、初配信まで結局誰か判明する事はなかった。




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k2(けにー)です。

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