第26話
「大丈夫だろうか…」
私は走っていってしまう東条の背中を見つめる。
その背中が見えなくなるまで、私はずっと東条のことを見守っていた。
私は東条のことが心配だった。
東条はおそらく私たちに余計な心配をさせないために、あんなことを言ったのだ
ろう。
だが流石の東条といえど、これだけの人数の魔法少女たちに指導をした後は、少なからず体力を消耗しているはずだ。
東条は強い。
そう簡単に怪人に負けることはないはずだ。
それでもやはり心配してしまう。
例えば怪人オロチより強い怪人が複数体現れたとしたら、流石の東条でも苦戦するのではないだろうか。
怪人を生み出す何者かが、東条を倒すために強力な怪人を何体も送り込んでこないとも限らない。
東条は大丈夫だと言ったが、やはり一人で行かせてしまって本当に良かったのだろうかと、そんな迷いが私の頭の中を過ぎる。
「ごめんなさい、西園寺様。私たちのせいで…」
「彼は…東条さんは大丈夫でしょうか…」
「もし東条さんが怪人にやられてしまったら私たち…どう責任を取ればいいか…」
東条に魔法の指導を頼んで体力を消耗させてしまったことを申し訳なく感じているのか、魔法少女たちが暗い表情で俯いている。
私はそんな彼女たちの肩に手を置いて励ます。
「大丈夫だ。あいつは強い。私たちが考えているよりもずっと。だから、必ず生きて帰ってくる。我々はあいつを信じて待てばいいのだ」
「「「はい」」」
そうだ。
東条は必ず無事で帰ってくると約束したのだ。
私は信じてあいつを待てばいい。
私はそう自分に言い聞かせてグラウンドへ戻って行こうとする。
その時だった。
『怪人警報!怪人警報!複数体の怪人が出現しました!速やかに避難してください。繰り返します。複数隊の怪人が出現しました。速やかに離れてください』
「なんだと!?」
唐突に鳴り響いた怪人警報。
発信源は…まさに私たちがいる場所だった。
私は上空を見上げる。
「西園寺様、あれ…!」
「生徒会長!!あれを見てください!!」
魔法少女たちが上空を指差す。
私の目にははっきりと見えた。
無数の黒い影が、空を飛びながらまっすぐにこちらへと迫ってくることを。
それらの飛行物からは、この距離からでも強力な存在感と禍々しい雰囲気を感じ取ることができた。
間違いない。
あれは怪人だ。
「至急応援を要請しろ!魔法少女たちは戦闘体制に入れ!怪人が現れた!!」
私はその迫り来る無数の影の正体に気がついた瞬間、即座に周りの魔法少女に指示を出した。
「了解です!」
「はい!」
「みんな、集まって!!怪人が現れたわ!!」
「緊急事態よ!!すぐに応援を呼んで!!」
「寮に帰っている人たちにもこのことを伝えて!!」
「わかったわ!私がいく!!」
私の指示を受けて、魔法少女たちがすぐに行動を開始する。
この学校の魔法少女だけではおそらく足りないだろう。
あの数の怪人に対処するには、外部からも応援を呼ばなくては。
「くそ…なんというタイミングだ…」
私は自分たちの運の悪さを呪った。
どうして東条がここを離れたタイミングでこんなことに。
東条がこの場にいれば、とても心強いのに。
「待てよ…まさか…」
私は東条の向かった方角を見る。
「あれは…囮だというのか…東条を誘い出すための…」
私の中に恐ろしい可能性が浮かび上がる。
どうして東条がここを離れた瞬間に、怪人の大群がやってきたのか。
もし最初の怪人警報が東条を誘い出すための罠だったとしたら。
狙いは最初から東条のいない魔法少女育成学校なのだとしたら。
「まずい…まずいぞ…」
冷や汗が額を伝う。
耐えられるだろうか。
東条が戻ってくるまで。
「あいつは馬鹿じゃない…二度目の怪人警報を聞いたら気づくはずだ」
もしこれが全て怪人たちの考えた策略なのだとしたら、私たちは完全に彼らの罠にかかってしまったことになる。
東条も二度目の怪人警報を聞けば、そのことに気がつくだろう。
私たちは、東条がここに戻ってくるまで、あの怪人たちから身を守らなければならない。
「頼む東条…戻ってきてくれ…」
私は祈るようにそう呟いた。
「西園寺様!戦闘体制が整いました!」
「寮にいる魔法少女たちを呼びに、人をやらせました。外部に対して救助要請もすぐに行いました」
「そうか…」
私は周りに集まった魔法少女たちを見渡す。
「皆聞いてくれ!!今は耐える時だ!!あの数の怪人を我々のみで倒し切ることは不可能だ。我々の任務は、外部からの援軍が到着するまで、ここを守り切ることだ。一人でも犠牲を減らすことだ!!そのことを肝に銘じてくれ!!」
「「「はい…!」」」
「決して希望を捨てるな!日々の訓練を思いだせ!!私たちならきっとこの苦難を乗り越えられる!!総員戦闘体制!!」
「「「変身!!」」」
私の号令で、魔法少女たちが一斉に変身する。
魔法少女たちの体を色とりどりの衣装が包み込み、飛躍的にその力を向上させる。
「変身!魔法少女西園寺小春!!」
私も変身をして魔法少女として完全体になる。
全身に力が漲ってくる。
「行くぞ、みんな!!私に続け!!」
「「「はい!」」」
私は浮き上がり、上空から迫ってくる怪人たちに対して一気に接近していく。
他の魔法少女たちも私の後に続いた。
「魔法を放て!!攻撃開始!!」
「「「はい!」」」
私の指示で魔法攻撃が開始される。
総勢数十名の放つ魔法攻撃が、上空から迫ってくる怪人の大群に対して打ち込まれる。
バババババババーン!!!!
上空で爆発が起こった。
魔法が怪人に着弾し、爆音が鳴り響く。
「やったでしょうか…?」
誰かがそんなことを呟いた。
全員で放った魔法は相当な火力だったはずだ。
全滅とは行かないまでも、怪人に対して相当なダメージを負わせたはずだった。
私は煙が晴れるのを待つ。
「なん、だと…」
煙が晴れて、私たちの放った魔法がどのような結果をもたらしたのかが目に入った。
「無傷…そんなばかな…」
怪人たちの大群はほとんど無傷と言って良かった。
私たちの魔法攻撃に全く怯むことなく、むしろ速度を上げてこちらに向かってくる。
私たちの攻撃が通用しない。
まさか……あれ全部が、怪人ベノム、ゴーティス、あるいはオロチと同等の強さだというのだろうか。
だとしたら私たちに勝機などあるはずもなく…
「う、狼狽えるな!!第二撃、用意せよ!!」
「「「はい…!」」」
自分が一番狼狽し、恐怖していることを自覚しながら、それでも私は第二の攻撃の指示を出す。
「放て!!」
私の号令で再び空へ向かって魔法が放たれる。
閃光が空気を切り裂き、迫り来る怪人たちの大群に着弾する。
だが怪人たちの進軍は止まらない。
私たちの魔法攻撃などまるでなんの効力も持っていないかのように、着々とこちらとの距離を詰めてくる。
「な、なんで倒せないの…」
「嘘でしょ…?」
「こんな怪人、私たち知らない…」
「いや、来ないで…」
魔法が全く効かないのを見て、魔法少女たちが狼狽し、恐怖し始める。
私は拳を握り締め、恐怖を押し殺しながら、指揮官の役目に徹した。
「何を怖気づいている!!もう怪人たちはすぐそこまで迫っているぞ!!近接戦闘の体制を整えろ!!私が先陣を切る!!皆私の後に続け!!」
「「「は、はい…!」」」
魔法少女を最大限鼓舞して、私は近接戦闘に臨む覚悟を決める。
勝てないことはわかっている。
だが争うしかない。
とにかく時間を稼がなくては。
援軍が来るまで。
外部から救援部隊が到着するまで。
東条麗矢が助けに来るまで。
(東条…頼む、助けてくれ…)
私は神頼みをするかのように、東条の名前を心の中で叫んだ。
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