第25話




『怪人警報!怪人警報!怪人が出現しました!付近の住人は急いで避難してください。繰り返します。怪人が出現しました。付近の住人は速やかに避難してください』


「きゃああああああ」


「うわあああああ」


「逃げろぉおおおおおお」


「怪人だぁああああ」


怪人警報が鳴り響き、人々は悲鳴をあげながら逃げ惑っている。


怪人が発生した現場付近にやってきた俺は、周囲を見渡す。


怪人の姿は未だ見えない。


「どこにいる…?」


逃げてくる人々の流れに逆らって俺は走った。


『ハハハハハハ!!逃げ惑え人間ども!!』


『この街は我々怪人が占拠する!!』


『無様だな人間ども!!貴様らなど我ら怪人の前には虫ケラに等しい存在だ!!逃げろ、もっと逃げまどえ!!グハハハ!!』



「いた…!」


逃げてくる人々の流れに逆らって走ること数分。


ついに俺は怪人の姿を捉えることに成功した。


怪人は人通りの多い街中で、破壊の限りを尽くしていた。


確認できる怪人の数は全部で三体。


逃げる人々に対して、一方的に攻撃を加えている。


あちこちで火の手が上がり、立て続けに爆発が発生する。


人々はパニック状態で、右も左もなく、とにかく逃げ惑っていた。


怪人はそんな人々を執拗に追いかけまわし、追い打ちをかける。


パニックはどんどん広がっていき、辺りは騒然となっていた。


「姿を隠している場合じゃないな」


いつもならなるべく姿を隠しながら目立たないように戦うのだが、今はそれどころじゃない。


怪人たちは、どう見ても人間の殺戮を目的に動いていた。


早く対処しなければ犠牲者が増える一方だった。


『死ぬがいい。人間ども!!』
怪人が逃げる人々に対して邪悪な光線を放った。


「そうはさせない!」


俺は咄嗟に魔法を使い、邪悪な光線を跳ね返す。


『なんだと!?』


『何者だ!?』


『もう魔法少女が到着したのか!?』


怪人たちが驚いて辺りを見渡す。


俺は怪人たちの標的が自分だけに向くようにわざと姿を現す。


魔法で空中を飛び、怪人たちへと堂々と接近してくる。


「こい、怪人ども!この俺が相手だ!」


『男だと!?』


『やはりきたか!!』


『こいつがハデス様のいっていた例の男か!!』
怪人たちが何やら興味深げなこ

とを言っている。


だが今は悠長に問答をしている場合ではなかった。


俺は少しでも被害を減らすために、手っ取り早く怪人を始末しにかかる。


一撃目の魔法で一匹の怪人が爆散して死んだ。


『やはり強いな…!』


『お前がオロチ様を倒したトウジョウか…!』


「なんで俺の名前を知ってるんだ、って、聞いてる暇はなさそうだな。悪いけど、お前たちには死んでもらう」


俺の二つ目の魔法で、二匹目の怪人が体に大穴を開けて地に落ちた。


残った一匹の怪人が狼狽する。


『くっ…化け物目…やはり聞いていた通りの強さを有しているようだな』



「意味深なこと言っても、倒すのを待ってやらないぜ。悪いが死んでくれ」


俺が三発目の魔法を放った。


怪人が上半身と下半身を別れさせ、下へと落ちていく。


『ククク…やはり強いな、トウジョウ…聞いていた通りだ』


「そりゃどうも」


『だが…我らを倒したところで意味はない…お前はすでにハデス様の手のひらの上で転がっているのだ』


「うるさい。もう黙れ」


『お前の吠えずらを拝むことができないのが残ね』


俺の四発目の魔法で三匹目の怪人が完全に絶命した。


俺は周囲を見渡し、他の怪人が潜んでいないか、気配を探る。


「いない…こいつらだけだったのか…」


奇妙な違和感を覚え、俺は首を傾げる。


今倒した三体はどれも雑魚だった。


怪人ベノムや、ゴーティス、オロチとは比べ物にならないほどに弱い。


こいつらは一体何が目的で、ここで暴れていたのだろう。


「まさか…俺を誘い出すために…」


さっきの怪人は確かこう言っていた。


俺はすでに誰かの手のひらの上で転がっている、と。


これがもし、誰かの策略で、俺はその誰かの策略にまんまとハマり、無様にここに誘き出されただけだとしたら。


「まさか…狙いは…」


俺は魔法少女育成学校のある方角を向いた。


次の瞬間…


『怪人警報!怪人警報!新たな怪人が出現しました!』



「…!」


それを聞いた瞬間、俺は急いで空を飛び、新たな怪人出現の現場へと向かう。


今度の怪人警報は、俺がきた方角…つまり、魔法少女育成学校の方角から聞こえてきていた。








『トウジョウレイヤの姿を確認…ククク…予定通り魔法少女育成学校から離れていくな…バカなやつめ。ハデス様の罠にまんまとかかりやがって…』


魔法少女育成学校から飛び出し、地を駆けて怪人出現の現場へと向かう東条を上空から監視する者がいた。


一匹の下等な怪人は東条が魔法少女育成学校を離れていくのを確認した後、近くの虚空に向かって報告を行った。


『ハデス様。魔法少女育成学校から離れるトウジョウレイヤの姿を確認しました。予定通り、我々の蒔いた餌に飛びついたようです』


『そうか。やはりトウジョウは罠にかかったか…』


低くしゃがれた声が響いた。


それと同時に、虚空に亀裂が入り、漆黒の亜空間から巨大な怪人が姿を現す。


圧倒的な存在感の一つ目の怪人を下級の怪人は感極まった表情で見つめた。


『ご苦労だった。お前は下がれ』


『ああ、ハデス様。もったいないお言葉…』


下級の怪人が恭しく頭を下げて、虚空に姿を消す。


『お前たち…出てくるがいい。戦いの舞台が整った』


一つ目の怪人が、漆黒の亀裂に向かって言葉を発した。


次の瞬間、そこらじゅうの空間に無数の亀裂が発生し、強力な存在感を放つ怪人たちが何体も現れた。


一つ目の怪人は、無数の強力な怪人を見て頬を歪める。


『ああ…私の子供たちよ…戦い時がやってきたぞ』


『そうですか』



『御意に』


『この時を待ち侘びました』


無数の怪人たちが一つ目の怪人の元に傅いた。


一つ目の怪人は眼下に見える施設……魔法少女育成学校を指差した。


『たった今、邪魔者が私の仕掛けた罠にハマりここを離れた。この隙に私たちは魔法少女どもの学舎を徹底的に蹂躙する。進め』


『『『はっ』』』


玉座の怪人……怪人を生み出す怪人ハデスの指示により、無数の怪人が空を飛んで進軍する。


彼らが目指すその先には、魔法少女たちの学び舎…魔法少女育成学校があった。


『怪人警報!怪人警報!多数の怪人の出現を確認!注意してください!多数の怪人の出現を確認!!速やかな避難を行なってください!!』


怪人警報が鳴り響く。


それと同時に、眼下に見下ろせる魔法少女育成学校の方角からいくつもの閃光が煌めいた。


放たれた無数の魔法が、怪人たちに向かって飛んでくる。


『はっ、この程度』


『なんだこれは?我々を舐めているのか?』
『ククク…話にならない…』


『魔法少女どもの力量も窺い知れるというもの』


だが怪人たちは魔法少女たちの攻撃をものともせずに進軍する。


先頭の怪人ハデスが前方に姿を現した数十名の魔法少女を指さして言った。


『魔法少女どもを蹂躙せよ。今こそ我ら怪人の力を思い知らせる時。この私、ハデスの力を魔法少女どもに知らしめるのだ!!ゆけ、私が生み出した子供達よ!!』


『『『はっ』』』


ハデスの指示で無数の怪人たちが、魔法少女たちに襲いかかっていった。



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