第24話
「こ、この化け物め…」
「と、東条くん、強すぎるよ…」
「く、悔しいけど…本当に強いわね…」
「な、何もできなかった…全力を出したのに…」
それから一時間後。
俺は四人全員との一騎打ちを終えて、しばしの休息に入っていた。
四人は地面に膝をついて肩で息をしながら、俺のことを睨んでいる。
俺は四人と連続で一騎打ちを行ったが、特に怪我をすることもなく、余力を残した状態で立っていた。
「嘘でしょ…」
「生徒会の四人と戦ってまだ立ってるの…?」
「全然余裕そうだった…全く息も上がってないし…」
「何者なの、あの男…」
「化け物じみた強さね…」
「まさか、西園寺様が負けるなんて…」
周囲で見物している魔法少女たちの間ではざわめきが起こっていた。
魔法少女たちはヒソヒソと囁き合いながら俺を見ている。
「はぁ、はぁ…何かわかったか…私たちと戦ってみて…」
西園寺が荒い息を吐きながら、俺に聞いてくる。
俺は曖昧に頷きながらいった。
「とりあえず、四人の戦闘スタイルは把握した」
四人と戦ってみてわかったことがある。
それは四人の戦闘スタイルがかなり極端であるということだった。
まず西園寺は、かなり力任せでかなり大雑把な戦い方だ。
火力の高い魔法を使い、小細工を弄さず、正面から敵を倒す戦い方だ。
この戦い方は、相手が自分よりも劣っている時や雑魚を大勢相手にする時などは非常に有効だと思うが、相手がその火力に耐えうるだけの耐久を持っている場合、一気に不利となってしまう。
西園寺はもう少し、戦い方の幅を広げる必要があるだろう。
如月に関しては、とにかく速さを重視している傾向にある。
魔法発動や、移動速度など、他の三人と比べてもダントツで速い。
だがその速さに対応してくる敵が現れればその優位性は消し去られる。
なので如月は速さ以外の武器も持つべきだろう。
宇佐美に関しては、あまりにも防御を重視しすぎだ。
宇佐美はこの中で一番防御の得意な魔法少女だが、やはり防御だけでは戦いに勝つことはできない。
敵の火力が宇佐美の防御を上回ってしまった場合、宇佐美に勝ち目は無くなるので、攻撃という点に重きを置いて訓練する必要があるだろう。
そして小鳥遊の場合は、意表をつこうとしすぎるきらいがある。
小鳥遊は西園寺や如月、宇佐美などと比べて、火力も速さも、防御も劣っている。
だが彼女の得意な戦い方は、目眩しをしたり、姿を消したりといった魔法を駆使して相手の意表をつくといったものだった。
これはこれで有効な戦い方なのかもしれないが、圧倒的なパワーの前にはいくら小細工を弄しても勝てない時がある。
故に、小鳥遊に関しては戦闘技術というよりも、火力や防御など基本的な魔法の力を向上させることが急務だろう。
俺は四人と戦ってみてわかった弱点について、なるべく噛み砕いて説明した。
四人は俺の話を真面目な顔で聞いていた。
「なるほど…一理あるな。確かに私は自らの魔法の火力に頼りすぎているきらいがある」
「速さに対応されるとなす術がない、ですか…耳が痛いですが、その通りです」
「そうよね…防御ばかりしていてもダメよね…攻撃する術もなきゃ、結局はジリ貧だわ…」
「うぅ…威力のある魔法が得意じゃない私なりに色々考えて編み出した戦闘スタイルだったのですが…東条くんみたいな本当に強い人にはやっぱり通用しませんよね…わかってはいましたが、落ち込んじゃいます…」
俺からの指摘に肩を落とす四人。
俺はそんな魔法少女たちを必死に励ます。
「勘違いしないでくれ。四人が弱いっていってるわけじゃない。ただ、自分たちの長所にだけ頼っていてもダメということを言いたかった。長所はそのままに、短所を潰していけば、確実に強くなれると思う」
「ああ、そうだな。その通りだ」
「このくらいのことで、凹んでなんていられないわ」
「頑張らなきゃ…私たちがあきらめたら誰が怪人から街を守るの…」
「と、東条くんに守ってもらうだけの存在にはなりたくない…東条くんの役に立つためにも、私自身が強くならなきゃ、だよね…」
膝をついていた三人が立ち上がり、表情を引き締める。
「よし、各自自らの短所を補うための訓練に移行だ。東条との戦いで得た学びを参考に、とにかく欠点をなくしていくぞ」
「はい…!」
「了解です…!」
「頑張ってみます」
俺との一騎打ちで弱点が明らかになった四人は、それぞれ個人のトレーニングに移行する。
手持ち無沙汰になった俺は、体を休めながら四人のトレーニングを見守った。
「あのー」
「ちょっといいですか…」
「え…?」
数人の魔法少女が恐る恐るといった感じで俺に声をかけてきた。
俺は驚き、固まってしまう。
いまだにこの学校に完全に馴染めていない俺に、生徒会のメンバー以外の生徒が話しかけてくることなんて滅多にないからだ。
「な、なんでしょうか…」
ガチガチに緊張しながら俺が無理やり笑顔を作ると、話しかけてきた魔法少女たちがトレーニングをしている西園寺たちを指さして行った。
「あの、さっきの一騎打ちを見てたんですけど…」
「す、すごかったです、みいっちゃいました…」
「これって魔法の指導ですよね?よければ私たちにもお願いできないでしょうか?」
「え、魔法の指導を…?」
「「「はい」」」
魔法少女たちが期待するような目で俺を見てくる。
俺は逡巡した後に、頷いた。
「わ、わかった…俺でよければ、喜んで」
「ありがとうございます」
「私たち、頑張ります!」
「ぜひよろしくお願いします!」
三人がそれぞれ自己紹介をしてくる。
俺は西園寺たちにしたように、その三人と一騎打ちを行い、弱点などを伝えて、魔法の指導を行う。
「あ、ありがとうございました…」
「すっごく強いんですね…」
「自分の弱点がよくわかりました…」
俺との一騎打ちを終えた三人は、疲れた様子ながらも満足げな表情を浮かべる。
「や、役に立てたのならよかったよ」
流石に少し体に疲れを感じたので、俺は離れたところで休もうとする。
振り返ると、たくさんの魔法少女たちが俺の背後に控えていた。
「あの…よければ私にも訓練を…」
「私にも…!」
「私にもぜひお願い…!」
「もっと強くなりたい…!」
「こっちも教えて欲しい」
「魔法を教えてください!」
「弟子にしてください!」
「もっと魔法少女として強くなりたいんです!魔法指導、よろしくお願いしま
す!!」
俺はあっという間に魔法少女たちに取り囲まれて教えをこわれてしまう。
彼女たちの期待するようなキラキラした眼差しを受けて断ることができなかった俺は、結局大勢の魔法少女一人一人に指導を行うことになってしまう。
結局俺が彼女たちの魔法指導から解放されたのは、それから二時間以上が経過した後だった。
「さ、流石に疲れた…」
ようやく魔法指導を頼み込んできた魔法少女に一通り指導を行った俺が、グラウンド脇のベンチに腰を下ろして一息つく。
夕暮れの時刻。
オレンジ色に染まったグラウンドでは、大勢の魔法少女たちが自身の弱点をなくすための魔法の鍛錬に没頭している。
俺は魔法少女たちの自己鍛錬の様子を見ながら、消耗した体力の回復に努める。
「ずいぶんお疲れのようだな」
そんな中、西園寺が俺の元へやってきた。
俺の隣に座り、ペットボトルのドリンクを差し出してくる。
「これを飲め。冷えているぞ」
「あ、ありがとう…」
ありがたく受け取った俺は、水分補給を行う。
西園寺がそんな俺を苦笑しながら見守っている。
「流石の東条麗矢となれど、これだけの数の者に魔法指導するのは疲れたようだな」
「そりゃそうだ…まさかこんなことになるとは…」
「ふふふ…お前の実力を持ってすれば教わりたいと思うのは当然のことだな…明日にはもっと増えているかもしれんぞ?」
「そ、それは勘弁してほしい…」
俺のうんざりした呟きに、西園寺がおかしそうにくすくすと笑う。
「しかし、安心したよ。当初は大半の生徒から敵対視されていたお前もここへきてずいぶんと受け入れられてきたようだな」
「…おかげさまでな。ま、誰かさんが一番俺のことを敵対視していたような気がするが」
「そ、それはいうな…思い出すと恥ずかしくなる…」
西園寺が頬を赤く染める。
「し、仕方がなかったのだ…あの時の私は異性と関わったことがほとんどなかったから…お前のことを勘違いしていたのだ…何か下心があってここに入り込んだのかと…無知な私の振る舞いを許してくれ」
「別に怒ってないさ。俺がこうして受け入れられつつあるのも半分以上西園寺のおかげだろうしな」
実際魔法少女たちに慕われている西園寺が俺と普通に接し始めてから、周囲からの風当たりもだいぶ和らいが気がする。
西園寺に生徒会に誘ってもらったおかげで、魔法少女たちもある程度俺のことを認め、軋轢が少なくなったのは厳然たる事実だろう。
そういう意味で、俺は西園寺に感謝していた。
成り行きはともかく、俺を生徒会に誘ってくれたことは本当にありがたかったと思っているのだ。
「生徒会に誘ってくれてありがとうな、西園寺」
「…か、感謝されるようなことはしていない。私は…多分お前が思っているよりもずっと身勝手なのだ…生徒会に誘ったのだって、お前の事を思ってというよりは自分の…」
ウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!
『怪人警報!怪人警報!』
「「…!?」」
何か言いかけた西園寺の言葉は突如として響き渡った怪人警報にかき消される。
周囲に響き渡るサイレンの音に、グラウンドにいた魔法少女たちが一斉にサイレンの聞こえてきた方角を見る。
『怪人が出現しました!付近の住民は急いで避難してください!繰り返します!怪人が出現しました!付近の住民は急いで避難してください』
「生徒会長!」
「西園寺様!」
「怪人警報が!」
「どうしたらいいですか!?」
魔法少女たちが俺たちの方へ駆け寄ってきて、西園寺に指示を仰ぐ。
突然の怪人警報に驚いていた西園寺は、表情を引き締めて俺を見る。
「東条。私とお前で行こう。他のものを向かわせるのはあまりに危険だ」
「いや、俺一人で行く。西園寺はここに残ってくれ」
俺はそういって立ち上がった。
西園寺が俺を引き止めてくる。
「待ってくれ、一人ではダメだ!今のお前は私たちのせいでかなり疲労している!一人では危険だ」
「大丈夫だ。体力的には、もうだいぶ回復している」
西園寺が目を剥いた。
「本当か?」
「ああ。問題ない。怪人との戦闘には支障をきたさないと思う」
「信じられない…なんという回復力なのだ」
「西園寺。お前にはここに残ってほしい。お前が足手纏いだからじゃない。お前を信用しているからだ。もし…俺がいない間に何かあったら…お前に他の魔法少女たちを任せたいと思う」
「…!」
「頼めるか」
「ああ」
西園寺が頷いた。
「任せろ。お前がいない間、私が責任を持って他の魔法少女たちを守る」
「よし。ありがとう」
俺は西園寺に頷きを返してから、怪人警報の鳴り響く方へ向かって歩き始める。
「気をつけてくれ、東条。無事に帰ってきてくれ」
「…」
祈るような西園寺の呟きを背に、俺は怪人が出現した現場へと向かって走りはじ
めた。
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