第23話



怪人対策会議の翌日の昼休み。


俺が食堂へ向かおうと席を立ったところで、教室に小鳥遊がやってきた。


「東条くん、東条くん」


「ん?なんだ?」


「今日のお昼の予定はどんな感じですか?」


「俺か?えーっと、これから食堂で何か定食でも食べようかなと」


「あ、そうなんだ。それならちょうどいいかな。えっとね、実は…」


小鳥遊が手に持った風呂敷のようなものを見せてくる。


「なんだこれ」


「お、お弁当なんだ…作ってきたの…今日の朝に、寮のキッチンを借りて」


「小鳥遊の手作りか?」


「うん、そう」


「へぇ、すごいな。小鳥遊、そんなことできたのか」


「そ、そうなの…それでね…結構たくさんあるから東条くんも一緒にどう、かな?」


「え、いいのか…?」


「う、うん…!私一人じゃ食べきれないと思うから…」


「でも、小鳥遊の手作り弁当をもらうなんて申し訳ないような気が…」


「ぜ、全然遠慮しなくていいんだよ!?そんなに大層なものじゃないし、むしろ余っちゃったら捨てるしかないから食べてくれた方がありがたいというか…」


「そういうことなら、ご馳走になろうかな」


「本当!?それじゃあ、屋上に行かない?」


「了解」


俺は小鳥遊についていき、屋上へ上がった。


屋上は今日も無人だ。


俺たちは風通しのいいベンチに腰を下ろし、互いの膝の上に小鳥遊の弁当箱を置いた。


「おぉ…すごいな…」


小鳥遊の手作り弁当は、かなり本格的だった。


いろんなメニューが詰め込まれていて、かなり手が混んでいるのがわかる。


「これ、作るの大変じゃなかったのか?」


「ううん、そこまでだよ?美味しくできてるか不安だけど、食べよっか?」


「ああ。いただきます」


手を合わせていざ食べようとしたものの、箸は一膳しかないようだった。


「あ、あれー、お箸が一膳しかないなー、もー、私のうっかりー」


「…?」


妙に棒読み口調で小鳥遊がそんなことを言う。


「ご、ごめんね、東条くん。私がうっかりなばっかりにお箸が一膳しかなくて」


「お、おう…」


「仕方がないから、私が食べさせてあげるね?」


「え…」


「は、はい…東条くん、あーん」


「!?」


小鳥遊が肉巻きをお箸で摘んで俺の口に運んでくる。


俺は驚いて小鳥遊を見た。


小鳥遊は顔を真っ赤にしながら、潤んだ目で俺のことを見ている。


「お、お口開けて…東条くん…」


「お、おう」


俺が口を開けると、肉巻きが口の中に押し込まれる。


咀嚼して、飲み込む。


とても美味しい。


思わず正直な感想が漏れた。


「すげー、うまい」


「よ、よかったです…」


顔を真っ赤にした小鳥遊が俯きながら言った。


「つ、次はどれ食べたい…?」


「じゃ、じゃあ、卵焼きを…」


「わ、わかった…卵焼きね。はい、あーん…」


ぱく。


もぐもぐ。


「美味しいっす」


「よ、よかったっす」


なんだろう。


小鳥遊の手作り弁当はものすごく美味しかったんだけど、互いに照れくさくてそれどころではなかった。






放課後、俺は生徒会のメンバーたちと共にグラウンドへと集まっていた。


「それではこれより、東条による我々の実力向上のための魔法指導を始める。これは、将来的に我々が東条に頼ることなく強力な怪人を撃破し、街を守ることが出来るようになるための訓練である」


西園寺が小鳥遊、如月、宇佐美に対してそんなことを言う。


俺以外の四人はすでに魔法少女の衣装に変身しており、いつでも全力の戦闘ができる準備を整えていた。


周囲には何事かとこちらの様子を伺っている魔法少女たちの姿が見受けられる。


生徒会のメンバーたちに対して魔法指導をしてほしいと俺に提案してきたのは、西園寺だった。


最近飛躍的に強くなっている怪人に対抗するには、これまでの訓練だけでは足りない。


もし今後、怪人ベノムやゴーティス、オロチのような強い怪人と出会ったら、俺以外の生徒会のメンバーでは、現状の実力だとなすすべなく殺されてしまう。


そうならないために。俺の指導を受けて少しでも実力を上げたいので協力してほしいと言うのが西園寺からの要請だった。


特に断る理由もなかったために、俺はその要請を受けた。


そして今、四人に魔法を教えるために俺はこうしてグラウンドにいると言うわけだった。


「いつでも東条が近くにいると思うな。東条なしでベノムや、ゴーティス、そしてオロチ級の怪人と戦い勝つ実力を養わなくてはならない。街を、人々を守る魔法少女として、我々は今よりももっと強くならなくてはならないのだ」


「「「はい…!」」」


「それじゃあ、東条。頼む。我々に戦い方を教えてほしい。お前の目から見て、私たちには何が足りない?率直に言ってもらって構わない」


「えーっと…」


何が足りない、と言われて俺は困ってしまう。


俺はまだ彼女たちの戦闘をそこまで見てきたわけでもないので、アドバイスを求められても何を言っていいかわからなかった。


「すまん、わからない…みんなには何が足りないんだろう」


がくっ、と三人が肩を落として呆れ顔になる。


俺は慌てて取り繕うように言った。


「すまん…あんまり説明が得意じゃないんだよ、俺」


「逆にお前は、どうやってこれまで怪人を倒してきたんだ?」


「どうやって…?」


俺は首を傾げる。


そうやって聞かれると難しい。


俺は普段の怪人との戦闘を思い出してみる。


「とりあえず敵が攻撃してきたら、魔法で防ぐ。で、隙があればこちらから攻撃する。そんな感じだな」


「す、すごい…!全然参考になりません!」


「…はぁ。全く説明になってないわよ」


「それじゃ、凡人には理解できません」


「うむ…まさに絵に描いたような天才肌だな、東条は」


またしても呆れられてしまう俺。


「す、すまん…俺も四人に強くなってほしいと言う気持ちはあるんだが…」


俺が項垂れていると、西園寺がパンと手を叩いた。


「よし、わかった。それではこうしよう。どうも東条はあまりに強すぎるが故に、戦い方を我々のレベルに落として言語化するのに苦労しているようだ。だったら…実践で東条から技術を学び取ると言うのはどうだろうか。それなら言葉はいらないだろう。習うより慣れろという言葉もある。東条にとってもその方が手っ取り早いと思うんだが」


「なるほど…確かにそれはいいかもしれんな」


西園寺の提案に俺は賛成する。


「お前たちはそれで構わないか?」


西園寺が他の三人をみる。


三人は顔を見合わせた後、俺を見ながら恐る恐る言った。


「そ、それって…私たちが東条くんと戦うってことですか…?」


「勝てるかしら…いえ、勝負になるかしら…」


「命の危険を感じるんだけど…」


「確かに、東条と戦うのは私も怖いが…大丈夫だ。東条、私たち相手に全力を出したりはしないよな?」


「もちろん。手加減ぐらい俺だってできる」


「よし、決まりだな」


西園寺が頷いた。


「順番に東条と一騎打ちだ。東条は戦いながら、私たちに何が足りないのかを見極めてくれ。私たちは全力でお前との戦いから学びを得る」


「了解」


そうして俺は西園寺、如月、宇佐美、小鳥遊の四人とそれぞれ一騎打ちをすることになった。


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