第22話
五体の怪人によるショッピングモール襲撃事件から数日後。
俺たち生徒会のメンバーは、放課後に生徒会室に集まり、最近、怪人が出現頻度を増し、個体の強さも増してきていることについて話し合っていた。
「それでは今から怪人対策会議を始めたいと思う」
会議を仕切るのはもちろん生徒会長である西園寺だ。
あの日ショッピングモールで見せていた楽しそうな雰囲気は今はなく、完全に生徒会長西園寺小春のモードになっている。
西園寺は表情を引き締め、視線を俺たち生徒会のメンバーに一巡させてから本題に入った。
「今日話し合うのは他でもない。最近、怪人の出現頻度が異様に増えていることには皆も気づいていると思う。しかも一個体あたりの戦闘力も圧倒的に増している。もはや状況は予断を許さない局面になってきた』
それぞれ最近出現した異様に強い怪人と遭遇し、戦ってきた生徒会のメンバーは問題意識を共有しており、皆真剣な表情で西園寺の話を聞いていた。
『今日はその強く、出現頻度も上がってきている怪人の対策について話し合いたい。まず、お前たちが戦った怪人とその時の状況について詳しく話してくれないだろうか。より多くの情報を皆で共有しておいた方がいいだろう』
そういった西園寺が視線を向けたのは如月と宇佐美だった。
如月と宇佐美は顔を見合わせて頷いた後、どちらからともなく、話し始める。
「私たちが戦った怪人について話して起きたいと思います」
「ベノムと名乗ったその怪人は…私たちが朝のパトロール中に駅前の噴水広場に出現しました」
如月と宇佐美が怪人ベノムに遭遇した時の状況を詳しく語って聞かせた。
その場に居合わせた俺にとって特に目新しい情報はなかった。
その場にいなかった西園寺と小鳥遊は、真剣な表情で二人の話を聞いている。
「怪人ベノムはとてつもなく強かったです。間違いなくあいつが今まで戦ってきた中で一番強い怪人だと断言できます」
「私たちは歯が立ちませんでした。速さ、パワー、あらゆる面で怪人ベノムが私たちを上回っていました」
「一人が人質に取られ、私たちは身動きを封じられてしまいました」
「危うく怪人ベノムに殺されそうになった時に…東条君が助けに来てくれました」
如月と宇佐美が俺をみた。
西園寺と小鳥遊の視線も俺に集まる。
「東条くん、この先はあなたが話してくれない?」
「実際にベノムを倒したあなたの方が、私たちより詳しく語れるだろうから」
「あ、ああ…わかった」
俺は頷いて如月と宇佐美から話を引き継いだ。
「俺は怪人ベノムが出現してしばらくは様子を見守っていた。如月と宇佐美がもしかしたら怪人ベノムを倒してくれるかもしれないと思ったんだ。でも、二人が負けてしまったので、俺が怪人ベノムを倒した」
「何か…怪人ベノムと戦って感じたことはないだろうか。東条、お前はこれまでもさまざまな怪人と戦ってきたのだろう?」
「ああ」
「怪人ベノムはこれまでお前が戦ってきた怪人と何か違わなかったか?」
「違いは…あまりなかったような気がする。強いているなら怪人ベノムは俺が戦ってきた怪人の中でも相当強い部類ではあると思う。だが見た目とか、能力とかに特に目新しい点はなかったような気が…いや、待てよ…そういえばあいつ、何か言ってたよな。自分は作られた存在とか、あの方がどうとか」
「どういうことだ?詳しく話せ」
俺の話に興味を持った西園寺が、さらに詳しく聞いてくる。
俺は朧げな記憶を手繰り寄せながら、覚えていることを話す。
「はっきりとは覚えていないんだが、あいつは自分は誰かに作られた存在みたいなことを言ってたんだよな。自分はあの方に作られたとかなんとか…」
「あの方…それは一体誰のことだ?」
「わからない。だが、もしかしたら怪人ベノムはこれまでの怪人と違い、誰かに生み出された存在なのかもしれない」
「ふむ…興味深いな」
西園寺が顎を撫でて頷く。
「他に何か覚えていることはないか?」
「重要なことは話したと思う」
「美柑と千代はどうだ?」
「私たちも話すべきことは話したかと」
「重要なことは一通り話してしまったかと思います」
「そうか。わかった。報告ありがとう」
西園寺は頷き、俺の方を見た。
「如月と宇佐美が戦った怪人ベノムについては一旦これぐらいにしておこう。次は…私が戦ったゴーティスと名乗る怪人について、皆と情報を共有しておこうと思う」
西園寺が咳払いをし、それから怪人ゴーティスと遭遇し戦った時のことについて話し始めた。
「私が怪人ゴーティスと遭遇したのは、放課後のパトロールを東条と行っている時だった。
突如として怪人警報が鳴り響き、奴は現れた。私はすぐに変身して怪人ゴーティスと戦った。
そして負けて、殺されそうになった。その時の私は…少し冷静さを欠いていてな。作戦も何もないまま、たった一人でゴーティスに挑み、返り討ちにされてしまったわけだ。恥ずかしい限りだ」
その時のことを思い出したのか、西園寺がチラリと俺の方を見て頬を赤くする。
俺は、わかってるぞ、という意味を込めて西園寺に目配せをする。
西園寺がますます頬を赤くして俯いてしまう。
「むー。なんかやな感じです」
「同感です」
「同じく、です」
なぜか他の三人にジトッとした視線を向けられる。
ごほん、ごほん、と西園寺がわざとらしい咳払いを挟んで話を再開させる。
「そ、その時に起こったことで、怪人対策と関係のないことは割愛させてもらう!じゅ、重要なことだけを話すぞ!とにかく…私は怪人ゴーティスに負けて、東条がゴーティスを倒したのだ。怪人ゴーティスは非常に強力で、これまで私が戦ってきたどの怪人よりも強かった。東条がいなければ私は死んでいただろう」
「東条くんって誰でも助けちゃうんだねー」
「本当です」
「節操なし」
「いやなんでだ!?」
窮地の人間を怪人から助けただけなのに、なんかひどい言われようだ。
「怪人ゴーティスの実際の戦闘力については私よりも東条に語ってもらった方がいいだろう。今は一旦そのことは脇に置いておくとして…ここからが重要だ。少し真面目に聞いてほしい」
西園寺が真剣さを声に滲ませながら言った。
「実は私が戦った怪人ゴーティスも、同じようなことを言っていたのだ。自分は誰かに作られた存在であると。魔法少女を倒すために誰かの手によって生み出された怪人であると」
そう言った西園寺が確認するように俺を見た。
俺は頷いて西園寺の言葉を肯定した。
「俺も聞いた。怪人ゴーティスもそう言っていた気がする。怪人ベノムと同じようなことを」
「聞いての通りだ。私たち二人が交戦した怪人ゴーティスも美柑と千代が戦った怪人ベノムと同じことを言っていたのだ。これが意味するところはつまり…」
「怪人ベノムと怪人ゴーティスは」
「同じ何者かの手によって作り出された?」
「そう考えるのが自然だろうな」
如月と宇佐美がこれまでの情報から導き出される当然の帰結を口にし、西園寺が頷いてその結論を肯定した。
「あ、会長!それなら私が戦った…というか一方的にやられた怪人オロチも同じようなことを言っていました!自分は作られた存在だって!」
「なんだと!?それは本当か!?」
小鳥遊の言葉に、西園寺が驚く。
小鳥遊が俺の方を見て確認するように聞いてきた。
「そう言ってたよね?東条くんも覚えてない?」
「確かにそんなことを言ってた気がする」
「…そうだったのか。じゃあ、怪人オロチもまた、怪人ベノムや怪人ゴーティスと同じ何者かによって作られた存在…」
「会長!その何者かって一体どんな奴なんですか?」
「私にもまだわからない。だが我々の敵であり、今考えられる中で最大の脅威であることは明白だ。怪人ベノム、怪人ゴーティス、怪人オロチ。短期間にこれだけの強力な怪人をそいつが生み出したとしたら…放っておけば大惨事になるぞ…」
西園寺の言う通りだった。
もしベノムやゴーティス、オロチが同じ者の手によって作られたとしたなら、この3体と同じかそれ以上に強い怪人が今後どんどん出現することになる。
そうなれば、街と人々にもたらされる被害は甚大なものとなってしまう。
それを防ぐために有効な手段は、考えられる限り一つしかないだろう。
「これまではよかった。怪人ベノム、怪人ゴーティス、怪人オロチ…この三体が出現したその現場には奇跡的に東条が居合わせた。そのおかげで怪人は討伐され、私たちは死なずに済んだわけだ。けれど、ここから先もずっと東条に頼っているわけにはいかない。東条のみに怪人の討伐をさせるのは負担が大きすぎるし、仮にこの三体と同等かそれ以上の力を持った怪人が複数体同時に出現した場合に
は、東条がそれら全てに対処するのは物理的に不可能だ。よって問題を解決する方法は一つしかない」
西園寺が確信を込めた声音で言った。
「怪人を作り出す何者かを倒す。それしかない。それがこの問題に対処する唯一の方法だ」
「私もそう思います」
「ええ、それが賢明です」
「まぁ、現実的にそれしか考えられませんよねぇ…」
西園寺の出した結論に、他の三人が同調する。
西園寺が俺の方を見てきた。
「東条。お前の意見はどうだ?私の出した結論に対して、何か異議はあるだろうか。遠慮せずなんでも言ってくれ」
「いや、西園寺の方法は理にかなっていると思う。怪人を生み出すやつをどうにかしないと…永遠に強い怪人が作り出されていたちごっこになるわけだしな」
「よし、決まりだな」
西園寺が立ち上がり、会議の結論を改めて宣言する。
「私たちの最優先課題は、怪人を生み出す何者かの居場所を突き止め、倒すこと。そのために、私たちの持てる全てを注ぎ込もうと思う。異論はあるだろうか」
「「「ありません」」」
「俺も、賛成だ」
「よし…では今日のところはこれで解散としよう。この件に関しては、私から母に伝え、上とも情報を共有しておく。解散!」
西園寺の号令で怪人対策会議が終了したのだった。
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