第4話



「如月さん!?」


「宇佐美様がいるわ…!」


「きゃああっ」


「生徒会の人たちよ!!」


その二人が教室に姿を現した途端に、周りの魔法少女たちから黄色い歓声が上がる。


彼女たちは憧れと尊敬の眼差しを持って今朝俺が助けた二人のことを見ていた。


どうやら二人はここでは相当な人気者のようだ。


二人は周りの魔法少女たちの歓声に応えながら、俺の方へ歩いてきた。


「東条麗矢くん、よね?」


「あなたが東条くんで間違いないかしら?」


「そ、そうだが…?」


突然話しかけられ、俺はビクビクしながら返答した。


魔法少女たちの注目が一気に俺に集まる。


「まず最初に言わせてもらうわ」


「魔法少女育成学校入学、おめでとう」


「あ、ありがとう…」


「それから……今朝のことなんだけど……単刀直入に聞かせてもらうわ。私たちを助けたのはあなたなの?」


「…えっと」


「現場から立ち去るあなたの姿が見えたわ」


「他に人の気配はなかったから……私たちはあなたに助けられたものだと思ったんだけど…違うの?」


「…それは」


俺はどう答えるべきか迷う。


どうやら二人には現場から離れる俺の姿が見えていたようだ。


俺は普段は魔法の力を隠して過ごしている。


それは世間的に魔法とは少女のものであり、男が使うものではないからだ。


だから俺が男でありながら魔法の力を宿していると世間に知れたらどのような扱いを受けるかわからないからだ。


それがあって今朝も俺は姿を隠した状態でしか二人を助けることができなかった。


魔法であの怪人を倒した後、うまく逃げたつもりだったのだが、二人には俺の姿が見えてしまっていたらしい。


「…ああ、そうだよ」


迷った挙句に、俺は正直に認めることにした。


嘘をついたとしてもそのうちバレる。


それに俺が男でありながら魔法少女たちと同じ力を持っていることをわかってもらった方が、少しは俺に対する反発も減るだろうと思ったのだ。


「そうだったのね」


「やっぱりあなたが…」


俺の答えを聞いて顔を見合わせた二人は、次の瞬間丁寧な所作でお辞儀をしてきた。


「ありがとうございます」


「お礼を言わせてください。あなたがいなければ私たちは死んでいました」


「「「…っ!?」」」


二人が俺に対して礼を言ってお辞儀をしたことで、魔法少女たちが驚きに目を剥いている。


動揺が広がる中、顔を上げた二人が親しみを込めた目で俺を見てきた。


「あの怪人はとても強力だった。私たちだけでは勝てなかったわ」


「あなたが助けてくれなかったら、私たちは二人ともあの怪人に殺されていた。本当に感謝しているわ」


「…ど、どういたしまして」


「あなたがこの魔法少女育成学校に入ってきてくれたことを嬉しく思うわ。あんな強い怪人を倒してしまうんだもの。とても心強い味方よ」


「ようこそ、魔法少女育成学校へ。私の名前は如月美柑。これからよろしくね」


「私は宇佐美千代よ。覚えてくれると嬉しいわ。東条麗矢くん」


「お、おう…俺は東条麗矢だ。よろしく…」


俺は差し出された二人の手を握る。


「それではまた」


「また会いましょう東条くん」


俺と握手をした後、二人は微笑みと共にそんな言葉を残して教室を出て行った。


俺は助けた二人からこうも素直に感謝されるとは思っておらず、呆気に取られてしまう。


怪人と戦ったのはあれが初めてではないが、常に俺は姿を隠してきた。


だから助けた人に真正面から感謝されるのは不思議な気分だった。


「どういうこと…?生徒会の二人がどうしてあの男と…?」


「あの男、生徒会の二人に頭を下げさせていたわ……どんな弱みを握ったというの…?」


「助けたって言ってたわ……まさかあの男が生徒会のお二人を怪人から救ったとでもいうの?」


「…そんなことがあり得るのかしら。だってあのお二人は私たちなんかよりはるかに強いのよ……そう簡単に怪人に負けることなんてあるはずがないのに…」


「でもあのお二人が言っていたことが本当なら、あの男は本当に魔法を使えることに…」


「男が魔法を使えるなんて聞いたことがないわ……信じ難いわね…」


「けど…あんまり悪い人ではなさそう。ちょっと様子を見てみようかしら…」


「あんた本気で言ってるの?とって食われないように気をつけることね」


如月美柑、宇佐美千代の二人と俺のやりとりを見た魔法少女たちがあれこれを憶測を飛ばす。


だが、二人の俺に対する態度もあってか、若干ではあるが俺に向けられる視線に好意的なものが増えたような気がした。








『ベノムは倒されたか…』


『はい。どうやらそのようです』


空間と空間の間に存在する亜空間。


誰も入り込むことのできないその場所に、一人の怪人が鎮座していた。


禍々しいオーラが身体中から放たれており、みるものを否応もなく威圧する。


怪人の前には、僕である低級の怪人がおり、血に膝をついて傅いていた。


『誰が倒したのだ…?あれは生半可な魔法少女では倒せぬように作った怪人だ……そう簡単にやられるはずはないのだが…』


『わかりません……ですが我々の調査によると少なくとも魔法少女2名と戦い追い詰めたことは確かです……何者かの介入により惜しくも負けてしまいましたが魔法少女を追い詰めたことは確かかと…』


『何者かの介入……新たな魔法少女か?』


『わかりません。現在調査中です』


『そうか……何かわかればすぐに私に報告しろ』


『はっ、わかりました』


『私はこれよりさらに強い怪人の作成に入る。怪人ベノムは強力だが、未完成だった。完成された私の怪人は、すべての魔法少女をも凌駕する力を持つだろう。フフフ…』


怪人の不気味な笑い声が亜空間に響き渡った。



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