第3話



「お前たち一体どういうつもりだ…!」


理事長室を後にした小春は、如月と宇佐美を伴って生徒会室へとやってきていた。


部屋へ入るなり、小春は如月と宇佐美を問い詰めた。


先ほどの理事長室で自分に加勢しなかったことで、小春は二人を攻めた。


「なぜ私に協力してくれなかった!!お前たちだって男が入ることによってこの学校の結束や風紀が乱れるのは避けたいはずだ!!」


「そ、それはそうですが…」


「せ、生徒会長を裏切ったわけじゃないんです…ただ、ちょっと事情が…」


「事情?一体どんな事情だ…!」


目を逸らしたり、制服をいじったりと挙動不審な生徒会役員の珍しい姿に、小春は目を細める。


「洗いざらい話してもらおうか。私たちの間に隠し事はなしだ…!」


「ど、どうする…?」


「は、話すしかないよ……あの怪人が言ってたことも気になるし…」


二人は顔を見合わせた後、どちらからともなくポツポツと語り出した。


今朝、街のパトロールをしていた時に怪人警報が出て怪人と戦ったこと。


その怪人はこれまでの怪人より遥かに強く、危うく負けそうになってしまったこと。


絶体絶命のピンチの時に何者かが魔法で助けてくれたこと。


その時現場で、東条麗矢の姿を見たこと。


「それは…本当の話なのか…?」


二人の話を聞いた小春の目が驚きに見開かれる。


如月と宇佐美の口から語られた話は、あまりに衝撃に満ちていた。


まず如月と宇佐美二人を持ってしても勝てない怪人の出現だ。


如月と宇佐美は、魔法少女の中でもトップクラスの実力を持った者たちだ。


そんな二人を相手にして優ってしまう怪人の出現など、今まででは考えられないことだった。


しかもその怪人は自分は“作られた存在”であることを仄めかしたという。


つまりその気になれば、今回の怪人を作った何者かは、これからも同様の強さ、あるいはそれ以上の力を持った怪人を作り出し、街へと送り込んでくるかもしれない。


「我々も強くならなければな…魔法少女として…」


「す、すみません…私たちのせいで…」


「本当なら私たちだけで怪人を倒さなければならないのに…」


人々の希望である魔法少女が怪人に実質敗北してしまったことの意味は大きい。


如月と宇佐美の二人がしゅんと肩を落とすと、小春が優しげな顔を浮かべてその方に手をのせた。


「謝ることはない。落ち込む必要もない。お前たちはよく戦った。無事に帰ってきただけで何よりだ」


「会長…」


「生徒会長…」


「だが……東条麗矢のことに関してはもう少し話を詳しく聞かせてもらいたいな…?」


「「…っ!?」」


途端に表情を厳しくする小春に、二人はビクッと跳ねて背筋を伸ばした。


小春は問い詰めるように二人を睨みつけながら、東条麗矢に関して問い詰める。


「お前たちが見たことは本当なのか?本当に東条麗矢がお前たちを助けたのか?」


「は、はい…おそらく…」


「確実ではありませんが…その可能性は高いかと…」


「東条麗矢が魔法を発動した瞬間を見たわけではないのだな?まだ東条麗矢が魔法の力を本当は持っていない可能性もあるわけな?」


「それはそうですが…」


「でも……あの時東条くん以外に周りに人は…」


「東条くん?随分親しげな呼び方だな?」


「ひぃ!?」


小春が宇佐美千代を睨みつける。


千代は引き攣った悲鳴を漏らす。


「お前らはやけにあの男を庇うのだな……まさか……あの東条麗矢という男のことを好ましく思っているわけではあるまいな!?」


「「…っ!?」」


二人はびくっと跳ねると、途端に手や首をブンブンと振って小春の言葉を否定す

る。


「そそそ、そんなわけないじゃないですか、会長〜」


「や、やだな〜…あり得ないですから〜…」


「…ふん、そういうことにしておこう」


小春は明らかに挙動不審な二人に訝しむような視線を送りながらも、それ以上問い詰めることはしなかった。


「まぁいい。とにかく…私は簡単にあの男を認めたりしない……あの男に本当に魔法の力があるのか見極めてやる……もし魔法の力がない、あるいは不十分であることが知れたら……全力でこの学校から追い出してやる」


小春の目は闘志に燃えていた。


彼女は理事長やあるいは国から言われたとて、東条麗矢という例外を簡単に認めるようなことは決してしないのだった。








「はぁ…どうしてこうなった…」


ホームルームが終わり、一限の授業が始まるまでの時間を一人自分の席で過ごしている俺は、針の筵にいるような気分を味わっていた。


普通転校生がくれば、二日三日ぐらいは話題の中心になり、クラスメイトたちからひっきりなしに質問を浴びせられたりするものだ。


でも現在の俺に限ってそんな展開は微塵も期待できない。


周囲の魔法少女たちは、俺に質問したり話しかけるどころか、近づいてこようとすらしなかった。


俺の方をチラチラ見たり、敵対心むき出しな視線を向けながら、ヒソヒソと噂をしている。


俺は早く授業始まってくれ、と祈りながら、ひたすら自分の机と睨めっこをする。


「ねぇ、知ってる…?男の人って1週間に一度しかお風呂に入らないんですって…」


「不潔…何それ…」


いやそんなわけないだろ。


俺は思わず近くから聞こえてきた噂話に心の中で突っ込んでいた。


女の園で成長した魔法少女たちは、異性に対する知識が不足しがちのようだ。


「女性の下着を見ると興奮するとも聞いたことがあるわ」


「…?どういうこと?なぜ下着で興奮するの?」


「わからないわ……なぜでしょうね?」


「意味不明ね」


確かにそういう変態もいるが、一部だけだから…!


どうやら彼女たちの男に対する知識にはかなり偏りがあるようだ。


「弱点は股の間にあるって聞いたことがあるわ」


「股の間が弱点なの?どうして?股の間に何があるの?」


「さあ?わからないわ。でも股の間を攻撃すれば、反撃の心配はないと聞いたことがあるわ」


「…それはいいことを聞きました。でしたらあの男が私たちに襲いかかってきたら、皆で股の間の弱点に全力で魔法を叩き込みましょう」


「「賛成ね」」


いや本当にやめてください。


彼女たちの会話にもう一人の俺がパンツの中できゅっと縮こまる。


早く授業始まってくれ…本当に…。


ガラガラガラ…!


「…!」


俺のそんな祈りが届いたかのように教室の扉が開き、一限の授業の担当教師が教室に姿を現した……と思ったらそんなことはなく、姿を見せたのは見覚えのある女子生徒たちだった。


「あいつら…」


教室に入ってきたのは、今朝駅前の噴水広場で怪人と戦っていた二人の魔法少女たちだた。


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