第9話 苦い思い出(ラーメン屋バイト)

 小説の中にも登場するリバティータワー。僕は大学時代、明治大学(夜間部)に通っていた。なぜ夜間部に行く事になったかは省く。


 ただ、社会科の教職課程を取っていたので昼夜と授業にでていて、昼にバリバリ稼ぐ学生に比べ、バイトがしずらい状況にいた。

 又当時、今の自分には想像できないくらい内気だった。初めて行うアルバイトにはかなり勇気を要したのをよく覚えている。


 高校時代もバイトをしたことがなく上京して大学生になり初めてバイトを経験する。


 もうツブれてるから、堂々と書くけど、駅近くに豚骨系のラーメンの店が2軒あった。それでも濁すが、その2軒のうちの1つのラーメン屋で初めてのバイトをしたのだ。


 ある夕方頃、御茶の水駅前の通りにあった、その店の入口に貼ってあったアルバイト募集の貼り紙を突っ立ってぼうっと眺めていると、中から巨大な背丈、赤ら顔、面長の店主が出てきた。


 「明治の学生さんかい?バイトやりたいのか?」

 にこりとしながら優しい声で話しかけてくれた。


 「え!働かせてもらえるんですか?」

 

 この店主の雰囲気なら大丈夫だろうと察知した俺。又あちらから声をかけられて肩を押されたこともあり、直ぐにバイトを決めた。


 ところがだ。

 これが地獄のアルバイトだった。

 俺は働くということへの出鼻を挫かれた。

 かなり痛手になり後を引く。

 余り人に話したことがない。

 今だから話せる話だ。


 問題は、店主以外の店主の家族だったのだ。


 家族経営+バイトが俺をいれて4人の構成だったと思う。


 やばかったのは、店主の奥さんだった。めちゃくちゃ怖かった。

 いつも眉間にシワを寄せてイライラしていた。完全なる柳葉敏郎だ。しかし温かみはない。

 内容忘れたが、物言いが実にネチネチしていた。よく叱られたがいつも理不尽な叱られ方だったなと納得出来ずに働いていた記憶だ。


 バイト先輩に商学部の三年生がいて、少し愚痴ったら「もうかなり何人もバイト辞めさせられているよ。もう1カ月続いてるし木村君すごいよ」

 そんな慰めのような話をされたように記憶している。


 考えたら、こんなクソな店、直ぐに辞めたら良かった。


 後に色んなバイトをするが、一番酷かった。仕事もなんでも人だ。

 その当時は世界がそれが全てだから、わからない。仕方がないのだ。


 それでも俺は悔しかったからなのか、胃を痛くしながら、毎回休まずに行った。

 凄い大変なミスとかないと思う。掃除の仕方が悪いとか、手順が良くないとか、動きが遅いとか、毎回何やらイジメ的な叱られ方をしていた。


 さらに店主の弟もいたが、弟はバイトを顎で使うようなタイプだった。指図だけで、ほぼ会話をしなかった。


 店主は凄いいい人だったが、恐妻家で妻に何も言えないといった様子だった。

 働いていて、だんだんとわかってきたのは、その奥さんが、バイト学生に対して自分の好き嫌いで接しているということだった。


 僕以外にはアルバイト男性が2人いた。1人は先ほどの商学部の先輩で、実家が食堂で何か全ての動きが手慣れていた。性格は明るくて楽天的。不真面目にも見えるが、良く言うなら良い具合に力が抜けたタイプかな。面倒見もいいし面白い人だった。

 彼は、奥さんからかなりお気に入りで、暇な時にラーメンを作る台所の鉄のテーブルに、どっかりとお尻を乗っけて座り、足をプラプラさせて新聞を開いて読んでいたが、奥さんに何も注意されなかった。

 それなのにだ。俺が暇な時に壁にもたれて腕を組んでいたら「腕を組むと偉そうだ」と、こっぴどく叱られた。差別的だなといつも感じていた。


 ただ、その時、腕を組むと、確かにそれはそうだ、とも思ったので、俺はそれ以来、現在でも極力両腕を組まない癖がついた。


 もう1人いた男性は俺みたいにはイジメを受けなかったが、あまり気にいられている感じはしなかった。

 その男性も大学の先輩で学部は忘れたが、どちらかというと不器用で生真面目な人だった。当時の俺に似てる。


 その先輩男性2人と、女性1人と夏休み前に飲み会があった。どういう流れだったのか忘れた。4人だ。女性は今年卒業して保育士になるとかいう学生で、丸顔で愛嬌のある顔立ちだった。


 その時に話したことで記憶していることが1つだけある。


 前のエッセイでも書いたが、商学部の彼と、その丸顔の保育士の卵さんが「カップがなんちゃら」って話をしていた。


 小耳にした俺は直ぐに、最近、スーパーでカップラーメンがトレイに山盛りにディスプレイされていたのを見た記憶、が蘇る。


  「あっ、カップラーメンの話ですか?」

 と興味津々に聞いたのだ。


  「もおおっ、木村君、真面目なんだからあぁ」


  「はっ?!」


 どうも商学部君は、彼女のバストサイズを聞いていたのだ。

  かなりびっくりした。身近な、うら若き女性に、そんな卑猥な話をこの場でぶっこんでいたとは…思いもしなかったのだ。あとは何も覚えてない。


 それから、夏休みの間、田舎に帰省するのと、店が確か長期休みで、しばらく店に行かなかった。


  で休み明けの話だ。


 俺は休み中に冷静に考えて、こんなイジメ職場はやめようと決意して、それを伝えるために出勤していた。


 そしたらそのタイミングで、休憩室で店長が給与袋を渡しながら「これで最後にしてくれんか…」とあちらから告げられたのだ。


 「…」


 先に言われた。


 それも、それだと俺が悪いみたいな感じ。店長は、苦々しい顔をしていた。店長は俺を叱ったことがない。奥さんが言わせているのは見え見えだった。こんな大人にはなりたくないな。

 

 そんなふうにはぼんやりとおもいつつ、やはり自分を否定された事がショックで、忘れたけど、多分、家で泣いたのでは無かろうか。

 

 その後、俺は、コンビニ、リサーチ会社、神宮球場の警備員、河合塾の軽作業などを経験。


 3年次には、家族的な小さな出版社で初めて長期、2年定着してバイトした。

 そして、そのラーメン屋のバイトに始まるバイトの苦い経験、トラウマをなんとなく克服したのだ。

 

 

 その後も色んなとこで、でも思ったんだよね。


 「捨てる神あれば拾う神あり」だ。


 色んな気持が交錯しているが、コレくらいにしておくのだ。





 

 


 

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