1-1 一日目

 貴方の事を忘れた時に、貴方は本当に居なくなってしまう。

 私は、貴方に傍に居て欲しかった。

 いつまでも。

 いつまでも。

 だから、私はどんな事をしてでも――。




 私の田舎は田舎である。

 クーラーの効きの悪いぼろっちいバスに乗りながら、ふとそんな事を考えた。

 その言葉は間違ってはいない。この国は狭いと言うけれど、その中でもこのド田舎は非常に目立たない位置にあると言えるだろう。

 人口、田舎にしては普通。交通の便、田舎にしてはぼちぼち。高速道路や新幹線の通り道でもなく、特産品もなければ世間を賑わせる程の事件事故もない。

 大きな店や、客の気を引く娯楽施設などもない。つまりは旅行者などの通り道とかでもなく、仮に何かの気紛れでどこぞの旅行者が通り掛かったとしても、「おや、あれはなんだろう?」と足を止めてくれそうなものもない。面白味のない所だ。

 逆に、凄く不便という訳でもない。電車は通ってないけど、バスなら運行している。店も田舎らしい小ざっぱりとしたスーパーマーケット程度ならあるし、コンビニもバス停の近くに一軒だけある。

 便利じゃないけど不便もない。だから余計に地味になる。人生常に平穏を求める性質の人種ならそんなでも居心地がいいんだろうけども、刺激や好奇心を求める人種――つまり私みたいな者にとって、これは非常につまらない。

 ずっと、何か面白い気持ちでありたい。

 その為に、面白い何かを表現するものが必要だった。それは心が満たされるものであればなんでも良かったんだけど、私は色々なものの中から、漫画や小説などを選んだ。特に拘りがあった訳じゃない。たまたまそうした本が近くにあったから、目を引いたというだけの事。だけどまあ、結果的にはハマった訳で。そうしてそれらを読み込む為に、ジャンル問わずに出来得る手段で色々と集めたんだけど、物の少ない田舎だとやっぱり入手するのに限りがある。

 だから私はペンを取った。高校生の初めの頃だ。

 そこにないのなら、自分で作ってしまえばいいんだと。

 そうして色々と物事を空想して物を書き続け、そして更に未来まで書き殴り続けられるように、私はそうした事を学べる大学に進む事を決めた。

 高校生活も後半、大学受験間近になって、私は一日二十時間くらい勉強した。睡眠時間は確か四時間くらい。高校への移動の際や、食事中、風呂場の中でもノートや参考書を持っていた。長くつらい勉強漬けの生活。それは今まで勉強をさぼって遊び回っていたツケを痛感した時間でもあった。

 高校での進路指導の際、担任に「お前には逆立ちしたって無理だ」と鼻で笑われた行き先。そこそこレベルの高いその大学に受かったという知らせを家族にした際、喜ばれるよりも前にまず疑われて、合格通知を見せたら若干引かれた、みたいなリアクションをされた。失礼な話――でもないな。私だって第三視点からそこに至る過程を見ていたとしたら、自分の行動力に引いてしまう自信がある。見返してやんよと。あとは本当にその大学に行きたかった。そういう二つの意地で。

 そうまで無茶をした理由は、勿論、大手を振ってこの田舎を出て行く為だ。そこまでの行動を起こさせるくらいには、この町にはなんにもない。私は何かが欲しかった。それは決して、この小さな田舎では手に入らないものなんだと思った。

 スランプ中の身ではあるけども、今から先も、ペンを捨てる事は考えていない。行き過ぎた栄光か、挫折のどん底か、或いは全てを台なしにする強大なる飽きがやって来るか。余程の心変わりがない限りは文章を書き続ける予定だ。

 そんな物書き志望として、私は刺激が欲しかった。なんにもない町には、話のネタさえもなんにもなく、物や人が色々ある都会なら、ネタだっていっぱいあるものと。そう思った故に行動をしたんだ。

 でも、後になって学んだ。私の思っていた事は大当たりではあったけど、物事に完全な百パーセントなんてなかったんだと。

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