13-2

 ……ところで、お茶を飲む幽霊を見るってのは、なかなかに新鮮な光景だな。机を挟んで、向かいに座る幽霊。顔を完全に覆ってる程長い髪の毛のせいで、えらくお茶を飲みにくそうにしてる。髪切れよ、と突っ込みたくなる。

「お茶菓子もあるぞ。つーか只の菓子だけど。良かったら頂きなさい」

 ――あ、はい……。

 やっぱり消え入りそうな声だけど、意思疎通は出来るらしい。

「甘いお菓子は美味しいか?」

 ――おいしい、です……。

「どこの生まれなんだろうな、どこから来たんだ?」

 ――あの……あの、そこから……。

 テレビの方を向く。テレビにはさっきの古井戸の画像がずっと映ってる。

 でっかいお屋敷の敷地みたいだ。多少古めかしく見えるけど、井戸のある家ってかなり裕福だぞ。

「なんだか豪華そうな所だな。ここに住んでるのか」

 ――住んで、いました……。

 住んでいた。生前? で井戸って、それらを組み合わせるとなんか嫌な予感。

 話題を変えよう。

「これこっちに来れたって事は、向こうにも行けるのかな」

 ――私は、そうです……。

「凄いな、ど○でもドアみたい」

 テレビの表面を、ちょっと指で突付いてみる。

 触った。冷たい感触があってそこで止まった。どうやら俺は向こう側には行けないらしい。

 まあ行けても困るよな。戻れる保障ないし。向こう側はまさにあの世なのかも知れない。でも上手くすればド○えもんみたいな夢の移動手段が出来たり。そんな事出来たらいいなとは思うけど。

「じゃあ、ええっと……お前はどうしてここに?」

 ――え、それは……。

 もごもご。

 あ、やばい。なんだか地雷を踏んだ気がする。

 ――呪いに「駄目じゃないかっ!」

 ――ひっ……。

「仮にも女の子が知らない男一人の家に行くとは。しかも夜中に! なんていう破廉恥な!」

 ――え、いや、私は呪「いい年頃の娘がはしたない! 君のお母さんが泣いてしまうぞ!」

 ――う……ううう……。

 勢いにより、幽霊はちょっと泣き出してしまいそうになる。

「いいんだ。間違いは誰にでもある」るーるーるー(某サスペンスのテーマ)。

「つらい事だってあっただろう。間違ったっていいんだ。でも気付けたら、やり直せるんだ。まだ若いんだから、未来をまだまだ夢見ていいんだ」がしっ(肩に手を置く音)。

「そうしたら、いつか認めてくれる日が来る。君の頑張りがいつか報われる日が来るんだ。諦めちゃいけないんだ……」(海を見下ろす崖の上のイメージ)。

 ――私は……。

「さあ元気を出して。己を磨くがいい。そうして自分に納得が出来たら、またいつでも会いに来なさい。いつまでも応援してあげよう」るーるーるーるー……(テーマ終了)。

 ――はい……。

「さあ、もう帰りなさい。いつまでもこんな所に居ちゃいけない。暗い時間なんて特に駄目だ。明るい時間にお願いするぞ」

 ――はい……あの、ありがとう……。

 ――最後に見た彼女は、少しだけ、どこか迷いのなくなった顔をしていた。恐らく彼女は大丈夫だ。幽霊の世界で、これからしっかりと生きていける。そうして彼女はテレビの画面へと埋もれていった。向こう側に行って、立ち上がった彼女は、最後に少しこちらを向いて、小さく笑った、気がした――。

                                FIN


 ざー……。

 ふう。やっと面倒なのが終わってくれた。一見いい話っぽかったけど、間違っちゃいけない。根本的に変な状況から始まった事なんだから。

 と、砂嵐の黒点がまた集まって、


    ありがとう


 ざー……ぶつん。

 電源が落ちた。

 ……お礼は嬉しい。うん。だけど最後まで曰く方面ばっかりってのは、ちょっとやめて欲しいなあ。




 それ以来、夜中にテレビが勝手に点く事はない。

 夜中に叩き起こされる事もしばらくはなく、ゆっくりと睡眠を取れる日が続いた。

 只、このテレビ。普通に見てる時に、たまに変なのが映ったりする。本来の番組に出演してる筈のない、長い髪の白装束の女が。ニュースでも、ドラマでも、お笑い番組の最中でも――。

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