13-1 さだ
ざーざー。
砂嵐、いわゆるざらざらな画面が、今テレビに映ってる。
なぜか今、俺はテレビの前で正座して、砂嵐しかない画面を見てる。因みに時間は午前二時。面白くもないし和やかにもならない。何一つ感情に訴え掛けるものがないのが、今テレビに映ってる映像だった。
……突然発生した、ざー……という音と光で目が覚めて、このテレビの異常を発見したんだ。
勿論最初は点けっ放し説が頭に浮かんだ。ちゃんと戸締りして、電気も消して布団に入った記憶が昨日にはあった気がするけど、今こうしてテレビが点いてる現実があるんなら、そういう事なんだろう。テレビを見ながら寝てしまって、今の時間は何も放送してないんだと。
勿論、次にはリモコンに手を伸ばした。電源ボタンを押した。でも消えない。二回、三回と押した。でも消えない。電池が切れたんだろうと結論付けた。
当然、次にはテレビの主電源に手が伸びた。ボタンを押した。でも消えない。二回、三回と押した。……この時点で、もう完全に嫌な予感が頭の中によぎっていた。曰く的な事がまた起きたのかと。
まあ無理だろうなと思いながら、コンセントの方に手を伸ばす。
――ここで一つ昔の話を。俺は寝る前には、出来る限りのコンセントを外している。その昔、田舎に居た婆ちゃんは毎日しっかりと電気ガス水道、戸締りを確認してから就寝するたちであって、その娘である母さんにもその辺りをしっかりと守るように教え込んでいた。当然ながら、そうした教えは孫である俺にもしっかり仕込まれた。
「しっかりやっておかないと化物が来てお前を食ってしまうぞ」と、幼い日の俺に婆ちゃんは教え込んだ――。
……つまりだ。最初からコンセントは外れてる。当然電気が流れていかないんだから、テレビが点く筈がない。
テレビ自体が反応する筈がないんだから、どこの電源を押そうが引こうが何かが起こる可能性は決してない。幾らでかい数字があってもゼロを掛ければ答えはゼロなんだ。
じゃあこれは――、
考えたくないけど、やっぱり曰く絡みなんだろうなあ。
・
――いっつあふぁーいんでい、ふふふふーふん♪
大昔に(曰く的な意味で)流行った某ティシューCMの歌が頭の中に再生されている。
そりゃあ、テレビと来て電気が来てないとなれば、そっち方面の想像が容易に出来るのは当たり前の事で。
今俺はテレビの前で、これから来るであろう何かを待ち構えてる。それしかする事がないんだ。テレビを消そうにも、元々点いてる筈がないんだ、どうしろと。こんな状態で寝られやしないし。
だけどずっと砂嵐を見続けるのは、段々つらくなってくる。さっさと何か映して欲しい。どうせそういう展開になるんだろうからさ。
――それから十分後。
そろそろ本気で嫌になって来た時に、やっと画面に変化が現れて来た。砂嵐の画像が、何か規則性を持って動いてきた気がする。
今までまばらだった黒い点が、ゆっくりと形になろうと集まり出した。それはやがて、どこか文字のように見える形に変化して、止まった。
し
「安直過ぎるわ」
前置きの時点で曰く付きな気配はあったんだ。恐らくは、死という文字を連想させようとする腹づもりだったんだろうけど、事前に予想出来てしまったら、驚くも怖がるもなんにもない。
……、ざー……。
間があって、また砂嵐に戻った。言葉が聞こえたからか、驚く気配がなかったからか、どっちにしろこんな脅かし方だと赤点程度しかあげられるものがない。この曰くは演出家の才能はなさそうだな。
やがて、また黒い点が集まり始めた。それは何か形を持って、どこか絵のようにも見える――、
○ ○
○
「ひねりがないわ!」
これもまた、恐らくは人の顔を連想させて怖がらせようとする魂胆なんだろう。いわゆる、シミュラクラ現象というやつだ。逆三角の点が三つあれば、人は人の顔を連想してしまうという――覚えちゃったよそんな事も。
だけどこんな単純な事、なんだか逆に馬鹿にされてる気分にもなるぞ。
……、ざー……。
また砂嵐に。一発ネタはもういいよ……さっさと終わって寝させてくれ。
すると、今度は別の画面に変わろうとしてる。ちょっと古めかしい、真っ暗の屋敷。その庭にある井戸。水を汲み上げる、滑車付きの桶もある。画質は良くない。色も白黒に見える。
やっとまともか? と思いながら、これってどっかで見たような気もする、と思う。多分あれだろ……。
「まさかそこの井戸から何か出てくる、って事はないだろ」
まさかあ。そんなベタな事。ホラーっていうより寧ろコントだぞ今だと。
……。
……。
……。
なかなか変化が起きない。
ずっと静止画しかない。あーこれってまさか。
……出づらくなってる?
おいおい……まさか俺の言った通りの展開だった訳か? 本当に井戸から何かが出てくる展開だったんだろうか。
「……、えー、あー、な、なんだこのこわいがぞうはー、なにがおきるんだよこわいよー」
そう(棒読みで)言ってやると、やっと画面がちょっと動き出すみたいな感じになった。
めんどくせえ……。
そして、井戸から、(やっぱり)ふちの所に盛り上がりが。白っぽいそれが、大きくなって、そして次には黒いのが――!!
まあぶっちゃけ幽霊っぽいのが這い出て来たと。白装束を着た、凄く髪の長い幽霊っぽいのが、井戸の上まで出て来て、まあ多分こっちに寄って来るんだろ。
……井戸の中から出た女(多分)幽霊は、ふらつくような足取りをして、ゆっくりと近付いて来る。
……そういえば本当どうでもいいけど、これって電気代掛かるのかな? コンセントは刺さってないけど、電気メーターは動いてるのか……。
エネルギー源が気になる所だけど、そんな事を思う間にも、そいつが迫る。白装束なのがあからさまにやばそう。如何にも「貴方を呪います」的なオーラが滲み出ている。
ほっといたら、これ出て来るだろ。顔やら手やらがこっちに出て来て、ずるんってこの床の上に体を下ろして立ち上がって来るのか――。
……。
えい。
一つ思案をした結果、テレビを持ち上げて転がす。そして画面を床に押し付ける形に。
ざー。
……。
ざ、ざー。
お、なんか様子が。
ざざー。ざざー。
……。
ざざざーがたがたがた。
テレビががたがた動いてる。
……。
ぬっ。
お、何か少し出て来た。どうやら指みたいだ。
……。
くいくい。
隙間から手招き、してるみたいに見える。
……どうしろと。これ助けたら呪われそうだしさ。呪われるのは嫌だから放っておこう。
ぱんぱんぱん。
隙間の指がテレビの縁を叩いてる。
こういうの、格闘技とかで見た事あるな。タップだ。降参っていう意味でやるんだ。
ぱんぱんぱんぱんぱん。
……なんだか必死そうに見える。流石にちょっと可哀想になって来たな。
怖い事は怖いけど、テレビを元に戻してやる。
ぬるっ、べたん。
白い服を着た人の体が、尺取虫みたいな格好で出て来た。
「大丈夫か?」
……返事がない。只の――。
「助けてやったぞ。呪うなよ?」
――ありがとう……。
返事はあったけど、只の幽霊のようだ。
消え入りそうな声だもの。こういうの古典的なのかな。
「そうか。ところで今お茶を淹れようと思ったんだけど、丁度いいから一杯飲んでいきなさい」
――、ありがとう……。
ややあって、小さな返事が来た。
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