5ー1 お逆さん

 俺の行ってる大学には、何やら変わったサークル活動をしているものが多くある。

 その一つに、世にある怪異を探求し活動をしてるというサークルがあるそうな。

 俺はそこを訪ねる事にした。毎日部屋で起こるおかしな事に、引く事はしないにしても、誰かに相談出来るならそうしたいという思いはあった。もしかしたら何か解決のアイデアをくれるかも知れない。平穏になれば、それに越した事はないからな。

 只、それをするには普通の人間には無理だ。良くて鼻で笑われるか、引かれるかのどちらかだろう。

 霊感的に、詳しい人物がいい。

 そんな思いを元に、俺は藁にも縋る思いでそのサークルを探し始めた。


 旧校舎の端っこの端っこ。噂のサークルはその辺りに部屋を構えているらしいけど。

「……なんでこんななんだよ」

 どう言えばいいのか。ここ大学でいいんだよな。取り壊し間近の小学校とか、そんなんじゃない筈。

 いや、本当にそれだ。この辺り、田舎とかのぼろっちい取り壊し間近の小学校みたいだった。如何にもな雰囲気なんだよ。木造だし。ここに来てから誰も見掛けないし。誰かの気配もしないし。がらんとしていて生活音もない。そうか、流石怪異サークルのアジト。それっぽい場所を選ぶセンスが素晴らしいな。ウチの曰くどもに是非とも引越し先として紹介したい。

 ……っていうか。

 どこにあるんだ例のサークルは? どの扉がどの部屋だとか全然解らない。なんというか、ドアの前に掛ける表札、そういった類のものがまるでない。だからどこがどの部屋なのかが解らない。目的の部屋も当然解らない。

 一つ一つ見て回るしかないのか。

 ……そして引き戸だよ。ガラス張りの。ここ、やっぱり元々小学校だったのかな。

 取り敢えず、色々と中を見てみるしか。

 がらがらがら。

 ……机が山積みにされている。

 がらがらがら。

 ……普通に机が並んでいる。

 がらがらがら。

 ……なんだか古めかしいっぽい和服が幾つも飾ってある。美術部?

 がらがらがら。

 ……人体標本があった。どうやら理科室らしい。

 さて、俺は意外にも――意外じゃないかも知れないけど、二番目の教室が一番不気味だったね今の所。生活感のない所なのに、生活感がある感じ、というのはな。例えば廃墟に魅せられるってこんなのかも。夜は怖いけど昼だと、……ああ、なんか、うん……って感じで。二言で言うとロスト・ノスタルジイ――ってところか。

 衰退は好まれるのかも知れない。

 だったら衰退の結果の、アレなのとか、幽霊だって好まれるのか?

 違うだろうな。祇園精舎の――って和歌があるけど、それとはまるで別物だ。一旦衰退したものは、そのままフェードアウトしていって欲しい。世の中は全て有限なんだから、今あるものに力を入れていこうぜ。

 ――さて、

 奥に続く廊下には、まだ幾つか引き戸がある。当たりの部屋はどこにあるのか。まさか、全部外れなんて事は――。

 がらがらがら。

「こんにちはお客さん」

「うおっ」

 教室に入ると、女の人が居た。机があって、椅子に座ってこっちを向いてた。そしてなぜか簡素な和服姿の人だった。

「人の顔見てうおって、いい反応だね新入生」

「あ、すみませ――ん? 新入生?」

 鳩が豆鉄砲。多分俺そんな顔。だって、自己紹介なんてしてないのに、というか初対面なんだから、それを察するなんて出来よう筈が――。

「ふっふっふっ、簡単な推理だよワトソン君」

 誰がワトソン君か。

「今は春、新入生の時期だからね」

「……推理でもなんでもない気がします」

 思わず敬語。でも当たりだ。多分向こうは先輩だろう。

「でも当たりでしょう?」

 思った事を言われた。

「それに、一年もこの学校に居る奴は、好き好んでここに来たりはしない」

「はあ……」

 まあ解る。なにせまず不気味だものここ。

「後輩、今ここが不気味だなって思っただろ」

 思ってた事を、すぐに当てられた。

「いえそんな事はございません」

「嘘吐きは政治屋の始まりだよ。なぜなら私も不気味だって思う」

「ですよね」

 うーん。この先輩かなりやり手だ。相手を手玉に取るってのが上手そう。

「でもお客様はお客様。まあ、そこに座って、お一つ粗茶でもどうぞ」

 手のひらで指す。対面出来るテーブルと椅子があって、

 先輩はその場で後ろを向いて、

 振り返ると、カップを二つ持っていた。湯気が出ている、お茶だ。

 ……用意してたのか?

「なんで、俺が来るって解って?」

 座ってと言われた、そこに俺は座る。先輩はカップを手に、テーブルの前に座って、

 ……にやり、と笑みを浮かべた。

「ふ ふ ふ――」

 いやふふふて。

「君がここに来るのは百年前からの定めなんだよ……」

「えーそっち系なのここ」

「とかだったら箔も付くんだけど」

 おい先輩よ。

「そりゃあ、誰も居ない校舎内で、がらがらーって音がこっちに近付いて来たらそうでしょ」

「あ」

 そりゃそうか。

「ですよね」

 良かった。いわゆるビョーキの人かと思った。ちゅうにびょうって言うんだっけなそういうの。

 先輩は自分のカップを持って、面白いものを見るみたいな、にやっている顔をしたままお茶を飲んだ。

「うん。うちの相方は出払ってるし、帰って来るなら一直線だからね。それ以外なら――って言わせないでよ恥ずかしい」

「すみません……」

 なんで怒られたんだ。

「まあ大方妙な噂を聞いて面白半分で来たってとこでしょう。たまに来るけど、今まで全部外れなんだよねえ。迷惑してるよ正直」

「はあ」

「で?」

「え?」

「どういったご用件? 生半可なものだと許さないよ。つまらない用件だったらさっさとお引取り願うからね」

 じっと見られる。

「つまらないかどうかは……」

 解らんけど。スリリングではあるぜ。実体験的な意味で。

 取り敢えず、まだ湯気のあるお茶を頂く。紅茶だ。詳しくはないけど、ちょっと周りを見てもティーパックの類がない。もしかして、いいお茶だったりするのかも、と妄想してみる。

 喉の滑りが良くなった所で、事実ノンフィクションをありのまま、今まで起きた事を説明する。

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