03.グラウンド・ゼロへ
そして、夜。
ファウが眠ったのを確認した後、天夜は大きなキャリーケースにいくつかの機材を詰め、大きなカバンを背負って、家を後にした。
外に出ると、スーツを着た男が複数人、そして、トラックが一台止まっていた。
それらは、環が手配したのだろうと容易に想像できた。
だが、トラックの意味は分からなかった。
「こちらへ」
ひとりの男が天夜をトラックの荷台へと案内した。
そこには、人がひとり入るには十分なサイズの木箱が置いてあった。
――まさか
天夜はちょっと嫌な予感がした。
「荷物を抱えて、こちらの箱に入って下さい」
――やっぱり……
「追加の機材に偽造するってことですね……?」
「そうです。なので、ここからは一切言葉を発さないように。それと、これをお渡ししておきます」
そう言って渡されたのは、タオルと錠剤が二錠。
「汗ふきタオルと睡眠薬ですか?」
「いいえ、舌を噛まないようにと、酔い止めです」
「……」
「二時間は箱の中ですので、覚悟して下さい」
天夜は、少しだけ、依頼を受けたことを後悔していた。
この後悔が払拭されるほどの成果を得られればいいけど――
そう思いながら錠剤を二つ飲み込み、箱の中に入った。
そして、蓋が閉まる前にタオルを口に噛ませ、無事に着くことを祈った。
本当に。
◇ ◇ ◇
トラックは走り出した。
そして、どれくらいか時間が経ち――
トラックは止まった。
そして、いくつかの話し声が聞こえてきた。
「追加の機材?」
「ああ、連絡が行ってなかったか?」
「あー……どうだったろう。事務所に確認しないと……」
「とにかく運び入れておいてくれ、確認はその後でもいいだろ?」
「でも……」
「もし、連絡が入ってたのに、荷物が搬入されてなかったら、そっちのほうが問題だぞ? これは防衛省の案件なんだからな」
「……分かったよ。おい、これも積んでくれ」
箱は、何かに吊るされるように持ち上げられ――
しばらくの浮遊感の後、降ろされた。
そして再び、大きなエンジン音を唸らせ、走り出した。
上に。
下に。
右に。
左に。
揺られに揺られ続け――
やっと、エンジン音が止まった。
そして、箱はずりずりと、多分、人の手によって動かされ始めた。
「おっも……何入ってんだこの機材……」
「どうでもいいだろそんなこと、さっさと終わらせて帰ろうぜ」
「……まさかお前、あの噂話、気にしてんのか? 幽霊が出るって噂」
「な、何のことだよ……」
「女のうめき声が聞こえるらしいな、グラウンド・ゼロから……やっぱり、死んだ人の怨念とかそういうやつかねぇ?」
「い、いいからさっさと降ろせ‼️ そして、帰るぞ‼️」
「はいはい」
箱は、ずしりと、地面に置かれ、また再び、ずりずりと、引きずられ――
ぴたりと、止まった。
足音が遠のき――
ドアが閉まる音が響き――
エンジン音が唸り――
そして、遠のいて行った――
残ったのは、静寂。
それと、夜風が草葉を撫でる音。
そして――嘔吐だった。
「おえ……」
ビチャビチャ。
嫌な音が辺りに響いた。
しばらくすると、降ろされた箱が一回、二回と揺れた。
すると、上蓋が外れ、中からげっそりとした顔の天夜が出てきた。
そして――もう一度、嘔吐した。
「酔い止めの意味なかったな……」
天夜はふらつきながら、持ち込んだキャリーケースと、大きなカバンを取り出した。
揺れで壊れていないか、嘔吐で汚れていないかを確認するためだ。
「機材は……大丈夫だな。あとは……」
天夜が大きなカバンを開けようとすると――カバンがうごめいた。
ぎょっとした天夜は、恐る恐るカバンを開けた。
中にいたのは――
「ファウ⁉」
「……あう」
驚く天夜に、ファウはいつもの虚ろな返事をかえした。
「なんで……家で寝てたはずじゃ……」
混乱している天夜をよそに、ファウはカバンからひょいと出て、まるで猫のように、どこかへ歩き出した。
「ちょ、ファウ‼️ ダメだって‼️」
天夜の忠告など気にもとめず、ファウはどんどん奥へと歩いていく。
――このままでは、見失う‼️
天夜は、急いでキャリーケースからアンテナとパソコン、そして、いくつかのケーブルを手に持って、ファウを追いかけた。
グラウンド・ゼロの中心へと――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます