第8話 何かを思いつくまで
まず、その背後からの首
肩から、さらに、腕に沿わせて両手を下ろして行く。
で、ぎゅっ、としようとしたのだが。
どうしよう、と考える。
無理やり巨大イチゴのクッションごと抱いてもいいのだが。
もう少し抱きやすくならないかな。
「よし」
「いちばん強い女」なんだから、力で行くことにした。
まず、姿勢を低くして、クッションと腕ごと、ぎゅっ!
そして。
「ひやぁあぁあぁ!」
いまひとつ勢いに乗れない、いまひとつ元気のない、甘ったれた悲鳴。
軽い。
小さいなぁ、盈子は。
盈子の体は、空間からわたしの前に叩きつけられ、ベッドが盛大にきしみ音を立てた。
が。
二〇世紀の関東大震災直後に超強力耐震設計で立てられたという古いこの寮の建物は、盈子が空間から落っこちたぐらいではほんのちょっとも揺れないのだ。
したがって、ほかの部屋には異変は伝わらず、だれも助けに来ない。
体が空間に浮いているわずかな時間のあいだに巨大イチゴのクッションは投げ出してしまったらしい。
ぎゅーっ。
盈子が望んだとおり、ぎゅーっ。
「みそらぁ」
弱々しく、盈子が言う。
「後ろから、ぎゅっ、は言ったけど、押し倒してぎゅっ、とか言ってないよぉ」
今度は、声に出して反論。
「倒したけど、押してないよ」
事実だ。むしろ、後ろから引いた。
これが、嫉妬の代償。
わたしが
「だから、これは、押し倒してぎゅっ、ではない」
と、反論を補強する。
わたしが「ぎゅっ」をしている手は、ちょうど盈子の胸の下あたりに回っている。
首絞めモードではないが、その両手に力をこめる。
ぎゅーーっ。
「もうっ!」
盈子は興ざめしたような声で言う。
または、抗議する。
「何する気よぉ?」
正直に言う。
「まだ考えてない」
「もぉお」
盈子の甘ったれたうなり声。
そのうなり声とともに、盈子は上になっている左足を上げて、逃げようとする。
その左足に、わたしは、自分の左足を引っかけて、無理やり引き戻す。
「強い女」相手に、そんなので逃げられるわけないでしょ?
盈子は、それまで自由だった足にもわたしの足を絡められ、わたしのベッドの上で身動きできなくなった。
「もぉおぉお」
不快そうに、でも甘ったれた声でうなる。
「何する気よぉ? みそら」
正直に言う。
「まだ考えてない」
何かを思いつくまで、このままの姿勢でいるのも悪くないと、わたしは思った。
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