第7話 なんかコンプライアンスに反する
そこで
「まあ、いちばんかわいい子に、って書いてあったら、無条件で
と言ってあげる。
盈子のほっぺの「ぷくーっ」がしばらく持続する。
その「ぷくーっ」を弾けさせ、盈子が言う。
「まあ、いいか」
それでも不満そうだ。
「
「目の覚めるような美人」というわけではなく、しばらくじっと見つめていたら美しさがじんわり理解できてくるような種類の美人だけどね。
「で、さ」
と、なぜか急速にさばさばして、盈子が言う。
「美人って書いてあったら古藤美里ちゃんで、かわいいならわたしだったら、みそらは?」
そう言って、わたしの許しも得ないで、わたしの巨大イチゴ型のクッションを膝に抱いて前後に体を揺する盈子。
べつにいいけど。
「みそらは、何って書いた
「わたしはなにもなくていいよ」
メッセージ入りの林檎とかもらったら、めんどくさい。
とくに、「祈・志望校合格」とか書いてあったら、めちゃくちゃめんどくさい。
「そういうわけにはいかないよ」
巨大イチゴ型のクッションとともに揺れ続けながら、盈子が言う。
「わたしと古藤美里ちゃんが何かあって、みそらが何もなしだったら、なんかコンプライアンスに反すると思う」
……コンプライアンス、って、何だっけ……?
ともかく、エリスさんは不和と争いの女神さんなんだから、そのコンプライアンスなんていうものを守るはずがない、いや、守っていてはいけないのでは?
でも、ここは盈子の問いに答えておこう。
「じゃあ」
と、わたしは答える。
「いちばん強い女に、かな」
まあ、このなかでは、という範囲で、だけど。
世のなかにはもっと強い女はいっぱいいるだろうから。
昨日の、隣の模擬店のベリーショートのお姉さんのほうが、たぶんわたしよりずっと強い。
「わお。納得!」
盈子にそう言われると、なんか複雑な気分だな。
複雑な気分だが、あえて乗ってみる。
「かわいい盈子と美人の古藤美里を守るのが、わたしの役割」
「わお」
それ……。
……何の「わお」?
「じゃあ、みそら、その強さでわたしを後ろからぎゅってしてくれる?」
「はあ?」
わたしは大げさな反応をした。それに対して、盈子が繰り返す。
「だから、わたしを後ろから、ぎゅっ!」
巨大イチゴ型のクッションを体の前でぎゅっと抱いて、盈子はわたしを見上げている。
いや。
そういうのは、やったことはあるけど。
「夏だよ?」
「夏なら、やっちゃいけないの?」
また口を突き出しながら、盈子がわたしを見る。
「体触れ合うと暑い」
「いいじゃん」
盈子が言い返す。
「薄着で、体と体の距離が縮まるいちばんのチャンスだよ」
いいのか?
ほんとに!
わたしがいま着ているのは半袖の夏制服だし、盈子は渋いめのベージュの
しかも、開襟シャツなのに、プルオーバー。
わたしは、もう盈子に確かめることもしないで、ベッドに上がる。
盈子の後ろに膝立ちになる。
もともとわたしのほうが体が大きいし、盈子はベッドの縁に座っているので、盈子の体のほうがずっと下になる。
盈子の首に右手を回し、左手を軽く添え、両手にいきなり力を入れて、その首をきゅっ!
それで名門女子高校女子寮殺人事件の完成……。
……になるんだから、盈子ももうちょっと警戒しよう!
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