第6話 わたしと二人きりでいるときくらい
「何をわたしのいないときに
「いちゃいちゃなんてしてないよ」
わたしは無愛想に言う。
まったく!
あんな学術的な話をしながらどうやっていちゃいちゃするのか、教えてほしい。
「じゃあ、古藤美里ちゃんと何やってたのよ?」
「準惑星についての検討」
「はい?」
わたしは繰り返す。
「準惑星についての検討」
それに対する、天文部員
「準惑星って、何?」
ああ。
準惑星を知らない天文部員。
でも、その甘ったるい言いかたからは怖さも「困った」も消えて「かわいい」だけが残ったので、許そう。
「二〇〇六年まで、
それまで小惑星扱いだったケレスも準惑星になった、という件は、省いていいだろう。
「むう」
不満そうに口をとがらせる、かわいい盈子!
「もっとわかるように説明してよぉ」
天文部員でいまの説明がわからんのなら、どんな説明をしてもわかるようにはならないと思うが?
「それに、いちいち「新しく発見された天体」とかぁ。名まえ、ないの?」
「名まえがついたのはあとからだけどね」
たしか、仮番号はあったと思うけど、覚えてない。
「エリスって言って」
「わお」
と言って、それまでだらっとしていた盈子が身を起こす。
でも。
何が「わお」?
「エリスって名まえ、なんかかっこいい!」
何それ?
いや。
わからないではないが。
「争いとケンカの女神だよ」
と、わたしが指摘する。
「自分が世界一の美女だと思ってる三人が集まったテーブルに、「いちばん美しい女に」って書いた黄金の
「わお!」
再び盈子の「わお」。
「そのエリスさん、キャラ立ってる!」
そういう問題か?
「で、みそらなら、わたしとみそらと古藤美里ちゃんがいっしょにいるテーブルに、いちばん美しい女へ、って書いた林檎が飛んで来たら、どうする?」
なぜ話がそう展開する?
そこでわたしは当然の答えをする。
「キャッチして、投げてきたやつに投げ返す。できるだけ
「ダメダメダメ、それはダメ、絶対にダメ」
盈子がすばやく急速なダメ出しをした。
でも、何がダメなのだろう?
「だって
これは、まだ中学生のとき、盈子といっしょに協誠女子高校というところのオープンスクールに行ったときの話だ。
かなり誇張されているけど。
協誠は女子野球部が有名で、その女子野球部が体験入部というのをさせてくれたのだが。
わたしは、ピッチャーマウンドに立たせてもらって、調子に乗ってつい本気で投げてしまった。
そうすると、協誠の野球部のメンバーに口々に「ぜひ協誠に来て、野球部入って」と言われた、ということなのだが。
「ふつう、林檎が
「うん、思わない」
なぜそうかんたんに「思わない」と言える?
そこで、わたしは冷たく言う。
「まあ、いちばん美しい、っていうなら、古藤美里にあげるかな」
「えーっ!」
盈子の強烈な異議と不満。
「なんでわたしじゃないのよぉ」
口をとがらせたうえに、ほっぺが「ぷくーっ」とふくらんでくる。
かわいい。
盈子の要求。
「三人でいるときならともかくさぁ。わたしと二人きりでいるときくらい、わたし、って言ってよ!」
目は恨めしそうに、まじめにこちらを見ているが、いまは「
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