第2話 「出会い」
進学科の教室は玄関から一番遠い場所にある。他の科とは棟も違う。玄関とは別の棟、最上階の5階。他の科とは隔離されていると言っていい。そういう意思が学校側にあるかはわからないけど。教室に行くまでも一苦労だ。進学科は各学年1クラスで、3学年の進学科の教室が横並びに配置されている。
「珍しく今日は早いね」
「用事があったから」
「そうなんだ」
そう言って僕の隣の席、
ストレートの軽く青みがかった、光の当たり方によっては青く見える長い髪を下ろしている。
椅子に座ればよく通った鼻筋しか見えない。髪を耳にかけると、細く、整った眉毛と長いまつ毛、アーモンドのような綺麗な目に青い瞳が見える。運動してなさそうな白い肌、成績は僕に次ぐ2位の才女だ。
「どんな用事だったの?そのかけてるメガネでも学校に忘れた?」
「部活に入ろうと思って」
「…部活に?何部に入るの?」
「野球部」
「野球部!?、部活ならもうちょっといいのがあるんじゃない?無理に野球じゃなくても、ほらサッカーとかバレーとか去年全国大会優勝したって、わざわざ野球部なんて、この前の夏の大会も一回戦負けだったじゃん、確かにピッチャーは凄かったけど、、、昔は強かったらしいけど今じゃ、」
「別にそんなにちゃんとするつもりないし、それなりでいいから」
「そっか」
血濡れた紅、枯れた紅葉
名門だった紅葉高校は関係者が暴力沙汰を起こしたとされ、活動停止になったことを機に落ちぶれた。紅葉高校はどの分野でも頂点を目指す。その姿勢や強引とも取れる勧誘を少なからず嫌っている人々がいた。そんな人々にとって野球部は格好の的であり、校内でも面汚しとして風あたりが強い。でも、関係ない。僕はそれなりにやれればいい。
今日1日の授業はいつも通りつつがなく終えた。進学科は他の科より1時間授業が多い。もう部活は始まっている。
「紅、こっち〜!」
教室の入り口で楓が呼んでいる。楓は普通科だから待っていてくれたんだろう。楓は野球部のマネージャーをやっている。
なんでも「同級生のちょーイケメンが野球部にいるの!」だそうだ。多分あいつのこと。
嫌われている野球部に入ること自体珍しいが、そんな理由で嫌われ部のマネージャーになってしまう楓は相当な物好きだ。
「今日も多分あんまり人いないかも…」
「いい。見たいだけだから。」
「う〜ん、ちょっとはやんないと怒られると思うよ、たぶん」
いくつかのグラウンドと体育館を抜けていくと、他に比べて少し古い施設に着いた。
「ここが部室。で、こっちが更衣室。じゃあユニフォームに着替えて、外で待ってるから」
「…………」
「…?どうしたの?」
「ユニフォームなんかない。見るだけのつもりだった。」
「…じゃ、じゃあジャージでも」
「ない。今日は体育ない日。」
「………どうすんのーーーー!!!」
「本日から野球部に所属させていただきます。星宮紅です。よろしくお願いします。」
…坊主一人しかいない
「今日から入ってくれる、星宮紅くんだ。みんなよろしく頼むぞ。ポジションはどこかな?」
「ありません」
「……?」
「野球やったことないです。」
「そ、そうだったのか、まぁ、これから上手くなっていこう。俺は2年でキャプテンをしている
背は一般的には大きい。アスリートとしては普通くらいかな。けどなんか、背中が大きい。
「俺は、
背は一般的に普通、体格も普通、明るく接しやすい感じかな
「拓人、椎名最初が肝心なんだよ。もっとガツンと行かないと、
お前があの星宮紅か、俺は2年、
なんかメンチきってる、身長は175くらい、運動できる系男子って感じかな。唯一の坊主。
「北野メンチ切るな」
「最初が肝心なんだよー、拓人ー」
「僕は、
性格悪いのが滲み出てる。でも、ひょろひょろして弱そう、ちっちゃいし。
「俺は
普通、平凡を体現した男。普通。
そしてこいつ僕が見たいのはこいつ
「──俺は
「…そう」
「じゃあなんで制服なんだ?何しにきてんだお前は?天才、天才言われてもバカなんだなお前は」
「何?言わせておけば。入部届を出したのは今日なんだからフニフォームなくたっておかしな話じゃない。
君だって、天才、天才言われてるくせに1回戦で負けるんだ。」
「あ、なんだ、お前見てなかったのか、あの試合。あれは引退した3年のせいだ。俺は完璧だった。」
「見てた。でも負けた。君はその程度の天才だったってこと。」
「…そうか、じゃあ見してやるよ、俺がなぜ天才なのかを
これはめてそこ座れ」
渡されたのはキャッチャーミット。
「おい、汐月だめだ!和人、北野止めろ!」
「いいんじゃないですか?星宮くんも乗り気みたいですし、もうキャッチャーボックスにいますよ」
「星宮くんやめといた方がいいと思うよ、危ないよ」
みんなに止められる、でも、あの球を見れるんだ。やんなきゃ来た意味ない。
──手を掴まれる
「紅、絶対にだめ。最悪死ぬかもしれない。危なすぎる。」
「やんなきゃ意味ない。絶対取れる。僕は天才だから」
「紅、いつもはそんなこと言わないじゃん、ねぇ、だめ」
「そうだ、絶対に取れる。お前はミットを構えてボールがきたら捕る。それだけだ。ミットは動かさなくてもそこにボールが来る。よし、じゃあ、いくぞ」
「だめ、紅!ねぇ汐月くんも考え直して!」
───パーンッ
僕は楓のほうを振り返る
「ね、取れた」
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