第9話 開拓者と鍛冶師

「よし、さっさと協会ギルド行って身分証発行しようぜ」

「え、今のってですか?」

「魔法見るの初めてか?ほんと何も知らないのな」


オイラーは気を失った男を横目に呆れたような態度で言う。

この世界で魔法はそれほどまでに溢れかえっているのだろうか?


「その、石みたいなのは?」

「これはだ。を媒介する触媒の役脇をする魔道具マジックアイテムだ」

「???」


初めて聞く単語に圧倒され、知っているはずの言葉すら理解できなくなる。


「んなことはいいんだよ、行くぞ!」

「え?あぁ......」


詳しい話を聞く前にオイラーは直也の手を引いて協会ギルドに入って行ってしまった。



******



協会ギルドの一階は1フロアぶち抜きになっており巨大な柱がいくつか立っている。


「こんにちはオイラーさん、今から依頼ですか?」

「いや、こいつの身分証発行の付き添いだ」


カウンターにいた受付嬢がオイラーと親しげに話すと直也の方を向いて確認し、役所のようなスペースに案内してくれる。

役所の雰囲気はどの世界でも共通のようだ。


「それじゃあここに血を一滴垂らしてください」

「はい」


受付嬢は右下が窪んだ金属製のカードと小さなナイフを差し出してくる。

直也はビビりながら親指を切って血を垂らすとカードが光りだす。


「登録できましたね、私はあなたのサポーターを務めるマリナです開拓者セトラーとして頑張ってくださいね!」

「え?開拓者セトラー?」


どういうことだ?

開拓者セトラーってオイラーさんとかのことだよな?


「言ってなかった?この町で身分証発行したやつはみんな開拓者セトラーとして登録されるんだよ、偽ったりできないしな」

「それが開拓都市といわれる所以だったりしますね」

「これで自由に魔獣狩り放題だぞ」


二人が口々に話す。

まあ狩りはこれまでもしていたし、弱い魔獣をターゲットに細々と生きるのもありかもしれない。


「キュイ!」

「あっ!」


二人に様々なことを教えてもらっているとウリが退屈したのか籠から飛び出てきてしまった。


「あ?疾風猪ウィンドボアじゃねえか」

「ナオヤさんテイムしている魔獣がいるなら言ってくださいよ」


マリナが頬を膨らせて直也を咎める。


「ていうか!ウリって魔獣だったの!?」

「知らねぇで連れてたのかよ......」



******



「依頼を受けたくなったらいつでも来てくださいねー!」


マリナが協会ギルドの入り口まで来て送り出してくれる。

身分証も発行できたし素材を売ったおかげで当分の間は生活できるが、この先どうしたものだろうか。


「え?オイラーさんどちらへ?」


オイラーが何も言わずにの方へ歩いていく。


「あ?必要だろ、武器」



******



衛兵の言っていた通りだ。

南区画は浮浪者が多く、煙と器械油の臭いが充満している。


「ここだ」


そう言いながらオイラーが立ち止まった建物はトタンのような部分と厚い鉄壁がツギハギになったこぢんまりとした建物だった。


「オイラーさんここって......」

「ここか?ここは、エルノアで最も腕のある......」


オイラーは少し言い回しに悩むと自信ありげに言った。


鍛冶師スミスだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 08:00 予定は変更される可能性があります

異世界に迷い込んで得た唯一の精製スキル。使い道がわからん...... 鮎田 凪 @nagi-ay

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画