第8話 協会と魔法

 防壁に着いた直也は駐屯している衛兵の質問に答えていた。


「名前と身分証は?」

「名前はナオヤ、身分証は無くしたから再発行を兼ねて来た」


 ここら辺のシナリオは来るまでに考えていたし、言葉が通じることも前に並んでいた商人と衛兵の会話で確認済みだ。


「この町では開拓者協会セトラーギルドが役所の機能を兼ねてるから大通りをまっすぐ行くといい」

「ありがとうございます」

「それと、南区画は工業地帯で治安が悪いから気をつけろよ」

「キュイ!」


 親切な衛兵に直也とウリは元気に挨拶し、厚さ3メートルの壁に開いた門をくぐる。


「やっと町に来たぞ、ウリ!」

「キュイ」


 衛兵に聞いた情報によると、ここエルノアは人口2万人ほどの町でで、直径1.5キロの巨大な防壁で覆われている。

 俺が入った北門前には円形の広場があり、中央には水浴び場がある。

 家屋は北欧風な平屋が多く、高くても2階までしかない。

 町の中心までまっすぐ伸びる大通りには馬車が多く走っており、人々は活気ついている。


「!?」


 一歩進んだ瞬間に違和感を感じる。

 地面が石畳なのだ。

 文明すげぇ!と感心しつつ歩みを進める。


「まずは服だよなぁ」


 ウリは背中の籠に入っているのでさっきから感じるこの視線は直哉に向けられたものであるとわかる。

 それはそうだろう。今来ているのはボロボロになって伸びきった寝巻きなのだから。

 街行く人を見ると綿でできたシャツやズボンを着ている人が多いので路面の古着屋で適当な物を見繕う。

 門でウサギの毛皮を大量に買い取ってもらったのでお金には困らない。


「これ全部で大銅貨6枚ね」

「はい」

「ちょっと兄ちゃん外から来たのか?それ、ぼったくられてんぜ」


 会計を遮り声をかけてきたのは大柄で髭面の大男だった。


「え?」

「古着を上下2つずつ買って大銅貨6枚だぁ?相場は大銅貨2枚ってとこだろ」

「いやいや、それじゃあ元もとれないよ、大銅貨5枚だ」

「大銅貨3枚と銅貨5枚だ」

「よし乗った」


 男は華麗に値切りを始め最終的に半分近くまで価格が下がった。

 ここでのお金は銅貨、大銅貨、銀貨、金貨の順で高価になり、一般人は銀貨までしか見ることがないらしい。


「ほらよ、俺はオイラーだ」

開拓者セトラー?」

「おいおい開拓者セトラーを知らないって、出稼ぎに来たクチじゃねぇのか?」

「身分証の再発行と職を求めて......」


 開拓というくらいなのだから肉体労働なのだろう。オイラーも筋骨隆々だ。


「んじゃあ解説がてら付いてってやるよ」

「ありがとうございます!」


 親切なオイラーに甘えて開拓者協会セトラーギルドを目指す


「ここエルノアは開拓都市って呼ばれてるのは知ってるか?5年前に完成した都市でな、開拓者セトラーが人口の3割を締めている」

開拓者セトラーってなんですか?」

「あぁ、開拓者セトラーってのはその名の通り、人間がまだ踏み入ったことのない土地や住むのが難しい地域を開拓するんだ」


 オイラーが髭をなでながら話す。


「あとは狩りだな」

「魔獣!?」

「ああ、協会ギルドは人間以外の動物全般を魔獣って呼ぶんだよ誤解させてすまないな」

「動物も魔物なんですね......」

「魔法を使うヤツをデモン使わないヤツをビーストって言うんだ」


 なるほど。魔法の魔と獣を合わせて魔獣か。

 しかし、動物も魔法を使うとはさすがファンタジー。ウリも魔法が使えたりするのかな?

 そうこうしていると開拓者協会セトラーギルドに到着した。

 協会ギルドは円形の中央広場の真ん中に建っており、四方全ての大通りに繋がる入り口がある3階建ての建物だ。


「おい、見ない顔だな挨拶もできねぇのか!?」


 協会ギルドに入ろうとすると、少々やつれた20代の荒くれものが突っかかって来る。

 異世界の定番イベントキター!


「おい、聞こえねぇのかぁあ?」


 口が酒臭い。

 男は勢いで腰に下げた曲刀に手をかけるとオイラーが間に入ってくれる。


「こいつは開拓者セトラーじゃないぞ、役場に用があるそうだ」

「うるせぇ!」


 激昂した男がすると曲刀を抜き放つ。

 次の瞬間、オイラーは素早く腰を落とすと腰に巻いた布切れを払い、腰に下げたを握る。


『-麻痺雷パラライズ!』


 オイラーがそう叫んだ瞬間、男は気を失って倒れていた。


「これが......魔法!」

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