エルノアの掟編 

第7話 開拓都市エルノア

 ガサッ......


 滝と洞窟から南に20キロほどの山道を直也とウリは走っていた。

 食料や水の確保などもあり、ここまで3日もかかっていた。


「木の生え方がまばらになってきたな、そろそろ山からでるんじゃないか?」

「キュイ!」

「よっしゃー!!」


 似たような景色に飽き飽きしていた直也は首から下げた黒い石を握りしめると迂回することをやめ、木の根が隆起した走るのには向いていないであろう方向へ突き進む。

 しかし、木の根につまずき顔面を強打する未来は訪れなかった。


 ピキピキッ......!


 森では到底聞くこともないであろう音とともに直也の足元に50センチ四方の四角錐をひっくり返したような足場が生まれる。


「よっと」

「キュキュ」


 慎重気味に進む直也の後をウリがひょいひょいと進んでいく。

 考えなしに進んでいるように見えた直也だったが、大きい石が落ちているところめがけて進みながら石を変化させていたのだ。

 この足場は表面積を稼ぐために中空にするなどの工夫が施されている。


「うわぁぁぁあああ!!!!」

「キュー!!」


 調子に乗って盛大に転び、ウリが直也の背中にぶつかる。


「これは、すげぇや......」


 転んだ拍子にちょうど森を抜けた直也たちの目の前に広がっていたのは無機質な石積みの白亜の防壁。

 それは、だった。



 ******



「よぉ、相変わらず閑古鳥が大合唱してんな」

「うるさいなぁ!邪魔するなら来るなよ!」


 人様の住まいに入ってくる態度としては最悪の部類で話すむさくるしい髭面の男の名はオイラーという。

 オイラーはほぼ上裸に革製の肩当てをした身長2メートル近い大男だ。

 オイラー対してもぶっきらぼうな態度で叫ぶ目元に大きな隈をつくったワーカホリック気味な女性はサーシャだ。

 長い髪をひとつにまとめ、黒っぽいレンズの眼鏡をしている。


「客に向かってその態度かよ......武器のメンテナンスに来たんだよ」


 そういうとオイラーは担いでいた大きな斧を出す。

 布の巻かれた柄は湾曲しており、刃はサーシャの身長の半分ほどもある。


「なんだ、ボロボロじゃないか」

「最近は獣が山を下ってくることが増えてな」

「そりゃあご苦労なこった、お前ら開拓者セトラーさんよぉ」



 ******



「はぁ、もうむりぃ!」


 大きな食堂に併設された開拓者協会セトラーギルドのカウンターで叫んだのは新人サポーターのマリナだった。

 マリナをここまで追いやった存在。それは大量のである。

 本来は依頼をこなした開拓者セトラーが書くべき協会ギルドへの報告書なのだが、ガサツで字が書けるのかも疑われるような開拓者セトラーが書いてくれるわけもなく、サポーターが書くのが常識と化してしまっているのだ。


「もう辞めたいよぉ......」

「まぁまぁ、これサービスするから頑張りなって」

「うぅ、ありがど......」


 食堂のバーで働く幼馴染のステラに出してもらった果実水を一気に飲み干し、泣く泣く仕事に戻る。

 この先の労働人生に大きな不満と不安を抱えながら、今日もマリナは報告書作成に精を出すのだった。

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