第6話 森はファンタジー少なめ
「ウリ!そっち行ったぞ!」
「キュイ!」
生い茂る草木の間を小さな影が走り回る。
ここは急斜面になっており、スピードがついて制御ができなくなるように誘導する。
次の瞬間小さな崖となっていた地面に気づかずに3匹のウサギが飛び出してくる。
「はぁ!」
待機していた俺は刀を一振りして全てのウサギの首を落とした。
「よーし、そろそろ帰るか!」
「キュイ!」
この森来てからおよそ3ヶ月、俺とウリは獣を難なく狩れるようになっていた。
これまでウサギを狩り続けたおかげで石は灰色というよりは黒に近づきはじめ、刃渡り1.2メートル程ではあるが刀を作れるようになった。
刀はいわゆる日本刀スタイルで、片刃の反りがついた形をしている。
******
「ウリ、そろそろ山を出てみないか?」
「キュイ?」
「食料も貯まったし、この辺のことも知りたいし、人里を探そうと思うんだ」
そう。山の中で生活ができるようにはなったが不便なのに変わりはないし、なぜ俺がここにいるのかも知りたい。
「キュキュイ!」
「ありがとう」
ウリの元気な返事をイエスと捉えて出発までに準備すべきものを考えながら眠りについた。
******
出発前夜
「明日は日の出と同時に出るからよく寝ろよ」
「キュイキュイ」
ウリは日を増すごとに俺の言葉を理解するようになっている気がする。
コミュニケーションが取れる賢いイノシシでなければ孤独でおかしくなっていたと思うとウリにも感謝しかない。
俺達は火を消して眠りについた。
「ガヴヴルルァ......!」
「!?」
聞き覚えのある唸り声に俺は飛び起きた。
洞窟の入り口には黒い影、オオカミが立っていたのだ。
「キュウ......」
「大丈夫だ、俺が何とかする」
怯えるウリをなだめてから槍を手に取り、構える。
オオカミとは少なからず因縁がある。俺もこの3ヶ月で強くなったはずだ。ここで倒して成長を証明してやる!
「はぁぁああ!」
気合いの叫びを発しながらオオカミに突っ込む。
オオカミは上段を狙った初撃を躱して、距離を詰めてくる。
こうなると槍は不利だ。
そのまま噛み付いてくるオオカミを槍の柄で受ける。
やった!渡り合えてる!
そう思ったのも束の間、手元を見ると槍が砕かれていた。
「くそっ!」
俺はすぐさま刀に持ち替えて切り掛かる。
オオカミは俺の攻撃を巧みに躱しながらじわじわと体力を削ってくる。
「グァヴゥ!」
「ぐはっ......!」
不意をついたひと噛みに刀を弾かれ、左腕を噛まれてしまう。
上から押さえつけられているため身動きが取れない。腕もギリギリと音をたてて今にも砕かれそうだ。
「ぐっ......」
「キュイ!」
俺の腕に噛みついたまま不敵な笑みを浮かべて涎を垂らしてくる。
しかし大丈夫だ。もう勝った。
「おいおい、俺から武器を奪いたいなら空中にでも放り投げるべきだったな!」
「はぁぁぁああ!」
その瞬間、全ての精神力を右手に集中させる。
「ここの床も石だ、石は自由に形を変える!」
ザンッ......!
オオカミの首が床に落ちるのとウリが擦り寄って来るのはほぼ同時だった。
「どんなもんよ」
去勢を張る俺の近くの床にはちょうど刀の形をした窪みができていた。
******
「頭髪良し、髭よし、荷物よし!」
「キュイ!」
「じゃあ行くか」
オオカミを倒してから2時間ほど仮眠した後、俺たちは予定通り山を出るべく歩きはじめた。
「それにしても何なんだこの石」
「キュイ?」
「ほら今までは灰色だったろ?」
「でもこれは黄色いんだよ」
あのオオカミの石は黄色く、透き通っていた。
黒の石とも混ざらなかったため何なのかさっぱりわからないが使い道が見つかるかもしれないので黒の石と一緒に首からさげている。
「それじゃ行くか!人里へ!」
「キュイィイ!」
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